41 / 555
アデルとハンクのグルメ対決
希少モンスターの乱獲
しおりを挟む
やがて夜が深まり、通りを歩く人の気配がなくなった頃、レオンは口を開いた。
「少し離れているが、メルツ共和国のアストという町は分かるか?」
「アストか。名前ぐらいは聞いたことがある」
バラムからはずいぶん離れていて、どんな町なのかはすぐに思い出せなかった。
「そこのギルドが悪質でな。ツノネズミの乱獲をしている」
「それはやっぱり、角が目当てなのか」
「ああ、削った粉末は万病に角を加工すれば用途は多岐に。価値があることでツノネズミが狙われた」
レオンの話が十分に理解できなかった。
自然保護組合という組織が国家をまたいで機能しているはずなので、乱獲が許されるとは信じがたい。
「自然保護組合が目をつけないか?」
「その説明がまだだったな。僕が組合からアストのギルドを監視するように依頼を受けた」
「ここまでのの流れで狙われる理由が読めないな」
自然保護組合は比較的大きな組織でレオンを保護しそうなものだ。
「簡単に言えばトカゲのしっぽ切りをされたことになる。雇い主は暗殺機構とぶつかりたくないらしい。僕一人が消されて、それでなかったことにしようとしている」
「……なんだそれは」
あまりにひどい話に怒りを覚えた。
組合が本腰になればレオンを守る冒険者を雇うこともできるはずなのに。
「仕方がないんだ。アストの規模の町で暗殺機構を雇うとは誰も予想できない。ツノネズミで得た利益は想像以上だったんだろう」
刺客に狙われ続けて精神がすり減っているように見えた。
レオンの声は生気が薄れたように感じられる。
「その刺客に見つかる前に……ハンクに会わせる」
「Sランク冒険者が見ず知らずの者のために戦うとは思えない」
「いや――」
そう言いかけたところで近くに人の気配を感じた。
「わりぃわりぃ。ワインの様子が気になって立ち聞きしちまった」
「……ハンク」
店の入り口にハンクが立っていた。
どこから話を聞いていたのだろう。
「レオン、あの人が『無双のハンク』だ」
「まさか、本物……」
レオンは信じられないといった様子で何度か瞬きをした。
「暗殺機構が相手なら力を貸すぜ。根本的にあいつらが気に食わねえからな」
「今度はメルツ共和国の町ですから、おそらくイリア以外の剣士ですね」
「距離が離れすぎだからそうだろうな」
俺とハンクの見解は一致していた。
「……あなたが戦う理由がよく分からない」
レオンはまだ戸惑いが消えない様子だった。
「おれはあいつらが気に入らねえし、腕試しがしたいだけだ。お前のためじゃないから、そこは気にすんな」
ハンクは気さくな態度で言った。
レオンは理解が追いつかないようで戸惑いの色が顔に浮かぶ。
「とりあえず、よかったじゃないか。これで何とかなりそうだ」
「僕は逃げることだけしかできなかったが、無双のハンクなら何とかなるのか……」
レオンはそう言った後、どさりと机に突っ伏した。
「彼は追跡されていたみたいで、疲れていると思います」
「暗殺機構に狙われたらそうなるわな。今晩はおれも残るぞ」
ハンクはそう言うと店の外にある椅子を持ってきて腰かけた。
「ちょっと外の空気を吸ってきます」
「警戒は怠るなよ」
「はい」
出入り口から店の外に出ると空気が冷たく感じた。
星の浮かぶ夜空にはゆっくりと薄い雲が流れている。
ハンクに言われた通り、周囲に注意を向けたが、目立った異変を感じなかった。
俺はしばらく夜風に当たってから店の中に戻った。
「それにしても、アストのギルドもあくどいことをしやがるな」
「ツノネズミの話も聞いてたんですね」
「だいたいな」
話の腰を折らないようにしてくれたのはハンクなりの気遣いなのだろう。
「安請け合いしないはずだが、エバンも含めて暗殺機構が顔を出すようになってるな」
「本当にそうですね。冒険者をしていた頃は噂話だけで実在しないと思ってました」
「ベルンは産業が少ないからな。用心棒を収入源にしようとしてるのかもしれん」
