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弐:最恐最悪装備の魔王VS就活のダボダボスーツ装備勇者
一
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美鈴からはすぐに電話がきた。
「もしもーし、勇者どうしたの? 私に惚れたの?」
谷間の写メをお願いした件は心から謝罪し、リクルートスーツのシャツをアイロンしながら俺は言う。
「魔王が復活した」
「まっじ?」
「指紋と顔写真、そして乳首と太腿の写真をチラつかせ脅迫されている」
「いや、色々待って。色々待て」
それは一体何があったのか、全く状況が理解できないと言われた。
何から伝えればいいのか考え、正直にマッチングアプリのことと魔王の面接を伝えた。
「それって普通にコンシェルジュの面接じゃない?」
「ありえない。あの魔王だぞ? 俺が水浴びしていたら高確率で戦いに挑んでくる卑怯な奴だぞ」
「それはただの覗きだと思う。隣に女風呂あったのにねえ」
しみじみと昔を語られても困る。俺は今現在、何も能力もとびぬけたステータスも名誉もなにもない人間なのに、権力ある大人に脅迫されているんだ。
「うーん。ユウユウに明日会いに行くとか? 賢者、聖女、勇者は揃ってるよね。あとは剣士。あの脳まで筋肉、210センチ、89キロ、歩くだけで敵が逃げていくリアルモンスター。ケイビーがいれば揃うね」
確かにケイビーがいれば頼りになる。隣にいるだけで安心できるからな。
「あと一人、魔術使いのカミーユも」
「ああ……いたね。使い物にならなかったけど」
何をいうか。仲間に上も下もない。魔術に長けていたカミーユには助けてもらってばかりだったというのに。
「とりま、21時になりましたので、美鈴は眠ります」
「あ、おい」
お肌の曲がり角なんて言われて眠ってしまったら、どうすればいいんだ。
ケイビー。せめてケイビーぐらい明日再会できないだろうか。
絶望の中、パソコンの前で項垂れていたら携帯に着信が来た。
見ると登録していない携帯からの着信。拒否したかったがまさか魔王からかもしれない。
そう思い、恐る恐る電話を取った。
「もしもし」
『夜分遅くごめんね。就職課の間宮です』
「なんだ。間宮さんか」
良かった。魔王より数百倍良かった。
「こんな遅くにごめんね。さっき君が履歴書送った企業側から一刻も連絡してと、大学側のお偉いさまに連絡来たみたいでさ」
「構いませんよ。ええ。なんでしょう」
さきほど、そのお偉いさんに乳首の写真を送ったり、百万課金されたことは黙っておく。
『ママー、おれもでんわしたい』
ママ?
『ああ、ごめん。息子が電話で起きちゃって。こら、寝なさい』
間宮さん、結婚してお子さんもいたのか。驚いた。
「いえ。勤務時間外にすみません」
『いいのよお。明日、急遽面接したいって。すごいね。大学に送り付けて初の面接らしいわ』
だろうね。あの求人票は俺をあぶり出すための偽求人票だったんじゃないかって今では思う。
『ママ―、おれもでんわあ』
『啓彌(けいび)、だめでしょ。寝てなさい』
『リーヤー・ル・シャルル』
「ぶ!?」
思わず先ほど食べたおにぎりを吐き出してしまいそうになった。
いや、今、『リーヤー・ル・シャルル』って言った?
前世での俺の名前なんだけど、今、言った?
