異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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幼い二人と錬金術師

二人の事情

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 商隊のリーダーの話では、セドは十才でミレアは六才とのことだった。
 大型のコボルトの撃退に成功した俺は三人で移動することにした。
 旅慣れた俺ならばいざ知らず、幼い兄弟の足ではそこまで距離は稼げない。

 カルンの手前まで来たところで日が暮れたため、無理はせずに野宿を決めた。
 簡易的な設営をして、あらかじめ携帯していた食料で夕食を済ませた。 

「どうして、こんなところになったんだ?」

 焚き火の光に照らされた少年の表情がわずかに揺れた。
 どう話すべきか迷っていることが伝わってきた。

 俺は急かさず、黙って待つことにした。
 幼い妹に寄り添ったまま、セドはしばらく視線を落としていた。
 それからぽつりと口を開いた。

「……ぼくたち、逃げてきたんです」

 ある意味、予想できる答えではあった。
 ただ、追われているにしてはあまりにも準備が足りなすぎる。
 背負い袋すらない。水袋も見当たらない。
 しかも、子どもふたりだけで街道を越えてここまで来たとは――どう考えても無理がある。

「君たちは、どこから逃げてきた?」

「フォレビアの外れの村からです。ずっと山の仕事をしてたんだけど、ある日、村に兵士みたいな男たちががやってきて……」

「兵士?」

 浮かんだ疑問がそのまま声に出てきた。
 暗殺機構のあったベルンの兵士ならともかく、近隣に村を襲うような不届き者はいあにはずだ。

「……たぶん、普通の兵じゃなかった。腕に黒い布を巻いてて……剣を抜くのにためらわなかった。村の大人たちが逆らったら……」

 言葉を切ったセドの目が、火を映して暗く沈む。
 思い出すだけで辛いのだろう。
 前を見据えて黙ったまま、妹の髪をそっと撫でていた。

 俺はあえて続きを促さず、かわりに問いを挟んだ。

「連れて行かれたのか……君たちの親も?」

 セドはこくりとうなずいた。
 彼の動きからはその事実を認めたくないという葛藤が感じられた。

「父さんは最初に斬られて……母さんは、連れて行かれた。理由は分からない。でも、あいつら、村の人たちを無差別に斬ってた……。ぼくとミレアは裏山に薬草を採りに行ってて……それで、助かった」

 震えるような声。
 だが、虚偽の類は感じられなかった。
 焚き木の焼ける音だけが、辺りに小さく響いていた。

 ミレアは目を閉じたまま、兄の腕の中で呼吸を続けていた。
 その小さな胸が上下するのを見ながら、俺は気づいた。

「妹は……君みたいな兄がいてよかったな」

 俺がそう伝えると、セドはそっとミレアの髪を撫でた。
 彼女は毛布に包まれたまま、小さな呼吸を繰り返している。

「ぼくが……守るって決めたんです。どんなことがあっても。だから、あの村から逃げたのもミレアがいたからで。もし一人だったら……」

 そこまで言って、セドは口を閉じた。
 最後まで言わずともその続きを察することができた。
 逃げることすら、しなかったかもしれない。
 
 セドはまだ、ほんの少年だ。
 それでも、弱さを抱えた誰かを守ろうとする決意が感じられた。
 意志の強さを感じる目には光が宿っている。 

 そんな少年のことを見ていると、ふと浮かんだ疑問を投げかけたくなった。

「自分に魔法の素質があるって気づいてる?」

 端的に問いかけると、セドは一瞬だけ戸惑ったように目を伏せた。
 どう答えるべきか考えるような間があった。

「少しだけ……。村の手伝いで火を灯すうちに、自分でも気づいて。でも、教えてくれる人はいませんでした」

「誰にも?」

「村には、もう魔法を使える人がいなくて。昔は父さんが火の魔法を使ってたらしいけど、それも十年以上前の話で……」

「なるほど、火の魔法」

 焚き火の炎が静かに揺れた。
 どうやら、セドは魔法が使えることを持て余しているようだ。
 しかし、彼の内側に魔力の脈動が感じられる。
 魔力探知ができたことで、コレット師匠の特訓が実を結んだことを実感した。
 
 焚き火の外に広がる闇を見やる。
 夜の風が平原の奥から吹き抜け、草を思わせる緑の匂いを運んできた。
 この道を東へ抜ければ、交易都市ソレディアへと続く街道に出る。
 だが――。

「……カルンに戻る」

 その言葉は、自分でも驚くほど自然に出た。

 セドが目を見開く。「えっ、でも……」

「このまま東へ抜けたとしても、君たちが頼れる人が見つかるか分からない。それに今の話が本当なら、村だけの問題じゃない。黒布の兵士ってのは聞いたことがない。どうにも妙な話だ」

「でも、ぼくらが行ったら……迷惑になるかもしれないし……」

「それは、俺が決める」

 徐々に迷いが小さくなり、きっぱりと言った。
 セドの口が何か言いかけて、結局言葉にならず閉じられた。
 ミレアの頬に手を当てながら、年相応の幼い顔で目を伏せる。

 その姿を見た瞬間、ふいに胸の奥に違和感が生じた。
 けれども、俺には妹なんていない。
 過去に誰かを連れて逃げた記憶もない。
 転生前にも心当たりがなく、セドとミレアの境遇に同情を覚えたと納得した。

 焚き火の薪が、ぱちんと音を立ててはぜた。
 赤と橙の炎が夜風に揺れている。

「……恩を売るとしよう。少年、いずれ返すんだ」

 あまり深刻にならないようなトーンで言った。
 セドの様子を窺うと小さくうなずいた。
 ほっとしたような、けれどどこか居心地の悪そうな表情で。

 それからしばらくして、セドも眠りについた。
 今日は色んなことがあったので、疲れているのだろう。 

「……コボルトの心配は不要か」

 ここは平地で森から離れている。
 それに野生動物の性質があるコボルトは火を恐れる。
 俺と兵士に圧倒されたのに人に近づく可能性は低い。

 冒険者の頃に野営をした頃をなつかしく思いながら、夜が更けて朝の気配が近づくのを待った。
 
 やがて、遠くの空に夜明けの気配が近づいた頃。
 俺は荷をまとめミレアを毛布でくるんで背負った。

 森を抜けて谷沿いの獣道を下るルートを選んだ。
 街道を迂回するため足場は悪いが、目立ちにくい。
 カルンまでは早ければ今日中に到着できる。

 セドをもう少し眠らせてやりたかったが、眠そうな目をこすりながら文句ひとつこぼさずについてきている。
 黒布の兵士というのが街道をうろついているとは考えにくいものの、兄妹を探し回っている可能性も否定できなかった。 
 
 明け方の薄明かりが木々の上から差し始めた。
 谷道は暗いままで足元に石が転がっている。

 ミレアは眠ったままだが、その小さな体からは温かな命の気配が伝わってくる。
 特別な力なんてなくても、誰かにとっては何よりもかけがえのない存在だ。

 これは、ただの偶然じゃない。
 たぶん、もっと大きな何かの始まりだ。
 それが何かは、まだ分からない。

 だが――その答えに辿り着くまで、もう少しだけ歩いてみようと思った。
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