そこかしこでイリアのような暗殺者が闊歩するようになれば危険な気がする。
「刺客を何人か撃退したら暗殺機構も少しはおとなしくなるだろうって」
「それは頼もしい」
俺は話に区切りがついたところで温かいお茶と軽食をハンクに用意した。
自分にも同じお茶をカップに注いだ。
二人で言葉を交わしてすごしていると次第に夜が明けてきた。
やがて外が十分に明るくなった頃、レオンが目を覚ました。
簡単な朝食を彼に出して食べ終わった頃に三人で話し始めた。
「調子はどうだい。少しは休めた?」
「……まあ、多少は」
レオンの目の下にはくまがあった。
ここしばらく十分に眠れていないのだろう。
「レオンだったか、暗殺機構の刺客は振り切れたと思うか?」
「……おそらくは」
レオンの返事は歯切れの悪いものだった。
「アストの拠点を偽装して時間を稼げたと思う。ただ、常に追われているような気配があった」
「暗殺機構は戦闘以外の諜報や追跡は得意なんですか?」
「おれの知る限りでは得意だと思う。レオンのだいたいの位置ぐらいは把握してるんじゃねえか」
「そうなのか……」
レオンはハンクの言葉を聞いて顔を伏せた。
「町の中にいると目立つから、周辺に潜伏してる可能性は高そうだな」
「それは分かりましたけど、これからどうするんですか?」
「いい質問だな。真っ昼間に町を突っ切ることはねえだろうから、先手必勝で、こっちから探りを入れるつもりだ」
ハンクは自信ありげな表情だった。
彼のそんな様子をレオンは不思議そうな顔で見ていた。
「俺が手伝えることは少ないですけど、任せちゃっていいんですか?」
「そうだな。ちょっくら行ってくる」
ハンクは散歩にもで行くようなノリでどこかへ歩いていった。
「……彼は大丈夫なのか」
「ハンクを倒せる人間なんてほとんどいないはず。信じて待てばいいさ」
レオンは不安そうに見えたが、俺はハンクならどうにかできると確信していた。
「少し離れているが、メルツ共和国のアストという町は分かるか?」
「アストか。名前ぐらいは聞いたことがある」
バラムからはずいぶん離れていて、どんな町なのかはすぐに思い出せなかった。
「そこのギルドが悪質でな。ツノネズミの乱獲をしている」
「それはやっぱり、角が目当てなのか」
「ああ、削った粉末は万病に角を加工すれば用途は多岐に。価値があることでツノネズミが狙われた」
レオンの話が十分に理解できなかった。
自然保護組合という組織が国家をまたいで機能しているはずなので、乱獲が許されるとは信じがたい。
「自然保護組合が目をつけないか?」
「その説明がまだだったな。僕が組合からアストのギルドを監視するように依頼を受けた」
「ここまでのの流れで狙われる理由が読めないな」
自然保護組合は比較的大きな組織でレオンを保護しそうなものだ。
「簡単に言えばトカゲのしっぽ切りをされたことになる。雇い主は暗殺機構とぶつかりたくないらしい。僕一人が消されて、それでなかったことにしようとしている」
「……なんだそれは」
あまりにひどい話に怒りを覚えた。
組合が本腰になればレオンを守る冒険者を雇うこともできるはずなのに。
「仕方がないんだ。アストの規模の町で暗殺機構を雇うとは誰も予想できない。ツノネズミで得た利益は想像以上だったんだろう」
刺客に狙われ続けて精神がすり減っているように見えた。
レオンの声は生気が薄れたように感じられる。
「その刺客に見つかる前に……ハンクに会わせる」
「Sランク冒険者が見ず知らずの者のために戦うとは思えない」
「いや――」
そう言いかけたところで近くに人の気配を感じた。
「わりぃわりぃ。ワインの様子が気になって立ち聞きしちまった」
「……ハンク」
店の入り口にハンクが立っていた。
どこから話を聞いていたのだろう。
「レオン、あの人が『無双のハンク』だ」
「まさか、本物……」
レオンは信じられないといった様子で何度か瞬きをした。
「暗殺機構が相手なら力を貸すぜ。根本的にあいつらが気に食わねえからな」
