5 / 5
5、
しおりを挟む
レンガの屋根に、白い外壁。
手入れされた庭のある屋敷を、茜色の日が照らしている。
「ありがとうございました。とても素敵な時間を過ごせました」
プリメラは目の前にいる黒髪の少女に言う。
クラウンのいた部屋を出たところで待っていた黒髪の少女に、屋敷の外までお見送りをしてもらったのだった。
鉄柵に囲まれた敷地内には馬車が止まっており、プリメラはをその荷台に乗って帰るところである。
「そうですか。それはよかったです」
黒髪の少女はそう言って、柔らかく笑みを浮かべる。
「また、来てもいいでしょうか?」
「はい。是非、来てあげてください。クラウンも喜びます」
「……そうでしょうか?」
ここには自分以外にも、特殊なシチュエーションでしか欲求を満たせない女性が沢山来ると、プリメラは黒髪の少女から聞いていた。
自分はそんな中の、一人でしかない。
ほんのお遊びの関係であり、それが許される関係。
プリメラとクラウンの関係は、そんな線引きがされた、濃いのか薄いのかもわからない関係なのである。
次回来た時には、自分のことなど忘れいてしまっている、なんてこともあるかもしれない。
そのことを思って、ほんの少しだけ寂しさを覚えるプリメラに、黒髪の少女は言った。
「はい。プリメラ様のように綺麗な方でしたら、なおさらだと思います」
「お上手ですね。ありがとうございま……」
「――本心ですから。私も、またプリメラ様が来られるのを、ここでお待ちしております」
目の奥まで覗き込むような黒髪少女の真っ直ぐな視線に、プリメラは少し戸惑いを覚えながら口を開く。
「それって、どういう……」
「――プリメラ様」
黒髪の少女の声が、プリメラの思考を中断させる。
「早く帰りませんと、完全に日が暮れてしまいますよ」
「は、はい」
プリメラはぼんやりと返事をしながら、馬車の荷台に乗った。
「よろしければ、名前を……聞いてもいいですか?」
「私はルーア。ルーア・マキュレイと申します」
「ルーアさんですね。また来ますので、その時はまたよろしくお願いしますね」
プリメラは座席に腰を掛けると、黒髪の少女――ルーアに会釈する。
「はい、お待ちしております」
ルーアお辞儀をすると、馬のほうへ視線を向けた。
「それじゃあ、プリメラ様をお願いね」
しかし、そこに従者はおらず、
「……あいよ」
男性のような低い声で短く返事をしたのは、馬だった。
ルーアはプリメラに向き直ると、
「またここに来たい時は、“魔方陣”を使って連絡をしてください。ランスファが迎えに行きますから」
「はい。わかりました」
プリメラは返事をしながら、喋る馬を初めて見た時の驚きを思い出す。
その時は興奮のあまり、喋るけど無口な馬――ランスファに色々と尋ねすぎて、困らせてしまったのだった。
「すみませんが、よろしくお願いしますね」
「……あいよ」
プリメラの言葉に、ランスファは短くそれだけ言うと、走り出した。
「それでは、また」
遠ざかるルーアに、プリメラは手を振る。
ルーアは深くお辞儀をすると、
「……またね。プリメラ」
小さな声で呟き、笑みをこぼしたのだった。
+ + + + + +
プリメラが帰った後、ルーアはクラウンのいる部屋へと足を運んだ。
「入るわよ」
重厚な扉を開き部屋の中へ入ると、ルーアは拘束されているクラウンの元へと向かってく。
しかし、クラウンは無表情のまま、何の反応もせずに座っていた。
「あのね。プリメラって、お姫様なんだって」
クラウンの様子を気にすることもなく、ルーアは楽しげに話しながら、クラウンの右腕についている鎖を外す。
「可愛くて、憧れちゃうわ」
左腕も、同じように外していく。
「今日はね、お忍びで来てくれたんだって」
鎖は、クラウンの首や腰、足までも拘束しており、ルーアはそれらを外そうと手を伸ばす。
