悪役のミカタ

𝐄𝐢𝐜𝐡𝐢

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はじまりまして

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「――おじゃまします」

 森谷はおずおずと、その部屋へ入った。
 玉座のあった部屋から移動した森谷は、ファーシルに、こぢんまりとした雰囲気の部屋へと案内されたのだ。

「ここがわたしの部屋だ、遠慮せず、適当な椅子に腰を掛けてくれ」

 ファーシルはそう言いながら、森谷からもらったたんぽぽの髪飾りをテーブルの上へ置くと、部屋の奥にあるベットの上に、腰を下ろす。

「っていうか、さっきのヴェルゼっていう人、張り切った様子でどこかへ行ったみたいだけど、別に、こんな時間に行かなくてもよかったんじゃないのか?」

 森谷はそう尋ねながら、部屋の中央辺りにある適当な椅子に座り、カーテンが開きっぱなしの窓から、外の景色へと目を向ける
 しかし、視界は暗く、ぼんやりとした森が広がるだけだった。
 白っぽい惑星の明かりが照らしているものの、それは月明かりほどではなく、弱々しく、木々へと降り注いでいた。

「まあ、ヴェルゼは優秀だ。考え無しに行動するやつではないし、心配はいらないと思うぞ? さっきはなんだか様子がおかしかったが、仕事はきっちりこなしてくれるだろう」

 ファーシルはどこか誇らしげに言う。
 その口振りに、森谷は安堵を覚えた。
 ヴェルゼにたいして、彼は少なからず胡散臭さを感じていたのだが、それは勘違いだったのではないかと、彼女への印象を改めたのである。
 と、そのときだった。

 * 【26】――【41】 *

「……ん? どうかしたか? アユミ」

 森谷の顔色を伺うように、ファーシルが尋ねる。

「いや。今――魔力が増えた感覚がしたんだけど……」

「ほう。さすがヴェルゼだ。仕事が速いな」

 ファーシルが関心するように言う。
 期待通りといった様子だ。

「いやいやいや、早いなんてもんじゃないだろ。あれからまだ、そんなに時間が経ってないじゃないか。それに内容が、アレなのに……」

「彼女はどうも人に好かれるようで、人望が凄く厚いんだ。もしかすると、そこらへんですれ違った誰かが、魔力の補充を引き受けてくれたのかもしれん」

「へえ……」

 確かに、彼女は美人で人当たりが良く、人から好かれそうな雰囲気をもつ少女だったな――と、森谷はぼんやりと、ヴェルゼのことを思い出す。
 それから、かけている眼鏡がやけに似合っていて、仕事ができそうだな――と彼は思った。
 と、そのときである。

 ――コンコン。

 部屋が外側からノックされる。

「すみません、魔王さま。スカルです。少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

 青年のような声が部屋の外から聞こえてくる。

「ああ、かまわん。とりあえず、入ってこい」

 ファーシルが扉の向こうに声をかけると、

「すみません。ちょっと、侵入者が入ったようで、その報告をしようと……」

 ガチャ――と扉が開き、入ってきたのは――骨の兵士だった。
 そしてその骨の兵士は、部屋に入るやいなや、森谷を見て呆然とする。

「ども……」

 森谷は軽い調子で挨拶した。
 どうやら、【言語理解】の力は骨の兵士の言葉にも適応しているようで、森谷の言葉に、スカルという骨の兵士は軽く会釈を返す。

「……これは、どういうことでしょうか?」

「なんだ。もしかして、面識があるのか?」

 ファーシルがスカルに訊く。

「ええ。先ほどまで――門の見張りをしていまして、そのときに……」

「――ああ。あんた、骨の兵士Aだったのか」

「骨の兵士……A?」

 スカルは首をかしげる。
 その反応は当然といえば当然だが、森谷からしてみれば、他の兵士との判別が見た目ではできないのだから、仕方のないといえば仕方がないことなのであった。

「ああ……いや、すみません。スカルさん、その――」

「いえいえいえ、こちらこそ。魔王さまのお客人とは露知らず、大変失礼いたしました」

 森谷の声に被せ、スカルは慌てたようすで首を横に振る。
 しかし、そんなふうに言われるような立場ではないと、森谷も同じように気を使った。

「そんな、気にしないでください。侵入者だったのは、その通りなんですから」

「えー……と。話が見えないのですが……、事情をお尋ねしても良いでしょうか?」

「すみません。……おれ、道に迷っていて、どうしようって……誰かに助けを求めようと、思わずここへ入ってしまったんです。誰かに断りを入れたかったのですが……勝手に入ってしまったのは確かで……すみませんでした」

 スカル問いに、森谷がそう言って頭を下げた。
 怒られるは承知の行動であり、森谷の表情に緊張が走る。

 * 【41】――【66】 *

 と、こんなタイミングに、森谷は魔力量の変動を感じつつ、どんなきつい言葉が返ってくるのだろうかと、目を閉じて待った。
 そんな彼の耳に――二人ぶんの笑い声が届く。
 森谷が反射的に顔を上げると、「し、失礼」とスカルが咳払いをし、それに続き、ファーシルがすまなそうな表情を浮べる。

「すまんな、アユミ。……けど、魔王の城に――お邪魔します、ってなんだかおかしくないか?」

「別におかしくないだろ。友人の家に行ったら普通に言うじゃねーか。まあ、こっちにはそんな文化がないのかもしれないけどさ……」

 むっとする森谷に――スカルは苦笑いの声をもらす。

「なるほど、そういうことでしたか。ならば、怯える必要はなかったのですね」

「っていうか、どうしておれが怯えられてたのか、さっぱり、わからなかったんだけど……ひょっとして、おれの中の、変な魔力が原因だったり?」

 ファーシルの言葉を思い出しながら、森谷は訊く。
 魔力を感じると、彼女は言っていた。
 だとするなら、自分の中にある底しれない力が、原因を作っていたのではないかとと、森谷は考察したのだ。
 しかし――

「いやいや。魔王さまじゃあるまいし、魔力を感じるなんてこと――できるわけないじゃないですか」

 スカルは苦笑いをもらしながら、当然のようにそう言う。
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