「今度はメルツ共和国の町ですから、おそらくイリア以外の剣士ですね」
「距離が離れすぎだからそうだろうな」
俺とハンクの見解は一致していた。
「……あなたが戦う理由がよく分からない」
レオンはまだ戸惑いが消えない様子だった。
「おれはあいつらが気に入らねえし、腕試しがしたいだけだ。お前のためじゃないから、そこは気にすんな」
ハンクは気さくな態度で言った。
レオンは理解が追いつかないようで戸惑いの色が顔に浮かぶ。
「とりあえず、よかったじゃないか。これで何とかなりそうだ」
「僕は逃げることだけしかできなかったが、無双のハンクなら何とかなるのか……」
レオンはそう言った後、どさりと机に突っ伏した。
「彼は追跡されていたみたいで、疲れていると思います」
「暗殺機構に狙われたらそうなるわな。今晩はおれも残るぞ」
ハンクはそう言うと店の外にある椅子を持ってきて腰かけた。
「ちょっと外の空気を吸ってきます」
「警戒は怠るなよ」
「はい」
出入り口から店の外に出ると空気が冷たく感じた。
星の浮かぶ夜空にはゆっくりと薄い雲が流れている。
ハンクに言われた通り、周囲に注意を向けたが、目立った異変を感じなかった。
俺はしばらく夜風に当たってから店の中に戻った。
「それにしても、アストのギルドもあくどいことをしやがるな」
「ツノネズミの話も聞いてたんですね」
「だいたいな」
話の腰を折らないようにしてくれたのはハンクなりの気遣いなのだろう。
「安請け合いしないはずだが、エバンも含めて暗殺機構が顔を出すようになってるな」
「本当にそうですね。冒険者をしていた頃は噂話だけで実在しないと思ってました」
「ベルンは産業が少ないからな。用心棒を収入源にしようとしてるのかもしれん」
そこかしこでイリアのような暗殺者が闊歩するようになれば危険な気がする。
「刺客を何人か撃退したら暗殺機構も少しはおとなしくなるだろうって」
「それは頼もしい」
俺は話に区切りがついたところで温かいお茶と軽食をハンクに用意した。
自分にも同じお茶をカップに注いだ。
二人で言葉を交わしてすごしていると次第に夜が明けてきた。
やがて外が十分に明るくなった頃、レオンが目を覚ました。
簡単な朝食を彼に出して食べ終わった頃に三人で話し始めた。
「調子はどうだい。少しは休めた?」
「……まあ、多少は」
レオンの目の下にはくまがあった。
ここしばらく十分に眠れていないのだろう。
「レオンだったか、暗殺機構の刺客は振り切れたと思うか?」
「……おそらくは」
レオンの返事は歯切れの悪いものだった。
「アストの拠点を偽装して時間を稼げたと思う。ただ、常に追われているような気配があった」
「暗殺機構は戦闘以外の諜報や追跡は得意なんですか?」
「おれの知る限りでは得意だと思う。レオンのだいたいの位置ぐらいは把握してるんじゃねえか」
「そうなのか……」
レオンはハンクの言葉を聞いて顔を伏せた。
「町の中にいると目立つから、周辺に潜伏してる可能性は高そうだな」
「それは分かりましたけど、これからどうするんですか?」
「いい質問だな。真っ昼間に町を突っ切ることはねえだろうから、先手必勝で、こっちから探りを入れるつもりだ」
ハンクは自信ありげな表情だった。
彼のそんな様子をレオンは不思議そうな顔で見ていた。
「俺が手伝えることは少ないですけど、任せちゃっていいんですか?」
「そうだな。ちょっくら行ってくる」
ハンクは散歩にもで行くようなノリでどこかへ歩いていった。
「……彼は大丈夫なのか」
「ハンクを倒せる人間なんてほとんどいないはず。信じて待てばいいさ」
レオンは不安そうに見えたが、俺はハンクならどうにかできると確信していた。
136
あなたにおすすめの小説
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。
彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる