異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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アデルとハンクのグルメ対決

希少モンスターの乱獲

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 やがて夜が深まり、通りを歩く人の気配がなくなった頃、レオンは口を開いた。

「少し離れているが、メルツ共和国のアストという町は分かるか?」
「アストか。名前ぐらいは聞いたことがある」

 バラムからはずいぶん離れていて、どんな町なのかはすぐに思い出せなかった。

「そこのギルドが悪質でな。ツノネズミの乱獲をしている」
「それはやっぱり、角が目当てなのか」
「ああ、削った粉末は万病に角を加工すれば用途は多岐に。価値があることでツノネズミが狙われた」

 レオンの話が十分に理解できなかった。
 自然保護組合という組織が国家をまたいで機能しているはずなので、乱獲が許されるとは信じがたい。

「自然保護組合が目をつけないか?」
「その説明がまだだったな。僕が組合からアストのギルドを監視するように依頼を受けた」
「ここまでのの流れで狙われる理由が読めないな」 

 自然保護組合は比較的大きな組織でレオンを保護しそうなものだ。

「簡単に言えばトカゲのしっぽ切りをされたことになる。雇い主は暗殺機構とぶつかりたくないらしい。僕一人が消されて、それでなかったことにしようとしている」
「……なんだそれは」

 あまりにひどい話に怒りを覚えた。
 組合が本腰になればレオンを守る冒険者を雇うこともできるはずなのに。

「仕方がないんだ。アストの規模の町で暗殺機構を雇うとは誰も予想できない。ツノネズミで得た利益は想像以上だったんだろう」

 刺客に狙われ続けて精神がすり減っているように見えた。
 レオンの声は生気が薄れたように感じられる。

「その刺客に見つかる前に……ハンクに会わせる」
「Sランク冒険者が見ず知らずの者のために戦うとは思えない」
「いや――」

 そう言いかけたところで近くに人の気配を感じた。

「わりぃわりぃ。ワインの様子が気になって立ち聞きしちまった」
「……ハンク」

 店の入り口にハンクが立っていた。
 どこから話を聞いていたのだろう。

「レオン、あの人が『無双のハンク』だ」
「まさか、本物……」

 レオンは信じられないといった様子で何度か瞬きをした。
 
「暗殺機構が相手なら力を貸すぜ。根本的にあいつらが気に食わねえからな」
「今度はメルツ共和国の町ですから、おそらくイリア以外の剣士ですね」
「距離が離れすぎだからそうだろうな」

 俺とハンクの見解は一致していた。

「……あなたが戦う理由がよく分からない」 

 レオンはまだ戸惑いが消えない様子だった。

「おれはあいつらが気に入らねえし、腕試しがしたいだけだ。お前のためじゃないから、そこは気にすんな」

 ハンクは気さくな態度で言った。
 レオンは理解が追いつかないようで戸惑いの色が顔に浮かぶ。

「とりあえず、よかったじゃないか。これで何とかなりそうだ」
「僕は逃げることだけしかできなかったが、無双のハンクなら何とかなるのか……」

 レオンはそう言った後、どさりと机に突っ伏した。

「彼は追跡されていたみたいで、疲れていると思います」
「暗殺機構に狙われたらそうなるわな。今晩はおれも残るぞ」

 ハンクはそう言うと店の外にある椅子を持ってきて腰かけた。

「ちょっと外の空気を吸ってきます」
「警戒は怠るなよ」
「はい」

 出入り口から店の外に出ると空気が冷たく感じた。
 星の浮かぶ夜空にはゆっくりと薄い雲が流れている。
 ハンクに言われた通り、周囲に注意を向けたが、目立った異変を感じなかった。
 俺はしばらく夜風に当たってから店の中に戻った。

「それにしても、アストのギルドもあくどいことをしやがるな」
「ツノネズミの話も聞いてたんですね」
「だいたいな」

 話の腰を折らないようにしてくれたのはハンクなりの気遣いなのだろう。

「安請け合いしないはずだが、エバンも含めて暗殺機構が顔を出すようになってるな」
「本当にそうですね。冒険者をしていた頃は噂話だけで実在しないと思ってました」
「ベルンは産業が少ないからな。用心棒を収入源にしようとしてるのかもしれん」

 そこかしこでイリアのような暗殺者が闊歩するようになれば危険な気がする。

「刺客を何人か撃退したら暗殺機構も少しはおとなしくなるだろうって」
「それは頼もしい」

 俺は話に区切りがついたところで温かいお茶と軽食をハンクに用意した。
 自分にも同じお茶をカップに注いだ。
 二人で言葉を交わしてすごしていると次第に夜が明けてきた。

 やがて外が十分に明るくなった頃、レオンが目を覚ました。
 簡単な朝食を彼に出して食べ終わった頃に三人で話し始めた。

「調子はどうだい。少しは休めた?」
「……まあ、多少は」

 レオンの目の下にはくまがあった。
 ここしばらく十分に眠れていないのだろう。

「レオンだったか、暗殺機構の刺客は振り切れたと思うか?」
「……おそらくは」

 レオンの返事は歯切れの悪いものだった。

「アストの拠点を偽装して時間を稼げたと思う。ただ、常に追われているような気配があった」
「暗殺機構は戦闘以外の諜報や追跡は得意なんですか?」
「おれの知る限りでは得意だと思う。レオンのだいたいの位置ぐらいは把握してるんじゃねえか」
「そうなのか……」

 レオンはハンクの言葉を聞いて顔を伏せた。

「町の中にいると目立つから、周辺に潜伏してる可能性は高そうだな」
「それは分かりましたけど、これからどうするんですか?」
「いい質問だな。真っ昼間に町を突っ切ることはねえだろうから、先手必勝で、こっちから探りを入れるつもりだ」

 ハンクは自信ありげな表情だった。
 彼のそんな様子をレオンは不思議そうな顔で見ていた。

「俺が手伝えることは少ないですけど、任せちゃっていいんですか?」
「そうだな。ちょっくら行ってくる」

 ハンクは散歩にもで行くようなノリでどこかへ歩いていった。

「……彼は大丈夫なのか」
「ハンクを倒せる人間なんてほとんどいないはず。信じて待てばいいさ」

 レオンは不安そうに見えたが、俺はハンクならどうにかできると確信していた。
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