異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
62 / 555
王都出立編

レアレス島への航路

しおりを挟む
 王都へ向かうはずだった道が大岩で封鎖された影響で、俺たちはコルヌの町に馬車で戻ることになった。
 レアレス島を船で経由すれば王都に行けるということなので、これから定期船に乗ることになっている。

 今いる定期船乗り場には、俺とブルーム、リリアに御者の四人がいた。
 俺たち以外にも、ちらほらと船を待っているような乗客の姿が見える。
 海がすぐ近くなので、潮の香りが周囲に漂っていた。

「馬車は定期船に乗せることはできないそうなので、僕の役目はここまでです」

「うむ、ごくろうだった。封鎖が解除されたら、王都に戻るとよいだろう」

「お気遣いありがとうございます。それではまた」

 御者は深々と頭を下げて、どこかに歩いていった。
 彼を見送った後、これから乗る予定の船から船員と思われる男が出てきた。

「定期船をお待ちのお客さん、もう少ししたら出航しまーす! 乗船してお待ちください」

 船を待つ乗客に向けて、大きな声で呼びかけられた。
 海の男風な雰囲気で、何となくこの人物が船長だと思った。

「では、行こうか」

 ブルームが定期船へと歩き出す。
 俺とリリアはその後に続いた。

 岸壁から桟橋を歩いて船に乗ると、足元が上下に揺れた。
 この世界に生まれてから、初めて経験する感覚だった。
 バラムには川はあっても、船に乗る機会はなかった。
 
 船体を眺めてみると、帆船で風を動力にするようだ。
 ちなみに船外機は発明されていないため、この船にもエンジンはついていない。

「私、船に乗るのは初めてです」

「わしも初めてだ。マルクはどうだ?」

「はい、俺も初めてです」

 地球で船に乗った記憶はあるが、それを説明するつもりはなかった。

「それにしても、不思議な感覚ですね」

「過去に聞いた話では、船に酔うという現象があるらしい」

 ブルームは独り言のように、気持ち悪くなるというのは恐ろしいと口にした。
 基本的に威厳がある感じなのだが、ふとした時にナイーブなところを見せる。

「まもなく、船が出ます! 航行中は大きく揺れることもあるのでご注意をー」

 先ほどの男が場内アナウンスのように声を響かせた。
 よく通る声なので、マイクとスピーカーは必要なさそうだ。

「それでは、出航しまーす!」
  
 桟橋側にも一人の船員がおり、彼が係留された縄を外していた。
 コルヌ出航の定期船が港の岸壁から少しずつ離れていく。

「海の風は気持ちいいものですね」

「はい、たしかに」

「マルク殿と話したように、レアレス島に行けば魚介料理が食べられそうなので楽しみにしています」

「俺も楽しみですよ。バラムは川魚が大半で、海鮮を食べることは滅多にないですからね」
 
 リリアはレアレス島へ向かうことを心待ちにしているようだ。
 表情がいつも以上に明るく、話しぶりからもそう感じられた。

 二人で話していると、船は港を出て沖に進もうとしていた。
 船の周りでは海鳥が飛び回っている。

 海が荒れることはなく、穏やかな天候だったので、安心して見ていられた。
 そよ風が頬に当たる程度で、波は落ちついた様子だった。

 すがすがしい景色の中で、胸の内には先ほどの大岩の件が引っかかっていた。
 俺やブルームを足止めすることが目的とは考えにくいが、火薬が落石の原因であるならば人為的に起きたということだろう。
 暗殺機構について考えることは減っていたものの、エバン村のイリアやレオンを追跡した刺客のことが脳裏をよぎる。

「……深刻な顔をしているな。もしかして、街道が封鎖されたことか?」

「ええ、まあ……。正直、俺はそこまで暗殺機構に詳しくないんですけど、情勢はどんな感じですかね」

「うーむ、そうだな……」

 ブルームは何かを考えるように腕組みした後、リリアの方に顔を向けた。
 彼女は何か知っていることがあるのだろうか。

「暗殺機構については調査中なのですよ。王都でもそこまで追いきれているわけではありません。ただ、王族の方々は危険を避けるために身を隠しています」

 リリアはブルームの視線を察したように口を開いた。
 他の乗客もいるので、控えめな声だった。

「そんな大事なこと、俺に話してもいいんですか」

「王都に着けば、いずれ知ることですから。問題ありませんよね、ブルーム様」

「それを聞いたところで、お隠れになった場所が見つかるわけではないからな」

 ブルームは浮かない顔をしているように見えた。
 何か気がかりがあるのかもしれない。

「それで、大臣は大丈夫なんですか?」 
 
「現王、王妃、第一王子ならばともかく、大臣を狙う可能性は低いからな。それに城内と城の周辺は警備がしっかりしている」

 ブルームはそうだと分かっていても、大臣のことを心配しているのだと察した。

「ブルーム様にとって大臣は孫娘みたいなものなのですよ」

「ああっ、そういう……」

「マルクとリリアよ、誤解してはいかんぞ。わしは大臣がランス王国を支える要人として、無事でいてほしいだけだ」

「ふふっ、素直になればいいのに」

「むむっ、リリアには敵わないな」

 ブルームとリリアのやりとりは見ている者を和ませるような雰囲気があった。
  
「皆さん、船の前方をご覧くださーい! 正面にレアレス島が見えてきました」

 三人で話していると、船長が船の一角で高らかに言った。
 彼の言う通り、少し離れたところに大きな島が見えている。

「ほほう、島にしては栄えている方ではないか」

「港の周りは海辺の町みたいな雰囲気ですね」

「漁船も多く見えますから、美味しいお魚が食べられそうです」

 ブルームとリリアは初めて目にしたレアレス島に感激しているように見えた。  
 俺自身も二人と同じように心が弾むような感覚があった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

処理中です...