鎖の少年

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢

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3、

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「……変です。今日はなんだか、出そうにありません」

 プリメラは左手で自分の腹部をさすりながら、右手をお尻に当て、なんとも間の抜けた体制で声を震わせる。
 それに対し、クラウンは特に気にした様子を見せず答えた。

「まだ、緊張してる?」

「……そう、だと思います。普段は意識しなくても、すぐに貯まるのに……なんだか、変な感じです」

「そうなんだ。うーん……」

 クラウンは手に繋がった鎖をジャラと鳴らし、顎に手をやり考え事を始める。
 そして、何かを閃いたような表情を浮かべた。

「プリメラ。ちょっと、ここに座って」

 クラウンは自分の目の前を指差した。
 言われたとおりプリメラが座ると、今度は「向こうを向いて」とクラウンは自分に対して背を向けるよう、彼女に言葉で促す。

「わ、分かりました……」

 プリメラは戸惑いつつも、その言葉の通りに、正座した状態でクラウンに背を向ける。
 すると、クラウンはプリメラの腹部へと手を伸ばし、その腹を優しく撫でた。

「――ちょっ……!? クラウンさん!?」

 プリメラはクラウンの手を振りほどこうとして、「……あっ」と、声を漏らし、その動きを止める。
 撫でられている腹部に、ある感覚があったからだ。
 空気の塊。
 それが体の外へと出ようとするのを感じて、プリメラは体を強張らせる。

「大丈夫だよ。ここでは、恥ずかしいことではないんだ」

「はい。わかっては……いるのですが」

「嗅がせて、くれないかな?」

「――っ」

 クラウンの息が耳に触れ、プリメラは少しくすぐったそうに身を捩った。
 だが、それ以上の抵抗はせず、プリメラは深い呼吸をし、気分を落ち着かせる。

「本当に……いいんですか?」

「良いも悪いも、僕は、して欲しいって言ってるんだ」

「とても……臭いと思います」

 震える声で言うプリメラに、クラウンは「へえ」と、楽しげに笑いかけた。
 しかし、冗談で言っているのではないと、プリメラは眉を寄せ、困った顔をする。

「本当……なんです」

 プリメラの言葉に、クラウンは「そっか」と返す。

「まあ、臭いがどうかの話は置いといて」

「いえ、よくないです! 自分で言うのも恥ずかしいのですが、まるで……その、毒」

「――プリメラは、どうしたいの?」

 プリメラの言葉を遮り、クラウンは話を続けた。

「嫌なら、やめるけど?」

「……っ」

 クラウンの言葉に、プリメラは息を詰まらせる。
 それは、プリメラの中の特殊な思考による反応であり、そんな反応をしてしまう自分に対して、プリメラは羞恥心を覚えた。
 混乱するプリメラに、クラウンは落ち着いた口調で尋ねる。

「恥ずかしい?」

「…………」

「大丈夫だよ。恥ずかしさごと、僕が受け止めるから」

 真面目な口調で、何を言っているんだろう。
 そう思いつつも、プリメラはクラウンの言葉に安堵し、大きく息を吐いた。

「……ここは、不思議な場所ですね」

 プリメラは言いながら、お尻の方へと回していた右手を、おもむろにスカートの中へと潜り込ませていく。

「何が?」

 クラウンが訊くと、プリメラは晴れやかな表情で答えた。

「こんなおかしな気持ちを、あなたのような方に受け止めてもらえるなんて、夢のようです」

「大げさだよ。それに、おかしくなんかない。プリメラのような願望を持っている人がいたって良いと思うし、それを叶える場所があっても良いんじゃないかな」

「……ありがとうございます」

 プリメラは嬉しそうに言うと、

「――んっ」

 と、腹部に力を入れ、声を漏らす。
 すると、プリメラのお尻のほうからの方から、
 
 ~ プウッ

 空気の抜ける音と共に、高音が鳴ったのだった。

 + + + + + +

 とある一室。
 真っ赤な絨毯が敷かれたその部屋には、白い天蓋付きのベッドがあり、他には質のよさそうな木材で作られた家具や、大きな鏡などが置かれている。
 日の光が差し込む窓から、爽やかな風が部屋の中へと入ってきており、その窓辺でくつろいでいた黒髪の少女の、長い髪を揺らしていく。
 黒髪の少女の腕には鎖が巻きついており、何に使われるものなのか、部屋の中央から伸びている鎖の端を、少女は手に握っている。
 窓の外には、遠くに山々と木々が広がっていていて、少女は景色を眺めるでもなく、風を感じるように目を閉じていた。

「あらあら、かわいそうに」

 部屋には黒髪の少女以外に誰もいないのだが、誰かへと話しかけているように少女は呟く。

「……ああ、また。……やっぱり、見た目では判断できないわね」

 目を閉じたまま、少女は楽しそうに独り言を続ける。

「それに、音は可愛いけど……まるで毒ガスじゃない」

 少女はじゃらりと音を立て、手に掴んでいた鎖を手繰り寄せると、体内に流れる力――『魔力』を使い、回復系統の魔法発動の準備を始めた。

「――――」

 少女が何かを詠唱する。
 すると、魔力が鎖へとが流れ込んでいき、この部屋とは別の場所で、魔法は発動した。

「それにしても、あの子、何発出すのよ。……それに、普段は相当抑圧されていたのね。本当に……、クラウンってば、大丈夫かしら」

 心配そうに言いながらも、口元を綻ばせ、「……ふふっ」と笑い声を漏らす少女。
 楽しげな様子で、少女はあらゆる回復魔法を次々と、離れた場所にいる少年へとかけていった。
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