悪役のミカタ

MEIRO

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はじまりまして

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 ――とんでもないものを手に入れてしまった。
 と――ヴェルゼの思考は歓喜で満たされいく。
 彼女には、特殊な性癖があった。
 ヴェルゼは――おならフェチなのである。
 ちなみに、女性が出したおならにだけ、彼女は興奮を覚えるらしい。
 そして、ヴェルゼであれば、その欲求を満たすことは、たやすいだろう。
 彼女は魔王軍きっての頭脳の持ち主であり、人当たりが良く、人望も厚い。
 なりふり構わなければ、何人かは喜んでその欲求に答えてくれるだろう。
 だが、彼女の中に、そのような選択肢はない。
 自分の欲求に、簡単には流されないところも、ヴェルゼの魅力なのである。
 しかし――今日は違った。
 彼女は――良い口実を、見つけたのである。
 そして、その口実について語る前に――。

 ……。
 ……。
 ……。

 彼女が最初に感じたのは――予感だった。
 ふと、それを脳裏に感じ、ヴェルゼは何かに誘われるようにして、大広間へと足を運んだ。
 恐らく――第六感というものだろう。
 彼女は得体の知れない感覚を覚えながら、大広間へ続く扉を開くと、そこにはいつも通り、この城の主である、魔王――ファーシル・シャイターンがいた。
 しかしそこには、いつもと違って、彼女の他にも人影があり、ヴェルゼはそちらへ視線を向けた。
 そこにいたのは、見知らぬ――人間の少年だった。
 魔族達が住むこの場所では、基本的に見かけることのない種別の生き物である。
 ひとまず彼が何ものなのかを、ヴェルゼはファーシルに訊いてみることにした。
 そして――。
 話を聞いたヴェルゼは、その口実を――見つけたのである。
 少年は、自分で魔力を生成することができないらしく、その魔力を蓄えるためには――女性のおならが必要とのことらしい。
 その真偽はさておき、その話を聞いて、ヴェルゼは――これは使える、とそう思ったのだった。
 つまり、困っている少年を助けるために――“しかたなく”女性のおならを集めている。
 と、ヴェルゼはそんな感じ理由を用いて、知り合いの少女達のおならを集め――もとい、嗅いで回ろうという、算段を立てたのだ。
 かくして、実行されたそのもくろみは――。

 ……。
 ……。
 ……。

「――さすがです! ヴェルゼさま!」

「見ず知らずの少年のために……。なんとお優しい……」

 二人の少女が、羨望のまなざしを、ヴェルゼへ向ける。
 そして、彼女達はどちらとも――魔族だった。。

「いえいえ、そんなことはありません。別に無償でやっているわけではないのですから」

「ほう……と、言いますと?」

 片方の少女――魔族の少女Aが訊く。
 それを受けて、ヴェルゼは「もちろんです」と頷いた。

「実はですね……その彼は――物凄い力を秘めているのです。だというのに、魔力がないというだけで、使うことができないだなんて、宝の持ち腐れというものです。――そこで、わたくしは考えました。ここで恩を売っておけば、魔王さまもお役に立てるかも――と考えたのです」

 その話に、魔族の少女Aが「なるほど」と相槌をうつと、もう片方の少女――魔族の少女Bも「さすが、ヴェルゼ様です」と納得するように言った。
 そんな二人へ、ヴェルゼは話を続ける。

「それで、嫌でしたら断っていただいて構いません。ですが、もしよろしければ――」

「ヴェルゼ様」

 魔族の少女Aが片手を前に出し、ヴェルゼの言葉をさえぎる。

「みなまで言わなくても、大丈夫です」

 すると、魔族の少女Bもそれに同意するように、口を開いた。

「さすがに今すぐにとはいきませんが、できる限り頑張ってみようと思います。なので、少々お時間いただけないでしょうか?」

「ふ、二人とも……」

 感動の表情を浮べるヴェルゼ。
 そんな彼女へと、二人はくるりと背を向けると、

「それで……お聞きしたいのですが……」

「どのようにしたら……いいでしょうか?」

 魔女の少女Aの言葉に、魔女の少女Bが続けて言う。
 やはり恥ずかしいのか、二人の頬は、ほんのり赤く染まっている。
 ヴェルゼはそんな二人を交互に見て、込み上げてくるもの感じつつも、深く呼吸をして、しっかりと感情を抑えてから口を開く――。
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