「本当に綺麗で、ドレスとか着たら、凄く似合うんだろうなあ。けど……」
足の拘束を外し、
「ふふっ。部屋に充満している残り香だけでも、凄い匂いね」
腰の拘束を外す。
「クラウンの苦しみは伝わってきてたけど、これほどとは思ってなかったわ」
最後に、首の拘束を外すと、
「どうだった? お姫様の、オ、ナ、ラ、の匂いは」
ルーアが訊いた瞬間――クラウンの体は電流が走ったかのように、びくっと一度大きく震えた。
「……ぁ」
「ん? 良いにおいだった?」
クラウンの漏れた声に、ルーアはわざとらしく首を傾げる。
すると、クラウンはしばらく口をぱくぱくさせながら、目に涙を浮かべだした。
「ふふっ、大げさ……でもないか」
何かを思い返す表情のルーア。
しかし、クラウンは話を聞く余裕も無い様子で、苦しそうに顔を青白くさせると、
「――――」
胃の中にあったものを吐き出してしまう。
「あらあら」
ルーアは苦笑いをすると、何かの魔法を詠唱し、発動させる。
すると、クラウンの吐いたものが唐突に消え、床は綺麗な状態に戻っていく。
それを見届けると、ルーアは膝立ちしてるクラウン頭に右手を乗せ、くるりと顔に背を向けた。
「けど、大丈夫よ」
ルーアは安心させるように、穏やかな声で言うと、
「……んっ」
唐突に、息んだ。
~ ムッ……スゥゥ……ゥゥ……ゥゥ
空気の抜けるような音が、ルーアのお尻の辺りから鳴る。
途端、クラウンの体が痙攣するように一度びくっと反応し、強張った体から、ゆっくりと力が抜けていった。
「あなたはただ、人形でいてくれればいいんだから」
ルーアはぐったりと横たわるクラウンの傍らに正座し、膝の上にクラウンの頭を乗せる。
「今日はこれでおしまい。お疲れ様、クラウン」
ルーアは穏やかな笑みを浮かべると、しばらくクラウンの頭を優しく撫で続けたのだった。
手入れされた庭のある屋敷を、茜色の日が照らしている。
「ありがとうございました。とても素敵な時間を過ごせました」
プリメラは目の前にいる黒髪の少女に言う。
クラウンのいた部屋を出たところで待っていた黒髪の少女に、屋敷の外までお見送りをしてもらったのだった。
鉄柵に囲まれた敷地内には馬車が止まっており、プリメラはをその荷台に乗って帰るところである。
「そうですか。それはよかったです」
黒髪の少女はそう言って、柔らかく笑みを浮かべる。
「また、来てもいいでしょうか?」
「はい。是非、来てあげてください。クラウンも喜びます」
「……そうでしょうか?」
ここには自分以外にも、特殊なシチュエーションでしか欲求を満たせない女性が沢山来ると、プリメラは黒髪の少女から聞いていた。
自分はそんな中の、一人でしかない。
ほんのお遊びの関係であり、それが許される関係。
プリメラとクラウンの関係は、そんな線引きがされた、濃いのか薄いのかもわからない関係なのである。
次回来た時には、自分のことなど忘れいてしまっている、なんてこともあるかもしれない。
そのことを思って、ほんの少しだけ寂しさを覚えるプリメラに、黒髪の少女は言った。
「はい。プリメラ様のように綺麗な方でしたら、なおさらだと思います」
「お上手ですね。ありがとうございま……」
「――本心ですから。私も、またプリメラ様が来られるのを、ここでお待ちしております」
目の奥まで覗き込むような黒髪少女の真っ直ぐな視線に、プリメラは少し戸惑いを覚えながら口を開く。
「それって、どういう……」
「――プリメラ様」
黒髪の少女の声が、プリメラの思考を中断させる。
「早く帰りませんと、完全に日が暮れてしまいますよ」
「は、はい」
プリメラはぼんやりと返事をしながら、馬車の荷台に乗った。
「よろしければ、名前を……聞いてもいいですか?」
「私はルーア。ルーア・マキュレイと申します」
