異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
59 / 555
王都出立編

港町コルヌ

しおりを挟む
 調理開始からしばらく待っていると、店主が三人分の皿をテーブルに運んできた。
 赤っぽい見た目から、トマトソースのパスタであると判断した。

 ちなみに料理の説明はシンプルで、「パスタです」の一言だけだった。
 ブルームが話していたように、我が道を行くというのも同意できる気がした。

「何というか、見た目は普通だと思いますね。盛りつけもこんなものかと」

「わしの言わんとすることは食べてみれば分かるはずだ。では、頂くとしよう」

 ブルームは律儀に言った後、フォークを手にしてパスタをすすり始めた。
 ちなみにリリアの様子を確かめたところ、何ごともないように食べている。

 二人と同じようにフォークを手に取り、パスタを巻きつけていった。
 見た目は何の変哲もないので、たしかに食べてみなければ分からない。

 頭の中で味の想像をしながら、口の中へとパスタを運んだ。

「……うーん」

 思わず感想を言葉にしてしまいそうだったが、店主に聞こえそうなので口を閉じた。
 ソースの味は見た目通りにトマトベースで、無難な味つけだった。
 ただ、麵のゆで加減はいまいちで、アルデンテをオーバーしてのっぺりとした歯応えになっている。 

 ブルームの方を見ると、こちらの心境に同意するように小刻みに頷いた。
 俺は無言で頷き返した後、複雑な心境になりながらパスタを平らげた。

 途中でリリアの感想が気になって表情を伺ったが、特に変化は見られなかった。
 もしかしたら、食にこだわりがないのかもしれない。

 三人全員が完食すると、会計を済ませて店を出た。
 今回はブルームが支払ってくれた。

「食事も済んだ故、馬車に戻るとするかね」

「はい、そうしますか」

 俺はブルームやリリアと一緒に馬車へと向かった。
 何か見どころがあれば立ち寄ろうと思ったが、何の変哲もない農村ということもあり、歩きながら眺めるだけで満足だった。

 馬車の停められた場所へ戻ると、御者が馬の手入れをしていた。
 この馬は黒く光沢のある毛並みで、しっかりした骨格が力強さを感じさせる。
 
「御者よ、馬は休ませられたか?」

「はい、十分でございます」

「では、馬車を出してくれ」

「はっ、承知しました」

 御者は馬の手入れを終えてから、御者台に上がった。

「それでは、客車へどうぞ」

 御者に促されて、俺たちは客車に乗りこんだ。
 三人とも腰を下ろしたところで、馬車はゆっくりと動き出した。

「これから、中継地のコルヌへ向かう。そこで宿泊する予定だ」

「コルヌですか? たしか……港町でしたね」

「バラムからは離れているから、あまり行く機会はないかね」

「はい、今回が初めてだと思います」

「コルヌは海運で栄えている町だ。人口もそれなりに多かったはず」

 港町ということは海が近いはずだが、一日でそこまで進めるのはすごいことだ。
 ブルークラブを食べたガルフールよりも、コルヌの方が遠くにあるはずなので、この結果は馬によるものなのだろう。
 改めて窓の外を眺めてみると、今までに乗った馬車よりも景色が早く流れている気がした。

 

 馬車はトランを昼過ぎに出発して、夕方にはコルヌに到着した。
 ブルームに続いて客車から出ると、潮風の香りを感じた。
 馬車が停まったのは町の外れのようで、人影はまばらだった。

「明日の朝にお向かいに参ります」

「うむ、よろしく頼む」

 御者はブルームに声をかけてから、どこかへ馬車を移動させた。
 おそらく、馬車を係留できる場所がどこかにあるのだろう。

「ここから少し歩くと、町の中心に出られます。今晩の宿や食事のできる場所もそちらに」

「わりと近いですね」

 周囲の景色を眺めていると、リリアが話しかけてきた。 
 顔を合わせてからの時間が短いため、当たり障りのない返答になってしまう。

「マルク殿に耳寄りなお話があります。コルヌは海が近い割に漁業が活発ではありません。立ち寄った何軒かのお店では、魚介類の料理は控えめでした」

「なるほど、リリアは好きな食べ物ってありますか?」

「私は魚料理が好きです。故郷は牧畜が盛んで、肉料理が毎日のように出てきたので、その反動でしょうか……自分でも分かりません」

 リリアは照れくさそうに笑みを浮かべた。
 今まで出会った人たちは肉好きが多かったので、リリアの意見は珍しいと思った。

「さあ、夕食に行こうではないか。昼食のパスタのおかげで、腹の虫が泣いている」

「コルヌの魚介類の料理はそこまででもないそうですね」

「素材の種類にこだわらないならば、味のよかった店はあるぞ」

「それでは、そこへ案内してください」

 俺たちは三人で移動を開始した。

 町の中心まで来ると通行人の数が増えて、活気のある雰囲気だった。
 ブルームが「海運で栄えた町」と言っていたように、少し離れたところに港があり、何隻もの船が停泊しているのが見えた。

 目当ての店を探すようにブルームが先を行き、俺とリリアが横並びで歩いている。
 中心から少し歩いたところで、ブルームが立ち止まった。 

「この前、リリアと行った店はたしかあの店だったはずだ」

「ブルーム様。お年を召して、記憶が曖昧になられたのですね……。私たちが行ったのはあの店です」

 リリアがブルームの発言を修正するように、通りの反対側の店を指先で示した。  

「……あぁっ、たしかにあの店だ」

「まっ、まあ、たまにはあることですよ」

 俺は何となくフォローを入れてみた。
 微妙な空気が流れて、何だかいたたまれない感じだった。

「そうだったか、何とも恥ずかしい。気を取り直して、中に入ろうではないか」

 ブルームは照れ隠しをするように、先立って店の扉を開けた。
 何気なく店の名前を確認すると、小さな看板に「カンティ」と書かれていた。 
 外観は大衆向けの食堂といった雰囲気だった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

処理中です...