異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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新たな始まり

エスカと思わぬ再会

「――っ、シルバーゴブリン!?」
「待て待て、手を戻せ!」

 腰の辺りに手を伸ばした瞬間、ハンクの声が飛んできた。

「は、はい……」

 ただならぬ様子に思わず動きが止まった。

「こっちに敵意があるかを探ってる。剣なんか抜いたら襲いかかってくるぞ」

 周囲に感じた気配はシルバーゴブリンということなのもしれない。
 奇抜な方法で呼び寄せるのはいいが、これからどうするつもりなのだろう。
 息を吞んで状況を見定めていると小さな人影が近づいてきた。

「ニンゲン、ナニカ用カ?」
「酒と食い物を持ってきた。あんたらのキャンプに連れてってくれ」
「オマエ、殺気ナイ。ツレテイク」

 その名の通りに白みがかった銀色の体色。
 衣服を身につけた姿はゴブリンらしからぬように感じられた。
 シルバーゴブリンは後ろを振り向き、どこかへ案内するように歩き出した。

「ゴ、ゴブリンが喋って……」
「そのうち慣れる。絶対に武器に手を伸ばすなよ」
「分かりました」

 震える手のひらに汗がじとりとにじんでいた。

「こいつはおれの子分だ。一緒に連れてってもいいか」  
「コブン、ワカッタ」

 シルバーゴブリンはこちらを一瞥するが、気に留めていないような雰囲気だった。
 自分は子分ではないのだが、ハンクの作戦に乗ることにした。

 徐々に森の暗闇は深まり、決して歩きやすい足場ではない。
 にもかかわらずハンクとシルバーゴブリンは歩き慣れたような足取りだ。
 彼らの背中を追いつつ移動した先で驚くような景色が広がっていた。

 ゴブリン同士が焚火を囲んで魚を焼いている。
 木と葉を組み合わせたテントめいたものが設置されているかと思えば、弓の手入れや剣の訓練をしている光景も目に入った。
 不思議なことに敵であるはずの人間がいるというのに興味がなさそうだった。

「どうだ? 驚いただろ」
「いやもう本当に……」

 外見がゴブリンというだけで人間と大差ないような文化がある。
 粗末な武器で飛びかかってくる、典型的な緑色のゴブリンとはまるで違うようだ。
 ハンクは先ほどのシルバーゴブリンに手土産の酒瓶を手渡した。 
 
「長老にそれを渡して呼んできてくれ」
「ニンゲンノ酒、チョウロウヨロコブ」

 シルバーゴブリンは瓶を両手に抱えてどこかに歩いていった。

「長老なんているんですね」
「ホブゴブリンというより町長とかの方が近いイメージだな」
「それってもはやゴブリンでは……」

 俺とハンクが話していると杖を突いたシルバーゴブリンがやってきた。
 
「人間が来るとは珍しいのう。何の用じゃ?」
「少し前に冒険者が攻撃してきただろ? あれを引き下がらせてあんたたちの安全を約束する。その代わりに人里から離れてくれないか」

 長老はゴブリンというよりも知性を備えた老人のような雰囲気だ。
 ハンクの要求を聞いた後で長老は何かを考えるように黙っていた。

「正直に言おう。人間なんて怖くないんじゃぞ」
「そりゃそうだ。分かってる」
「ただ……おぬしはあれじゃな。注意すべき人間の特徴を全て網羅しておる。あんまり戦わん方がいいのかもしれん」
「こっちも戦う気はねえぞ。それにタダでとは――」

 ハンクはカバンから食料を取り出して並べていった。
 長老はそれを吟味するように手を伸ばす。

「干し肉、乾燥穀物、固チーズ……あとはさっきの酒かのう」
「悪くない話だろ」

 ハンクは自信ありげに言った。
 
「ところでおぬしたち、ヤキニクって知っとる?」
「「えっ!?」」

 俺とハンクは同時に声を上げた。

「行商人から聞いた話では切った肉を鉄板に乗せて焼く料理らしいのう」

 長老からは浮かれるような雰囲気を感じた。
 シルバーゴブリンがグルメというのは本当の話だったのか。

「まさかとは思うが……そのためにキャンプごと出張(でば)ってきたのか?」
「んん? いかんのかい?」

 長老の言葉を前にしてハンクは戸惑いを露わにするような表情になった。
 もしかして、俺が何かやっちゃいました?

「長老の希望は承知した。焼肉が食えればいいんだな」
「そうじゃな。シルバーゴブリンは信用が一番じゃからのう」
「でもあれか……牛肉がねえか。豚肉でもそれっぽい料理はできるか?」

 責任を感じて会話に加わらずにいたが、逃げるわけにはいかないようだ。
 ハンクの質問に答えるべく頭を働かせる。

「……できます。ていうか、豚肉があるんですか?」

 この世界にイノシシはいるが、家畜化した豚を見たことがない。

「あんたらの豚を分けてもらえばできそうだ」
「そうじゃのう。好きにしとくれ」

 長老は焼肉で頭がいっぱいのようで上の空だった。
 ハンクは別のシルバーゴブリンに話しかけて何かを確認している。

「豚を一頭連れてきてくれるってよ」
「そうですか」

 いまいち話についていけていないが、豚の焼肉を食べさせればいいということか。
 成り行きを見守っていると約一メートルぐらいの豚が連れてこられた。
 しっかりした牙が生えていてもイノシシほどの野性味は感じられない。

「シルバーゴブリンが育てた豚、通称イベリア豚だな。イベリアはどこかの地名だったか」 

 豚は逃げないように固定されているものの十二分に元気だった。
 その姿を見ていると抵抗感が湧いてくる。

「せっかくなんですけど、解体できません」
「おれはできなくねえが、焼肉用に捌く自信はねえな」

 その場で困り果てていると誰かが歩いてきた。
 他にも人間がいることを不思議に思いながら視線を向けた。  

「……エスカ?」
「あれ、マルクさんじゃないですか」

 俺とエスカは意外な場所で再会を果たしたのだった。
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