異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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炭鉱の街アスタリア

異界の入り口

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 封鎖されていた作業層への道を抜けた俺たちは、坑道の地上出入り口へと戻ることにした。

 魔鉱体との戦闘で体力を消耗していたのもあるが、何より情報と装備の整理が必要だった。
 地下の作業層に存在していたのは、明らかに自然の範疇を越えた異質な力であり、いま自分たちが手にしている手札では、それを真正面から打ち破るには力不足だった。

「上手く言葉にできないんだけど……魔鉱体はモンスターというより、何か別の存在に感じたよ」

 来た道を引き返す途中で、クリストフが水筒を口にしながら言った。
 魔鉱体がどういう存在であるか、あらかじめ古文書で知っていても、実物を見た後にそんな感想になるのは自然な反応だと思った。

「俺もただのモンスターじゃないと思います。あの硬さも動きも、そして……」

 俺は言葉を切って、坑道の暗がりを振り返る。

 先ほど接触した時に魔鉱体から溢れ出した微光。
 それはまるで、どこか別の世界の力を内包しているかのようだった。

「そういえば……」

 リリアが遠慮がちに口を開いた。

「地図を見ていて気づいたのですが、西側の坑道以外にも東側の坑道にも異変の兆候が出ているそうな。記録には載っていないものの、数日前から鉱夫の間で、掘削音とは別の奇妙な振動が伝わってくるという噂があったらしくて……」

「それって、報告はどうなったんですか?」

 冒険者として身についた習性だろうか。
 報連相の部分に思わず反応してしまった。

「正式にはされていないみたいです。あまりに突飛な話だったから、誰も真に受けなかったみたいで」

 リリアの返事を耳にして、俺は腕を組んで考えこんだ。

 西側で見たあの魔鉱体の存在。
 そして作業層にまで染み出していた異質な魔素。
 もし同じような現象が東側の坑道でも起きているとすれば、それは単なる局所的な異変では済まない――そういうことになる。

「となると……次は東側の坑道を調べる必要がありますね」

「危険は増しますが、今ならまだ対処できるかもしれません」

 リリアの言葉にクリストフも頷いた。

「補給も済ませた後で、早い方がいいよね。時間が経てば経つほど、後手に回る可能性が上がるから」

「よし、決まりですね」

 俺たちは坑道の入り口に戻り、鉱山の関係者に簡単な報告を済ませた。
 それから一番近くにある店で必要な品を補充した。
 こうして、すぐさま東側の坑道へ向かう準備を整えられた。

 東坑道は西に比べて新しく、整備が進んでいる。
 だがそのぶん、異常が発見されにくいという盲点もあった。

「ここから先、記録がありません。注意して進みましょう」

 リリアが地図を広げながら言った。

「何かあったら、すぐに戻りましょう。無理はしないように」

 俺たちは周囲を警戒しながら、坑道の深部へと進んでいった。
 途中、何度か分岐路が現れたが、リリアの地図と記録をもとに、最も最近掘削された区域を目指すことにした。

 深く進むにつれ、空気がかすかに変わっていく。
 湿り気と鉱石の匂いに混ざり、どこか血のような鉄錆のような香りが漂っていた。

「……これ、あきらかにおかしいです」

 リリアが立ち止まって、壁に触れる。
 生じた違和感に確信があるような動きだった。

「壁の岩肌が……溶けている?」

「いや、これは……」

 クリストフが手袋を外して岩肌を観察する。

「焼けたような跡で、高熱に晒された痕跡がある。自然のものじゃない」

「溶岩の影響はどうです?」

「それなら空気中の温度も上がってるはずです。でも、ここは冷たいまま。つまり……熱源は接触型。何かがここを焼いた」

 予測不能の状況を前にして、不穏な空気が流れる。
 さきほどの魔鉱体のような存在が、ここでも何かをしている可能性がある。

「気をつけていきましょう。何が出てもいいように慎重に……」

 俺の声に二人がうなずいた直後だった。
 遠くから「ゴゥン……」という低い音が響いた。

「……今の聞こえましたか?」

 リリアが小声で問いかける。
 その声は緊張の色を帯びていた。

「聞こえた。岩の崩れる音……いや、違う。もっと規則的だ。まるで、鼓動のような……」

「おそらく、何かが動いてる音のようにも」

 俺たちは言葉を交わすのをやめ、音のする方向へと足を進めた。
 やがて、坑道の先にぽっかりと開けた空間が現れた。
 もとは掘削作業に使われていた広場のような場所だろう。

 そして、その中心にそれはいた。
 巨大な石の塊のような影。
 だがそれはゆっくりと蠢き、まるで生き物のように体勢を変えた。

「魔鉱体……よりも、さらに大きい……?」

 リリアの声が震えた。
 彼女の戸惑いは十分に理解できる。

「あれは魔鉱体なのか……」

 石の表面には光が走っていた。
 魔力の流れというよりも、何かの意思が浮かんでは消えているような――そんな錯覚を抱かせる光。

 突然、それがこちらに向かって身体を動かし始めた。

「まずい、気づかれた!」

 俺が叫ぶと同時に、巨大な腕のような突起が俺たちに向かって振り下ろされた。

 リリアとクリストフはすばやく横へ跳ぶ。
 その動きは見事で、体術にも長けた二人の回避能力は伊達ではなかった。
 だが、問題はその硬さと威圧だ。

 俺は一歩踏み出して、指先に魔力をこめる。
 先ほどの戦いと同じように構造を見極め、一撃に力を集中させる。

「はあっ!」

 雷光が閃き、魔鉱体の腕をかすめた。
 だが、予想以上に硬い。

「こいつは……さっきのよりも格が上か!」

「でも、効いてはいます! あと何度か叩けば……!」

 リリアが距離を保ちながら声を上げる。
 クリストフは飛び道具で牽制を続けていた。
 器用さを活かして投石とかく乱する動きで時間を稼いでくれている。

「今です! マルクさん!」

 リリアの声とほぼ同時に俺は再び跳躍した。
 一撃必殺の狙いをもって威力を高めた魔法を放つ。
 稲光が坑道を照らすように光り、敵目がけて一直線に走った。
 
 今度こそ手応えがあった。
 金属を砕くような衝撃が走り、魔鉱体の表面がひび割れた。
 その瞬間、背後の壁に異変が起きた。

 ひとりでに裂けたかのように空間がゆらいで、亀裂が広がっていく。

「なんだ……?」

 そこには、坑道とは異なる、異様な景色が垣間見えていた。
 赤黒く染まった空、逆巻く雷の光。
 現実とは明らかに違う、どこかの異界が口を開いていた。

「まさかあれが、異界との繋がり!」

 リリアが大きな声を上げた。
 そして、前を見据えたまま俺とクリストフに呼びかける。 

「ここが現象の中心かもしれません!」

「まずは、こいつを倒してから!」

 異界の裂け目からは、低いうなり声のような音が流れこんできた。

 俺たちはその音を背にしながら、魔鉱体との戦いに集中する。
 この坑道の異変は、まだ始まりにすぎないのかもしれない。

 俺はそう感じながら、魔力の残量を確認して戦いに備えた。
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