異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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王都出立編

王都の城で大臣に出会う

 王都の往来は通行人の数が多く、ぶつからないように注意しなければならない。
 それに大きな街で人が集まりやすいせいか、エルフやドワーフの姿も目に入る。
 バラムでは考えられないようなことで、王都では初めて見るものがたくさんあった。

 ブルームを見失わないように注意しつつ、街並みに目を向けた。
 さすがに焼肉屋は見当たらないものの、飲食店の種類も軒数も多い。
 店の前に椅子とテーブルを出して、テラス席のように営業しているレストランやカフェがあり、この街になじんだ景色のように感じた。
 精肉店や青果店は見当たらないが、この広い街のどこかにあるだろう。
 ブルームから聞いた話では市場もあるらしい。

 歩き続けていくらか時間が経った頃、前方に大きな城がそびえるように建っていた。
 城の壮大さに驚いて立ち止まったところで、後ろを歩いていたリリアが近づいてきた。

「あちらがランス城です」
「ずいぶん大きいですね」
「ゆっくり眺めてください。私の役目はここまでなので、一足先に城の中へ戻ります。またお会いしましょう」

 彼女は去り際にブルームと短く言葉を交わした後、城に向かって歩いていった。
  
「リリアは忙しいな。わしの護衛の次は城の警護に回るはずだ」
「そうなんですか。少しは休ませてあげてほしいですね」

 余計なお節介かもしれないが、城内の勤務体系がホワイトであることを願う。

「大臣が若いことはリリアから聞いたかもしれないが、失礼のないように頼むぞ」
「それはもちろん」

 十代の少女だと聞いたような気がする。
 ずいぶん若く感じるが、礼儀はわきまえているつもりだ。

 ブルームと城に歩いていくと、堀にかかった大きな橋を通過した。
 今度は門が上がった状態の通用口があり、そこを進むと一人の衛兵が立っていた。

「おかえりなさいませ、ブルーム様」
「暗殺機構について、何か動きはあったか?」
「いえ、直近では何もございません。そちらはお客人でしょうか」

 衛兵はこちらに視線を向けた。
 ブルームが一緒ということで、怪しんでいるようには見えなかった。

「彼ならば問題ない。これから大臣に会ってもらうのだ」
「承知しました。中へどうぞ」
「言うまでもないが、怪しい者は通さぬように頼む」
「はっ、承知しました!」

 衛兵は背筋を正して、ブルームの言葉に応えた。
 城壁付近は二人体制だったのに対して、ここでは一人というのは少ないように見える一方で、かなりの実力者に見えた。
 おそらく、並の冒険者ではこの衛兵には敵わないだろう。
 ブルームが先へと進もうとするので、彼に続いて足を運んだ。

 この世界の文化や風習がどのようなルーツを持つかは分からないが、西洋風なものが中心を占めている。
 ランス城も例に漏れず、転生前の記憶にあるヨーロッパの城に似た雰囲気だった。
 通用口を抜けて、城の前に来ると衛兵というよりもドアマンのような男がいた。
 男は俺とブルームに気づくと、丁寧な動作で扉を開いてくれた。

「うむ、ごくろう」
「おかえりなさいませ」

 ブルームと男は短く言葉を交わした。

 城内に入ると、思ったよりも華美な装飾がされていないことに驚いた。
 西洋の城というのは精巧な細工が天井や内壁にされており、派手なものという印象があったからだ。
 過剰な装飾をしていないという点において、ランスの王族たちに好感を持った。
 
「このまま、直接大臣のところへ伺おうと思う。それでよいか?」
「はい、問題ありません」

 ブルームは城の中を住み慣れた我が家のように歩いていた。
 時折、曲がり角や分かれ道があっても、迷うことなく進んでいる。

 やがて、通路の先に一つの部屋が見えた。
 扉が開いて中が見えており、人の気配があった。

「この先に大臣がいらっしゃる。くれぐれも粗相のないように」
「はい、それはもちろん」

 ブルームが念を押すように言ってきた。
 それぐらい大臣が気難しい性格なのか、どのような理由であるかは分からない。

 俺との会話を終えると、ブルームは部屋の中に入っていった。
 少し足が重く感じたが、彼に続いて入室した。

「――カタリナ様、失礼します。只今、戻って参りました」

 大臣はカタリナという名前のようだ。
 金色の髪の毛を黒いリボンでまとめており、青緑色のドレスを着ている。
 アデル以外で高そうな服装を身につけている人を見るのは初めてだった。

「ブルーム、留守が長かったではないか。ジェイクの様子はどうじゃった?」
「本人の意思は固く、王都へ連れ帰るのは難しく……、その代わりにこの者を連れて参りました」 
「ほう、ジェイクのように料理の腕が立つのかのう?」

 カタリナはこちらに値踏みするような目を向けた。
 年相応以上の気品と貫禄があり、自発的に口を開くべきか判断しかねた。

「ええ、もちろんです。この者マルクの作る焼肉は絶品でした」
「……ヤキニク? 初めて聞く料理じゃな」

 カタリナは目を輝かせている。
 食へのこだわりが高いというのは本当なのかもしれない。

「マルクよ、ヤキニクというのは美味しいものか? お主の口から聞いてみたい」
「……はい。鉄板で肉を焼く調理法ですが、肉を美味しく食べることができます」
「それは本当か? 肉は余の好物なのじゃ」

 カタリナはうれしそうな反応を見せた。
 無邪気な少女のようにも見える自然な振る舞いだった。
 ブルームが俺を連れてきた理由が分かった気がした。
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