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参、被害者で加害者で、今はただの恋に溺れた美形魔王で。

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「ここだ」
 てっきり高級高層マンションかと思えば、庭園のある大きな邸宅だ。まわりも一邸一邸、庭や壁で距離が保たれている。
「昨日はマンションを買ったって言ってなかった?」
「マンションはお前の大学から遠いから、カミーユに渡した」
 なんでカミーユに?
「誰が人が居た方が痛まないだろう。私の一族の別荘にする。日本に来たときように。紹介はしないが母親が違う別腹の兄弟がいる」
 別腹の兄がいるのに魔王がリョーナホテルの跡取りという事実に闇を感じて聞き流すことにした。
 高台の雛壇地らしく、旧伯爵、侯爵邸があったらしい。住み込みのコンシェルジュがいると説明され、庭園の池の向こうの竹林の先の館を指さされた。
 嫌だな。どうか魔王の前世の部下とかやめてくれよ。四天王とかいたじゃん。
 魔王が一切会わせてくれなかったけど、世界中で破壊活動してた悪の手先どもめ。
 美玲が四天王は全く話しが通じないが魔王の金魚の糞で、魔王の権力の上で胡座を掻いている馬鹿ばかりだと憤慨していたっけ。
「なにしている。これからは朝、直通の電話でコンシェルジュに電話すれば駅まで送ってくれる。一階は来客用のラウンジで、二階が私たちの愛の巣だ。それと……」
 ぴたっと足を止め、玄関の前で数秒固まってから「なんでもない」と言葉を濁した。
 なんだ。今、俺に紹介を辞めた場所があるのか? 三階とか?
 リムジンを停めて、運転手がこちらに小走りで走ってくる。
 リムジン内では運転席はシャッターが降りていたから分からなかったが、こちらも外国人かな。褐色の肌にコバルトブルーの瞳、そして魔王と並ぶと同じぐらい背が高い。
「ハジメマシテ。日本語、ちょっとといっぱいできる。何かあれば電話して。俺、ダニーの従兄弟で、ダリア。日本の文化大好き。よろしく」
「よろしくお願いいたします」
 爽やかに笑う。目も死んでいない。この人、本当に魔王の従兄弟なの。同じ血がながれているように見えない。
「じゃあ、俺、今から秋葉原いくから。用があるときはもう一人コンシェルジュいるから」
「もう一人!」
「二人体制24時間体制だよ。じゃあね」
 魔王と同じぐらい爽やかでイケメンなのに、美少女の萌えTシャツに着替えると、彼は左ハンドルのオープンカーで消えてしまった。
「まあ、あいつはお前に害がなさそうなので採用した。私にもお前にも興味が無いところがいい」
「なんとなくわかる」
 もっと高齢のコンシェルジュを想像していたから、フレンドリーで驚いた。
 あの人は、従兄弟が日本人の男と二人で住むってことも全く気にしていない様子だったし。




 気を取り直して中へ入ると、入ってすぐシャンデリアが輝くロビー。その左側の部屋は庭園が一望できるラウンジ、右側には温水プール。奥には「料亭か」と突っ込みたくなるようなキッチン。
 中央の階段をエスカレーターを上がって、二階の住居へ行くらしい。
 ほうほう。まるで俺は玉の輿に乗った生娘のようだ。
 王様の宮殿が懐かしくなるぐらいの高級な建物。おどおどする俺とは対照的に、魔王はなれた様子でエスカレーターを俺の手を掴みエスコートしながら上がる。
 これはマンションよりも、他人が入ってこないから余計に濃密な二人の時間をおくれてしまう。
 本当だったら、魔王の死んだ目を輝かせてくれる運命の相手とここに住めたかもしれないのに。魔王は、可哀想すぎるよ。
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