異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
50 / 555
王都出立編

焼肉屋の弟子希望者

しおりを挟む
 レンソール高原の件が解決してから、何日か経過していた。
 バラムに戻ってきた後は、いつも通り店を営業している。

 以前は肉を焼くのみだったが、アデルからのアドバイスで焼き野菜的なものも一緒に出すようになった。
 玉ネギやニンジンを軸にして、仕入れられた時はネギのような野菜も出している。

 お客が飽きないように、甘いタレを出した日の次は辛めのタレにしたり、肉の部位や切り方を工夫してみたりと、その時々で違う反応が返ってくることが励みだった。

 適度な忙しさ、周りの人に恵まれるありがたさを噛みしめながら、日々の仕事に精を出している。 

 今日も普段通りの一日で、何人かのお客が食事を終えて帰っていった。
 昼下がりの時間帯に差しかかり、ピークタイムがすぎて客足はまばらだった。

 俺が店じまいをして休憩に入ろうと思ったところで、一人の青年がやってきた。
 この世界での俺の年齢=二十二歳よりも少し若く見えた。
 長めの金色の髪で冒険者の雰囲気ではなく、何かの職人のような印象を受けた。
  
「いらっしゃいませ。今日は肉と野菜の盛り合わせですが、そちらでよろしいですか?」

「ああっ、それを出してくれ」

「それでは、少々お待ちください」

 バラムの人は物腰の柔らかい人が多いので、少し面食らうような感じがした。
 どことなく、違うところから来たようにも思われた。

 俺は気を取り直して調理場へ向かうと、皿の上に食材を盛りつけた。
 今日はセバスに勧められたハラミ肉、野菜はニンジンとピーマンだった。
 タレのローテーションは甘めのタレを出す日だ。
 
 青年のテーブルへ食材や取り皿、タレなどを順番に運び終えると、他のテーブルの片づけに入った。
 少し気難しそうにも見えたが、他のお客と同じように食べた始めたようだった。

 空いた二つのテーブルの片づけを終えた後、再び青年の様子を見た。

 そこまで表情が豊かというわけではないが、じっくり味わって食べていた。
 もしかしたら、口に合ったのかもしれない。

 それから、食器洗いや片づけをしていると、青年が声をかけてきた。
 
「会計を頼む」

「少々お待ちください」

「店の外に書いてあったけど、一人前で銀貨一枚か?」

「はい、そうです」

 青年は何かを考えるような間があり、まさか高いといちゃもんをつけられるのかと身構えそうになった。

「ところであんた、弟子を取る気はないか?」

「えっ、弟子ですか……」

「ああっ、そうだ。この焼肉という料理は興味深い。あんたに弟子入りして、色々と学んでみたい」

 青年は純粋そうな目をこちらに向けているが、この場で即決していいものだろうか。

「他の手のこんだ料理に比べると、そこまで技術がいるわけではないですよ」

「手をかけても大して美味くない料理はたくさんある。しかし、焼肉は抜群の美味さだ。学ぶだけの価値がある」

「なるほど、そうですか……」

 真摯な姿勢はありがたいのだが、自分が弟子を取ることが想像できなかった。
 彼を受け入れるべきか、辞退しておくべきか。
 すぐに答えを出すのは難しく感じられた。

「無理にとは言わないが、前向きに考えてほしい」

「分かりました。明日の同じぐらいの時間に来てもらってもいいですか?」

「了解した。また来る」

 青年は強い意思を感じさせる顔を見せた後、店から立ち去っていった。

「……弟子か。人を雇う予定はなかったけど、予想外のことが起きたな」

 俺は誰にともなくこぼした後、片づけを再開した。



 翌日。弟子希望の青年が頭から離れず、仕込みになかなか集中できなかった。

 上の空になりながら開店準備を続けると、気がつけば店を開く時間になっていた。
 営業が始まってしまえば、よそごとを考える余裕はなく、あっという間に約束の時間になった。 

「約束通りに来たぜ。あんたの答えを聞かせてもらおうか」

「一晩考えてみましたけど、給料は大して出せませんし、そんなに教えられるようなことはないと思います」

「そうか、ダメなのか……」

「いやいや、人の話は最後まで聞きましょうよ。そんな感じでよければいいですよ。最初は店の手伝いをしてもらおうと思います」

 特に補助が必要なわけではないものの、断る理由もなかった。
 
 青年は俺の言葉を聞いた後、明るい表情になっていた。

「よしっ、今日からよろしく頼む。オレはジェイクだ」

「俺はマルクです。今日からよろしく」

 ジェイクが手を差し出したので、二人で握手をした。
 どんな職業だったのか分からないが、力強くごつごつした手をしている。

「そういえば、何か料理の経験はあるんですか?」

「ランスの王都で城の調理人をしていた」 

「えっ、それがまた、どうしてバラムまで」

「オレは仕事を覚えるのが早いから、教えられた調理法を覚えた後は退屈だった。王都の外に出て、新しい料理を知りたかった」

 なかなかのハングリー精神だと思った。
 ただ、疑問が一つ残る。

「ここから王都までずいぶん離れていますけど、焼肉を知るきっかけは何だったんですか?」

「城に出入りしている行商人の口から聞いた。鉄板で肉を焼いただけなのに美味い料理があると」

「へえ、行商人ですか。分かりました」

 シルバーゴブリンの時も行商人が焼肉のことを広めていたようなので、もしかしたら、同一人物の可能性もある。

「とりあえず、今日はもうやることがないので、料理を覚えるためにも食べてもらおうと思います」

「オレは客でもないのにいいのか」

「いつも、少し多めに用意しているので、俺が食べるか処分するかのどちらかになるだけなんですよ。だから、遠慮せずにどうぞ」

「そういうことなら、分かった」

 ジェイクは納得したような様子だった。

 それから、今日のメニューを彼と食べた後、片づけをしながら仕事の説明をした。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

処理中です...