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アデルとハンクのグルメ対決
ホワイトウルフの遠吠え
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俺たちはアデルの案内でモルトの別邸に向かっていた。
徐々に周囲は暗くなって日没が迫っている。
馬車を下りた地点へ引き返すようなルートを歩く。
アデルは民家を何軒か通りすぎた後、小ぎれいな家の前で足を止めた。
「……モルトがいるといいのだけれど」
アデルが不安げにこぼした。
彼女の様子から、ここがモルトの別邸なのだろう。
窓からは明かりが漏れており、人の気配を感じさせた。
コンコンとアデルが玄関の扉をノックすると、中から足音が聞こえてきた。
「珍しい客だな。アデルかい」
「モルト、久しぶりね」
二人は旧知の仲のように親しげに言葉を交わした。
「後ろの二人はお知り合いかね」
「マルクとハンクよ。あなたのチーズを食べてもらうために来たの」
俺とハンクは少し離れていたが、アデルとモルトのところに近づいた。
「はじめまして、マルクです」
「おれはハンクだ。あんたが美味いチーズを作る職人なんだな」
「二人ともよろしく。もしかして、貼り紙を見てくれたのかね」
モルトは白髪を短く刈ったような頭で若々しい印象を受けた。
「牛の乳が出ないなんて何があったの?」
「外は冷える。まずはうちへ上がりなさい」
モルトは俺たちを家に案内してくれた。
家主に続いて中に入ると室内は暖房が効いているようで暖かさを感じた。
玄関を進んだ隣の部屋が居間でソファーやダイニングテーブルが目に入った。
「好きなところに座っておくれ。お茶を用意する」
モルトはそう告げて部屋の奥に入っていった。
あの先にキッチンがあるのだろう。
「モルトさんはお一人なんですかね」
「十年ぐらい前に奥さんを亡くしているわ」
「そうだったんですか」
アデルの言葉に納得した。
一人で暮らすには少し大きな家のように感じた。
「普段はさっき行った家で生活して、牛の世話をしたり、チーズを作ったりしているそうよ」
バラムには農家が少ないので、モルトのように自然中心の生活をしている人が珍しいように感じられた。
自給自足に近いような生活なのかもしれないが、健康にはよさそうな気がする。
「お待たせ。温かいミルクティーだけど口に合うかな」
「ありがとうございます」
モルトは木のお盆にカップを乗せて持ってきてくれた。
俺はカップを受け取ると少し口に含んだ。
柔らかい湯気が立ちのぼり、ミルクと紅茶が混ざり合うような匂いがした。
モルトはお盆をテーブルに置いてソファーの一つに腰を下ろした。
「それで牛の乳についてだったかね」
「ええ、乳が出ないなんて何があったの?」
「少し前にホワイトウルフが遠吠えをするようになってから、牛が怯えて乳が出なくなったんだ」
モルトは困ったような顔をしている。
一方の俺はそれを聞いて驚きを隠せなかった。
「ホワイトウルフが出るんですか?」
「おれも驚いた。滅多に見かけない上に遠吠えもほとんどしないはずだ」
「ふむっ、二人の言う通りだね」
「私はホワイトウルフについて詳しくないのだけれど、どうにかなりそうかしら」
モルトはアデルの言葉を聞いた後、何も言わずに固まってしまった。
「……近づいても逃げてしまうし、この地域では神聖な存在と言われているから、無闇に傷つけるわけにもいかないんだよ」
「それは困ったわね」
チーズを作りたいモルト、チーズがほしいアデル。
二人は途方に暮れたような様子を見せていた。
「おれの故郷のことわざで『敵に油を送る』っていうのがあるんだが、今回はアデルに力を貸してやろう」
部屋の空気が重くなり始めたところでハンクが助け舟を出すように口を開いた。
「ホワイトウルフを倒すとかでは……ないわよね」
「ひどい言われようだな。とりあえず任せてくれれば、ホワイトウルフの件は解決できると思うぜ」
ハンクはいつも開けっぴろげなのだが、今回は具体的な方法を言おうとしない点が気になった。
それでも彼への信頼は厚いため、疑うような質問はしたくないと思った。
「私の手には余るから、よろしく頼むわ」
「ハンクさんだったか。ホワイトウルフは気難しい存在だが、大丈夫かね」
「もちろんだ。おれに任せてくれ」
Sランク冒険者の名に恥じぬようにハンクは自信ありげな態度を見せた。
しばらくして話に区切りがついたところでモルトの家を後にした。
レンソール高原は整備された町のように魔力灯がないため、外はほぼ真っ暗だった。
三人で自然にホーリーライトを唱えていた。
「そろそろ夕食にしましょう。食堂へ案内するわ」
「それはいいですけど、けっこう冷えますね」
完全に日が沈むと空気の冷たさが段違いだった。
「マルク、おれのでよければ貸すぜ」
ハンクはいつものバックパックから、緑色のマントを出した。
「いいんですか?」
「おうよ。遠慮すんなって」
「それじゃあ、ありがたく」
一緒にすごした時間が長くなり、慣れが生じているが、無双のハンクのマントを借りるなんてすごすぎると思った。
マントを背中から羽織ると冷たい空気が遮られて、だいぶマシになった。
そんなやりとりをしていると遠くの方から何かが聞こえた。
「……これがホワイトウルフの遠吠えだな」
ハンクの言葉を聞いてから、もう少し耳を澄ませてみる。
ウォーンという獣のおたけびみたいなものが聞こえた。
「暗い時間にも吠えるんですね」
「何か理由があるかもしれねえが、今はまだ何ともな」
俺たちはホワイトウルフの遠吠えが響く中、寒空の下を食堂に向かって歩いた。
徐々に周囲は暗くなって日没が迫っている。
馬車を下りた地点へ引き返すようなルートを歩く。
アデルは民家を何軒か通りすぎた後、小ぎれいな家の前で足を止めた。
「……モルトがいるといいのだけれど」
アデルが不安げにこぼした。
彼女の様子から、ここがモルトの別邸なのだろう。
窓からは明かりが漏れており、人の気配を感じさせた。
コンコンとアデルが玄関の扉をノックすると、中から足音が聞こえてきた。
「珍しい客だな。アデルかい」
「モルト、久しぶりね」
二人は旧知の仲のように親しげに言葉を交わした。
「後ろの二人はお知り合いかね」
「マルクとハンクよ。あなたのチーズを食べてもらうために来たの」
俺とハンクは少し離れていたが、アデルとモルトのところに近づいた。
「はじめまして、マルクです」
「おれはハンクだ。あんたが美味いチーズを作る職人なんだな」
「二人ともよろしく。もしかして、貼り紙を見てくれたのかね」
モルトは白髪を短く刈ったような頭で若々しい印象を受けた。
「牛の乳が出ないなんて何があったの?」
「外は冷える。まずはうちへ上がりなさい」
モルトは俺たちを家に案内してくれた。
家主に続いて中に入ると室内は暖房が効いているようで暖かさを感じた。
玄関を進んだ隣の部屋が居間でソファーやダイニングテーブルが目に入った。
「好きなところに座っておくれ。お茶を用意する」
モルトはそう告げて部屋の奥に入っていった。
あの先にキッチンがあるのだろう。
「モルトさんはお一人なんですかね」
「十年ぐらい前に奥さんを亡くしているわ」
「そうだったんですか」
アデルの言葉に納得した。
一人で暮らすには少し大きな家のように感じた。
「普段はさっき行った家で生活して、牛の世話をしたり、チーズを作ったりしているそうよ」
バラムには農家が少ないので、モルトのように自然中心の生活をしている人が珍しいように感じられた。
自給自足に近いような生活なのかもしれないが、健康にはよさそうな気がする。
「お待たせ。温かいミルクティーだけど口に合うかな」
「ありがとうございます」
モルトは木のお盆にカップを乗せて持ってきてくれた。
俺はカップを受け取ると少し口に含んだ。
柔らかい湯気が立ちのぼり、ミルクと紅茶が混ざり合うような匂いがした。
モルトはお盆をテーブルに置いてソファーの一つに腰を下ろした。
「それで牛の乳についてだったかね」
「ええ、乳が出ないなんて何があったの?」
「少し前にホワイトウルフが遠吠えをするようになってから、牛が怯えて乳が出なくなったんだ」
モルトは困ったような顔をしている。
一方の俺はそれを聞いて驚きを隠せなかった。
「ホワイトウルフが出るんですか?」
「おれも驚いた。滅多に見かけない上に遠吠えもほとんどしないはずだ」
「ふむっ、二人の言う通りだね」
「私はホワイトウルフについて詳しくないのだけれど、どうにかなりそうかしら」
モルトはアデルの言葉を聞いた後、何も言わずに固まってしまった。
「……近づいても逃げてしまうし、この地域では神聖な存在と言われているから、無闇に傷つけるわけにもいかないんだよ」
「それは困ったわね」
チーズを作りたいモルト、チーズがほしいアデル。
二人は途方に暮れたような様子を見せていた。
「おれの故郷のことわざで『敵に油を送る』っていうのがあるんだが、今回はアデルに力を貸してやろう」
部屋の空気が重くなり始めたところでハンクが助け舟を出すように口を開いた。
「ホワイトウルフを倒すとかでは……ないわよね」
「ひどい言われようだな。とりあえず任せてくれれば、ホワイトウルフの件は解決できると思うぜ」
ハンクはいつも開けっぴろげなのだが、今回は具体的な方法を言おうとしない点が気になった。
それでも彼への信頼は厚いため、疑うような質問はしたくないと思った。
「私の手には余るから、よろしく頼むわ」
「ハンクさんだったか。ホワイトウルフは気難しい存在だが、大丈夫かね」
「もちろんだ。おれに任せてくれ」
Sランク冒険者の名に恥じぬようにハンクは自信ありげな態度を見せた。
しばらくして話に区切りがついたところでモルトの家を後にした。
レンソール高原は整備された町のように魔力灯がないため、外はほぼ真っ暗だった。
三人で自然にホーリーライトを唱えていた。
「そろそろ夕食にしましょう。食堂へ案内するわ」
「それはいいですけど、けっこう冷えますね」
完全に日が沈むと空気の冷たさが段違いだった。
「マルク、おれのでよければ貸すぜ」
ハンクはいつものバックパックから、緑色のマントを出した。
「いいんですか?」
「おうよ。遠慮すんなって」
「それじゃあ、ありがたく」
一緒にすごした時間が長くなり、慣れが生じているが、無双のハンクのマントを借りるなんてすごすぎると思った。
マントを背中から羽織ると冷たい空気が遮られて、だいぶマシになった。
そんなやりとりをしていると遠くの方から何かが聞こえた。
「……これがホワイトウルフの遠吠えだな」
ハンクの言葉を聞いてから、もう少し耳を澄ませてみる。
ウォーンという獣のおたけびみたいなものが聞こえた。
「暗い時間にも吠えるんですね」
「何か理由があるかもしれねえが、今はまだ何ともな」
俺たちはホワイトウルフの遠吠えが響く中、寒空の下を食堂に向かって歩いた。
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