戸惑う俺に、電話の向こうの舌足らずな男の子は電話に出た。
『もしもし、お前、リンリンか』
この子ども。美鈴が前世でも使っていた俺の愛称をなぜ知っているんだ。
『悪い。今、ママの電話で把握した。魔王は現世で復活しているんだな』
「もしかして……。お前、世界最強の剣士、ケイビーか」
「如何にも、俺はケイビー・スリトン・スターニ。前世でお前の仲間だった」
ようやく。
ようやくまともに話が出来そうな相手が現れた。舌足らずな子どもみたいだけど。
「良かった。ケイビーにまた会えて。大変なんだ、俺、魔王に」
『すまん。俺はまだ齢4歳の保育園児なんだよ。身長も100センチもない』
な。
なんだってー。
なんて驚かない。可愛い声にうすうす気づいていたからね。
「もしもーし、勇者どうしたの? 私に惚れたの?」
谷間の写メをお願いした件は心から謝罪し、リクルートスーツのシャツをアイロンしながら俺は言う。
「魔王が復活した」
「まっじ?」
「指紋と顔写真、そして乳首と太腿の写真をチラつかせ脅迫されている」
「いや、色々待って。色々待て」
それは一体何があったのか、全く状況が理解できないと言われた。
何から伝えればいいのか考え、正直にマッチングアプリのことと魔王の面接を伝えた。
「それって普通にコンシェルジュの面接じゃない?」
「ありえない。あの魔王だぞ? 俺が水浴びしていたら高確率で戦いに挑んでくる卑怯な奴だぞ」
「それはただの覗きだと思う。隣に女風呂あったのにねえ」
しみじみと昔を語られても困る。俺は今現在、何も能力もとびぬけたステータスも名誉もなにもない人間なのに、権力ある大人に脅迫されているんだ。
「うーん。ユウユウに明日会いに行くとか? 賢者、聖女、勇者は揃ってるよね。あとは剣士。あの脳まで筋肉、210センチ、89キロ、歩くだけで敵が逃げていくリアルモンスター。ケイビーがいれば揃うね」
確かにケイビーがいれば頼りになる。隣にいるだけで安心できるからな。
「あと一人、魔術使いのカミーユも」
「ああ……いたね。使い物にならなかったけど」
何をいうか。仲間に上も下もない。魔術に長けていたカミーユには助けてもらってばかりだったというのに。
「とりま、21時になりましたので、美鈴は眠ります」
「あ、おい」
お肌の曲がり角なんて言われて眠ってしまったら、どうすればいいんだ。
ケイビー。せめてケイビーぐらい明日再会できないだろうか。
絶望の中、パソコンの前で項垂れていたら携帯に着信が来た。
見ると登録していない携帯からの着信。拒否したかったがまさか魔王からかもしれない。
そう思い、恐る恐る電話を取った。
「もしもし」
『夜分遅くごめんね。就職課の間宮です』
「なんだ。間宮さんか」
良かった。魔王より数百倍良かった。
「こんな遅くにごめんね。さっき君が履歴書送った企業側から一刻も連絡してと、大学側のお偉いさまに連絡来たみたいでさ」
「構いませんよ。ええ。なんでしょう」
さきほど、そのお偉いさんに乳首の写真を送ったり、百万課金されたことは黙っておく。
『ママー、おれもでんわしたい』
ママ?
『ああ、ごめん。息子が電話で起きちゃって。こら、寝なさい』
間宮さん、結婚してお子さんもいたのか。驚いた。
「いえ。勤務時間外にすみません」
『いいのよお。明日、急遽面接したいって。すごいね。大学に送り付けて初の面接らしいわ』
だろうね。あの求人票は俺をあぶり出すための偽求人票だったんじゃないかって今では思う。
『ママ―、おれもでんわあ』
『啓彌(けいび)、だめでしょ。寝てなさい』
『リーヤー・ル・シャルル』
「ぶ!?」
思わず先ほど食べたおにぎりを吐き出してしまいそうになった。
いや、今、『リーヤー・ル・シャルル』って言った?
前世での俺の名前なんだけど、今、言った?
戸惑う俺に、電話の向こうの舌足らずな男の子は電話に出た。
『もしもし、お前、リンリンか』
この子ども。美鈴が前世でも使っていた俺の愛称をなぜ知っているんだ。
『悪い。今、ママの電話で把握した。魔王は現世で復活しているんだな』
「もしかして……。お前、世界最強の剣士、ケイビーか」
「如何にも、俺はケイビー・スリトン・スターニ。前世でお前の仲間だった」
ようやく。
ようやくまともに話が出来そうな相手が現れた。舌足らずな子どもみたいだけど。
「良かった。ケイビーにまた会えて。大変なんだ、俺、魔王に」
『すまん。俺はまだ齢4歳の保育園児なんだよ。身長も100センチもない』
な。
なんだってー。
なんて驚かない。可愛い声にうすうす気づいていたからね。
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