「ルーアさんですね。また来ますので、その時はまたよろしくお願いしますね」
プリメラは座席に腰を掛けると、黒髪の少女――ルーアに会釈する。
「はい、お待ちしております」
ルーアお辞儀をすると、馬のほうへ視線を向けた。
「それじゃあ、プリメラ様をお願いね」
しかし、そこに従者はおらず、
「……あいよ」
男性のような低い声で短く返事をしたのは、馬だった。
ルーアはプリメラに向き直ると、
「またここに来たい時は、“魔方陣”を使って連絡をしてください。ランスファが迎えに行きますから」
「はい。わかりました」
プリメラは返事をしながら、喋る馬を初めて見た時の驚きを思い出す。
その時は興奮のあまり、喋るけど無口な馬――ランスファに色々と尋ねすぎて、困らせてしまったのだった。
「すみませんが、よろしくお願いしますね」
「……あいよ」
プリメラの言葉に、ランスファは短くそれだけ言うと、走り出した。
「それでは、また」
遠ざかるルーアに、プリメラは手を振る。
ルーアは深くお辞儀をすると、
「……またね。プリメラ」
小さな声で呟き、笑みをこぼしたのだった。
+ + + + + +
プリメラが帰った後、ルーアはクラウンのいる部屋へと足を運んだ。
「入るわよ」
重厚な扉を開き部屋の中へ入ると、ルーアは拘束されているクラウンの元へと向かってく。
しかし、クラウンは無表情のまま、何の反応もせずに座っていた。
「あのね。プリメラって、お姫様なんだって」
クラウンの様子を気にすることもなく、ルーアは楽しげに話しながら、クラウンの右腕についている鎖を外す。
「可愛くて、憧れちゃうわ」
左腕も、同じように外していく。
「今日はね、お忍びで来てくれたんだって」
鎖は、クラウンの首や腰、足までも拘束しており、ルーアはそれらを外そうと手を伸ばす。
「本当に綺麗で、ドレスとか着たら、凄く似合うんだろうなあ。けど……」
足の拘束を外し、
「ふふっ。部屋に充満している残り香だけでも、凄い匂いね」
腰の拘束を外す。
「クラウンの苦しみは伝わってきてたけど、これほどとは思ってなかったわ」
最後に、首の拘束を外すと、
「どうだった? お姫様の、オ、ナ、ラ、の匂いは」
ルーアが訊いた瞬間――クラウンの体は電流が走ったかのように、びくっと一度大きく震えた。
「……ぁ」
「ん? 良いにおいだった?」
クラウンの漏れた声に、ルーアはわざとらしく首を傾げる。
すると、クラウンはしばらく口をぱくぱくさせながら、目に涙を浮かべだした。
「ふふっ、大げさ……でもないか」
何かを思い返す表情のルーア。
しかし、クラウンは話を聞く余裕も無い様子で、苦しそうに顔を青白くさせると、
「――――」
胃の中にあったものを吐き出してしまう。
「あらあら」
ルーアは苦笑いをすると、何かの魔法を詠唱し、発動させる。
すると、クラウンの吐いたものが唐突に消え、床は綺麗な状態に戻っていく。
それを見届けると、ルーアは膝立ちしてるクラウン頭に右手を乗せ、くるりと顔に背を向けた。
「けど、大丈夫よ」
ルーアは安心させるように、穏やかな声で言うと、
「……んっ」
唐突に、息んだ。
~ ムッ……スゥゥ……ゥゥ……ゥゥ
空気の抜けるような音が、ルーアのお尻の辺りから鳴る。
途端、クラウンの体が痙攣するように一度びくっと反応し、強張った体から、ゆっくりと力が抜けていった。
「あなたはただ、人形でいてくれればいいんだから」
ルーアはぐったりと横たわるクラウンの傍らに正座し、膝の上にクラウンの頭を乗せる。
「今日はこれでおしまい。お疲れ様、クラウン」
ルーアは穏やかな笑みを浮かべると、しばらくクラウンの頭を優しく撫で続けたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる