82 / 555
王都出立編
フランシスとの連携
しおりを挟む
野菜はフランシスに任せるとして、こちらは肉の準備に取りかかるとしよう。
牛もも肉の塊は、精肉店の店主が刻んでくれたおかげで、複数に分けられていた。
その中から一つを手に取り、まな板に乗せた。
火の通りや焼き加減を計算した上で、厚みや大きさを考えた方がいいだろう。
「……鉄板はうちの店のとほぼ同じとして、後で試し焼きもしないといけないか」
店を始めた当初は手探りで肉を切っていたが、今では「このぐらいに切れば大丈夫」という感覚が身についている。
数日間、ジェイクと行動を共にして、彼の技術を参考にできた部分も大きい。
肉自体は多めに用意してあるので、まずは大まかに切ることにした。
俺はまな板の上に肉を乗せて、包んでいる薄紙を取り除いた。
利き手で包丁を握り、反対の手を肉に添える。
最初に切れこみを入れた瞬間、あまりの切れ味に驚いた。
「うわっ、これはよく切れるな」
対応すべきことに追われて気づかなかったが、しっかりと研がれていた。
切れない包丁では断面の見映えが悪くなるので、「大臣に出す料理」であることを考えればプラスな要素だった。
小さめの塊の状態から、幅の広い長方形になるように切り分けていく。
今回は城に招かれて出す料理である以上、切り落としにするわけにはいかない。
緊張はほとんどないと思っていたが、気づけば包丁を握る手に力が入っていた。
一枚ずつ切り分けて、まな板の端に置いていく。
集中して作業を続けると、十枚以上の完成形が重なっていた。
「ふぅ、だいぶ集中したな」
「あのー、マルクさん。野菜の確認いいっすか」
「ああっ、ごめんなさい。気づかなくて」
「いや、大丈夫です。集中されてたし、肉を切る作業は邪魔できないっすよ」
「お気遣いどうも」
フランシスは洗い終えた野菜をカゴに入れて持っていた。
どれもきれいに洗い流してあるように見えた。
「洗いは十分だと思います。あとは切り方ですね」
俺はネギとニンジンを一本ずつ手に取って、まな板の上に乗せた。
大きさの見本にするためにフランシスに見せておく。
「鉄板で焼くので、煮こみ料理みたいに厚くしすぎないようにお願いします」
「はい」
ネギとニンジンをそれぞれ、一口で食べられる大きさに刻んだ。
これまでの経験が焼き野菜の切り方にも生きており、火の通りと食感のバランスを覚えている。
「大臣一人が食べるには多めに見えますけど、洗った分は全て切ってもらっていいです」
「うっす、分かりました!」
フランシスは必要な道具を手にすると、別のテーブルでネギを切り始めた。
俺よりも手際のいい動きに、苦笑いしてしまいそうだった。
助手の彼の方が技術に関しては上回っている。
「――よしっ、自分にできることに集中しよう」
これで肉を切り分けられたので、皿に盛りつけておきたい。
しかし、調理用のトレーみたいなものはあっても、焼く前の肉を乗せる皿も取り皿も見当たらなかった。
離れた椅子にブルームが腰かけているので、彼に頼むとしよう。
ブルームのところへ歩き出したところで、どこからかアンがやってきた。
その両手には何枚かの重ねられた皿が握られている。
「失礼します。こちらをお使いくださいー」
「ありがとうございます!」
アンはテーブルのところまで来ると、邪魔にならないところに皿を乗せてくれた。
「皿がほしいことがよく分かりましたね」
「お城の窓からこちらの様子が見えて、必要かと思いまして」
「ははっ、アンはできたメイドだろう」
いつの間にかブルームが近くに立っていた。
誇らしげな様子でアンを賞賛している。
「たしかにそうですね」
「お褒めに預かり、うれしく思います。わたくしは城内の業務に戻ります」
「アンよ、メイド長は厳しくないか? 何かあったら相談してくれ」
「いえ、メイド長はお優しい方ですよ」
「そうか、それならよいが」
「では、失礼します」
アンはペコリと一礼して、この場から離れていった。
「メイドはアンさんだけじゃないんですね」
「うむ、そうだな。数人のメイドとその上にメイド長がいる」
この城で初めてメイドを見たわけだが、メイド長がいるというのも興味深い。
城内にアンのようなメイドが何人もいる光景を想像すると、不思議な感覚を覚えた。
さて、気を取り直して作業を続けよう。
俺はアンの用意してくれた皿を手に取って、まな板の近くに置いた。
その上に丁寧に切り分けた肉を乗せていく。
切るのと同じく、盛りつけもジェイクの見よう見まねで成長した気がする。
平らに横並びという味気ないやり方ではなく、立体感のある並べ方にした。
これで肉の準備ができて、野菜はフランシスに任せてある。
そろそろ、タレを取りに行った方がいいだろう。
俺はブルームに一声かけてから、早足で客間に向かった。
外庭から城内につながる扉から廊下に出た。
城の中を何度か歩いたこともあり、道順はだいたい覚えている。
客間に向かって歩いていると、部屋が見えてきた。
足早に近づくと、扉を開けて中に入った。
アンが整理してくれたようで、何となく整頓されているような感じがする。
目当てのものは同じ場所から動いていなかった。
俺はタレにするために漬けておいた、しょうゆ風調味料とドライデーツが入った容器を手に取った。
それ以外に鉄板に引く油が入った瓶を荷物から取り出した。
他に必要なものがないことを確かめてから、客間を出て外庭に向かった。
牛もも肉の塊は、精肉店の店主が刻んでくれたおかげで、複数に分けられていた。
その中から一つを手に取り、まな板に乗せた。
火の通りや焼き加減を計算した上で、厚みや大きさを考えた方がいいだろう。
「……鉄板はうちの店のとほぼ同じとして、後で試し焼きもしないといけないか」
店を始めた当初は手探りで肉を切っていたが、今では「このぐらいに切れば大丈夫」という感覚が身についている。
数日間、ジェイクと行動を共にして、彼の技術を参考にできた部分も大きい。
肉自体は多めに用意してあるので、まずは大まかに切ることにした。
俺はまな板の上に肉を乗せて、包んでいる薄紙を取り除いた。
利き手で包丁を握り、反対の手を肉に添える。
最初に切れこみを入れた瞬間、あまりの切れ味に驚いた。
「うわっ、これはよく切れるな」
対応すべきことに追われて気づかなかったが、しっかりと研がれていた。
切れない包丁では断面の見映えが悪くなるので、「大臣に出す料理」であることを考えればプラスな要素だった。
小さめの塊の状態から、幅の広い長方形になるように切り分けていく。
今回は城に招かれて出す料理である以上、切り落としにするわけにはいかない。
緊張はほとんどないと思っていたが、気づけば包丁を握る手に力が入っていた。
一枚ずつ切り分けて、まな板の端に置いていく。
集中して作業を続けると、十枚以上の完成形が重なっていた。
「ふぅ、だいぶ集中したな」
「あのー、マルクさん。野菜の確認いいっすか」
「ああっ、ごめんなさい。気づかなくて」
「いや、大丈夫です。集中されてたし、肉を切る作業は邪魔できないっすよ」
「お気遣いどうも」
フランシスは洗い終えた野菜をカゴに入れて持っていた。
どれもきれいに洗い流してあるように見えた。
「洗いは十分だと思います。あとは切り方ですね」
俺はネギとニンジンを一本ずつ手に取って、まな板の上に乗せた。
大きさの見本にするためにフランシスに見せておく。
「鉄板で焼くので、煮こみ料理みたいに厚くしすぎないようにお願いします」
「はい」
ネギとニンジンをそれぞれ、一口で食べられる大きさに刻んだ。
これまでの経験が焼き野菜の切り方にも生きており、火の通りと食感のバランスを覚えている。
「大臣一人が食べるには多めに見えますけど、洗った分は全て切ってもらっていいです」
「うっす、分かりました!」
フランシスは必要な道具を手にすると、別のテーブルでネギを切り始めた。
俺よりも手際のいい動きに、苦笑いしてしまいそうだった。
助手の彼の方が技術に関しては上回っている。
「――よしっ、自分にできることに集中しよう」
