異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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炭鉱の街アスタリア

最奥部への道のり

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 崩落跡を越えて、俺たちは封鎖された作業層の入口へと歩を進めた。
 さらに奥へと進む中で徐々に空気の質が変わり始めた。
 ここまでも十分に重苦しかったが、それとは違う……感覚の深部を刺すような、理解の及ばない圧力が肌に張りつくようだ。

「ここからが、本当の始まりか」

 そうつぶやきながら、壁に沿って配置された古びたランタンの跡を目で追った。
 もう光はなく、苔と埃がこびりついた鉄枠が時折軋みをあげている。
 一定の光量がなくなった時点でホーリーライトを唱えていた。

 リリアが地図を確認しながら、小声で言った。

「この先、第二作業層に通じる搬送用の通路があるはず。でも……崩落で塞がれていたはずのところに、先週になって微かな空気の流れがあったと報告されています」

「そういうことなら、その奥に何かがあるってことだね」

 クリストフが軽く剣の鞘を叩く。
 彼の動きにはほとんど無駄がない。
 魔法こそ得意ではないが、気配に敏感で守りも的確だ。

 俺たちは慎重に通路を進んだ。
 道幅は入り口付近よりも狭くなっており、天井も少し低くなっている。
 ところどころ岩肌が露出し、補強材が折れている場所もあった。

「マルクさん、聞こえますか?」

 リリアの声が張り詰めていた。
 俺は緊張を覚えながら、周囲の様子に耳を澄ます。

 ……カサ……カサ……。

 動物の足音とは異なる音が聞こえた。
 細い何かが岩を這うような音。
 振り返ってクリストフと視線を交わして、即座に戦闘態勢に入る。

 だがしかし、何も現れなかった。
 音は一瞬で消えて、坑道の奥へと溶けていった。

「まるで、こちらを試してるみたいだ」

 俺の言葉に、リリアもクリストフも黙ってうなずいた。
 さっきまでいた魔鉱体とは違う。
 異界のものが、まだこちらを本格的に認識していない。
 俺はそんなふうに捉えた。

 やがて、目の前に大きな鉄扉が現れた。
 表面には古い警告文が掘られている。
 ところどころかすれているが、かろうじて読み取ることができる。

「封鎖作業層。許可なき立入を禁ず。崩落の危険あり」

 俺は慎重に扉を押した。
 錆びついた蝶番が軋む音を立て、わずかな隙間から冷気が漏れ出す。
 まるで地底の中にぽっかりと空いた異空間の入り口のようだった。

 中に入ると通路は広く、天井はずいぶん高い。
 どうやら、かつての作業エリアだ。
 落ちた資材、砕けた採掘器具、そして岩壁に空いた無数の亀裂が、時間の経過を物語っていた。

「地脈の裂け目……ここが中心かもしれません」

 リリアが厳かに言った。
 その声の中に理知的な冷静さと、ほんのわずかな恐怖が感じられた。

 すると、その時だった。
 身体の内側で何かが脈を打つ。
 魔力がまるで呼応するように揺れた。

「マルクくん……魔鉱体だ!」

 クリストフの叫びと同時に、足元の岩が砕けた。

 地面から現れたそれは、今までの個体とは比べものにならなかった。
 大きさ、密度、そして瘴気の濃度。
 異界の存在が姿を成しているかのようだった。

「二人とも下がって!」

 俺は即座に火属性の魔法を発動した。
 身体を流れる魔力が圧縮されて魔法の炎が繰り出される。

「――ファイアボール!」

 爆発と同時に魔鉱体の片腕が吹き飛ぶ。
 しかし、黒煙の中から再び現れたその姿は、傷を負ってなお、こちらをまっすぐに見ていた。

「……回復してる?」

 リリアが吐息のように漏らす。
 魔鉱体の裂け目から、何か不気味な光が脈打ち始めていた。
 まるで、地脈そのものから力を吸っているかのようだ。

「ここに長くいれば、奴らはどんどん強くなる。今、倒すしかない」

 俺はそう言って、一歩前へ出た。

 「二人とも、援護を頼みます!」

 クリストフが俺の横をすり抜け、敵の後方に回り込む。
 リリアが小型の閃光石を投げて敵の視界を遮った。

 ――よし、今だ。

「フレイムランス!」

 右手に集中させた魔力を一点に凝縮し、敵の中心――瘴気の核に向けて放つ。
 赤い閃光が洞窟の闇を貫き、炎の槍が一直線に飛んでいく。

 魔法が直撃して魔鉱体がもがくように体をひしゃげた。
 その反動で辺りに断片が飛び散る。
 その中に中心から砕けて崩れ落ちる黒い塊があった。

 それは、まるで異界そのものが形を持ったような残滓だった。

「……終わった、か」

 誰もすぐには動かなかった。
 坑道の奥から漂う瘴気は、まだ完全には消えていない。
 だが確かに、何かの入り口は閉じたようだった。

 リリアが、深く息を吐いて言った。

「……この層だけじゃないかもしれません」

「え?」

 彼女の言葉に我が耳を疑った。

「記録によると似た崩落事故が、東側の坑道でも……しかも、古文書にあった異界の門の言い伝えは、もともとこの地方一帯に残っているます。もしかしたら――これは広がった可能性も……」

 俺はその言葉の意味を噛みしめていた。
 無言のまま、足元の地面に視線を向ける。

「ここが閉じても、他が開きかけてるなら……まだ終わってないんだね」

 クリストフがぽつりとつぶやく。
 誰もその言葉を否定しなかった。

 俺たちは静かに頷き合い、坑道の奥をもう一度見つめた。
 この先に何があるのか。
 どこまで行けば、異変の本質に届くのか。

 今のところ答えはない。だが――。

「まずは次に備えよう」

 俺がそう言うと、二人も頷いた。
 坑道を流れる冷たい空気に不穏なものを感じながらも、ひとまず引き返すべきだと思った。
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