これで肉を切り分けられたので、皿に盛りつけておきたい。
しかし、調理用のトレーみたいなものはあっても、焼く前の肉を乗せる皿も取り皿も見当たらなかった。
離れた椅子にブルームが腰かけているので、彼に頼むとしよう。
ブルームのところへ歩き出したところで、どこからかアンがやってきた。
その両手には何枚かの重ねられた皿が握られている。
「失礼します。こちらをお使いくださいー」
「ありがとうございます!」
アンはテーブルのところまで来ると、邪魔にならないところに皿を乗せてくれた。
「皿がほしいことがよく分かりましたね」
「お城の窓からこちらの様子が見えて、必要かと思いまして」
「ははっ、アンはできたメイドだろう」
いつの間にかブルームが近くに立っていた。
誇らしげな様子でアンを賞賛している。
「たしかにそうですね」
「お褒めに預かり、うれしく思います。わたくしは城内の業務に戻ります」
「アンよ、メイド長は厳しくないか? 何かあったら相談してくれ」
「いえ、メイド長はお優しい方ですよ」
「そうか、それならよいが」
「では、失礼します」
アンはペコリと一礼して、この場から離れていった。
「メイドはアンさんだけじゃないんですね」
「うむ、そうだな。数人のメイドとその上にメイド長がいる」
この城で初めてメイドを見たわけだが、メイド長がいるというのも興味深い。
城内にアンのようなメイドが何人もいる光景を想像すると、不思議な感覚を覚えた。
さて、気を取り直して作業を続けよう。
俺はアンの用意してくれた皿を手に取って、まな板の近くに置いた。
その上に丁寧に切り分けた肉を乗せていく。
切るのと同じく、盛りつけもジェイクの見よう見まねで成長した気がする。
平らに横並びという味気ないやり方ではなく、立体感のある並べ方にした。
これで肉の準備ができて、野菜はフランシスに任せてある。
そろそろ、タレを取りに行った方がいいだろう。
俺はブルームに一声かけてから、早足で客間に向かった。
外庭から城内につながる扉から廊下に出た。
城の中を何度か歩いたこともあり、道順はだいたい覚えている。
客間に向かって歩いていると、部屋が見えてきた。
足早に近づくと、扉を開けて中に入った。
アンが整理してくれたようで、何となく整頓されているような感じがする。
目当てのものは同じ場所から動いていなかった。
俺はタレにするために漬けておいた、しょうゆ風調味料とドライデーツが入った容器を手に取った。
それ以外に鉄板に引く油が入った瓶を荷物から取り出した。
他に必要なものがないことを確かめてから、客間を出て外庭に向かった。
41
あなたにおすすめの小説
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~
草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
ファンタジー
黒き狼の神獣ガルーと契約を交わし、魔人との戦争を勝利に導いた勇者が天寿をまっとうした。
勇者の養女セフィラは悲しみに暮れつつも、婚約者である王国の王子と幸せに生きていくことを誓う。
だが、王子にとってセフィラは勇者に取り入るための道具でしかなかった。
勇者亡き今、王子はセフィラとの婚約を破棄し、新たな神獣の契約者となって力による国民の支配を目論む。
しかし、ガルーと契約を交わしていたのは最初から勇者ではなくセフィラだったのだ!
真実を知って今さら媚びてくる王子に別れを告げ、セフィラはガルーの背に乗ってお城を飛び出す。
これは少女と世話焼き神獣の癒しとグルメに満ちた気ままな旅の物語!
神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!
さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語
会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる