異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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飛竜探しの旅

マルクが忘れていたこと

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 心地よさに眠気を覚えながら、おばあさんの施術が終わるのを待った。
 やがてそれ以外の部分も確認が終わって、最後に背中をポンっと軽く叩かれた。

「はいよ、これでおしまい。さっき言ったこと気をつけるんだよ」

「ありがとうございました」

 俺は上半身を起こした後、ベッドから下りた。
 短い距離を移動して休憩所の方に戻ると、順番待ちのアデルと目が合った。

「俺は済みました。次、どうぞ」

「ええ、行ってくるわ」

 アデルは椅子から立ち上がり、受付の方に歩いていった。
 彼女はエルフなのでそこそこ高齢だと思うが、身体の状態はどうなのだろう。
 ここまでの付き合いでは店主とお客という関係性もあったため、立ち入ったことをたずねることはしなかった。

 休憩所から受付の方に目を向けると、アデルがうつぶせの状態でベッドに横になるところだった。
 基本的な順番は同じようで、俺の時と変わらない手順に見えた。

「なあ、どうだった? あのばあさん、なかなかやるだろ」

「いやー、そうですね。自分でも気づかないことを教えてもらえたので、近所にあったら通いたいぐらいです」

「おれは必要ないが、たしかにそうかもしれないな。弟子でもとれば、もっと手広くできて王都の方にも支店なんかができそうなもんだが……。まあ、ばあさん自体が都会から越してきたみたいだから、あえて拡大するつもりもないんだろう」

「昔からここに住んでそうな感じですけど、分からないもんですね」

「どこだったか、ランス王国の町だった気がするが、こっちに来てだいぶ経つらしい。もう地元民でいいのかもな」

 ハンクとそんなふうに話していると、しばらくしてアデルが戻ってきた。
 なんだかすっきりした顔になったように見える。
 彼女と一緒におばあさんも休憩所の方に歩いてきた。

「いやあ、こんな美人さん初めてだから緊張したよ。スタイルも完璧だけど、ちょっと食事が偏ってるかもね」

「ふふっ、その辺にしてもらうと助かるわ」

「おっと、ごめんなさいね。乙女の秘密を口にしちゃって」

 さすがに乙女という年齢ではないと思うが、それを口にすれば逆鱗に触れること間違いなしなので、何も言わずに時が流れるのを待った。
 
 それから、何ごともなかったように世間話をしていると、風呂上がりのテオが合流した。
 入浴中に垣間見えた印象は正しかったようで、この温泉を気に入ったようだ。
 それを示唆するように長風呂だった。

「ふっ、待たせたな」

「マッサージと温泉のおかげで、ずいぶん顔色がいいですね」

「老婆に教わったのだが、これが整うというやつだろう。今の我なら、世界の果てまで飛ぶことすら可能だ」

「すげえな、おい」

「お兄さん、いくら何でもそれは無理だって」

 おばあさんはテオが飛龍であることを知らないので、真面目なコメントを返した。
 彼がそれに対してどう返すか見守っていると、何かを思い出したような顔を見せた後、物の例えだと付け加えた。
 テオなりに飛龍であることを隠そうとしてくれたようだ。

「温泉の用事も済みましたし、そろそろ帰るとしましょうか」

「そうだな、テオも満喫できただろ?」

「ふむ、我は満足だ。帰路についても構わぬ」

 テオの口ぶりは相変わらずだが、声のトーンから上機嫌なことが伝わった。
 しっかりマッサージを受けて、最高の温泉に入ったのに不機嫌だったら、ハンクでなくても俺がツッコミを入れるところだった。

「お前さんたち、また来ておくれよ。いつでも歓迎するからね」

「おう、また来させてもらうな」

「ありがとうございました。いい温泉でした」

 俺たちはそれぞれに別れのあいさつをして、小屋を後にした。
 おばあさんは外に出てからも、しばらく見送ってくれた。

「こういうのいいですね。バラムにも優しい人はたくさんいますけど、田舎ならではな感じがします」

「私もけっこう好きかもしれないわ。何だか温かくて落ちつく感じがする」

「テオも気に入ったみたいだし、お前らを連れてきてよかったぜ。モルジュの温泉以外にも見どころある土地はあるから、また今度行こうな」

「はい、行きましょう!」

 ハンクの提案は心湧き立つ内容だった。
 順番的にはレア食材探しよりも先の予定になるだろうか。
 どちらにせよ、楽しみであることは間違いない。

 俺たちは来た道を引き返して、テオが着陸した地点まで戻ってきた。
 周囲を見回し人目につかないことを確認してから、飛龍の姿になってもらった。
 高確率で驚かせてしまったと思うので、近くに牛や馬がいなくてよかった。
  
 順番に乗りこもうとしたところで、脳裏にテオの声が響いた。

(マルクよ。まずはエルフの村へ戻ればよいのか)

「そうですね。同じルートで戻ってもらえたら大丈夫です」

(……安全運転だったか)

「おっ、覚えてくれたんですね。帰りもそれで頼みます」

 温泉効果は継続中のようで、テオは聞き分けがいいような気がする。
 レア食材を探しに行く時にいつでも温泉があることはないはずだが、彼を手懐ける方法が分かったことは収穫だろう。

 俺はテオとの確認を終えると移動の途中で話せるよう、先頭の首に近い場所に腰を下ろした。
 やはり、座り心地がいまいちなので、今後に向けて鞍を用意したほうがいいかもしれない。
 続けてアデルとハンクが乗ったところで、テオはゆっくりと両翼をはためかせた。
 少しずつ地面から離れて、全身に浮遊感が生じる。

 テオの高度が上がった後、再び人目がないかを見回して確認した。
 すると、後ろからアデルの声が届いた。

「安心して。魔法の効果は完璧だから、誰かがこちらを向いても透けて見えるだけよ」

「助かります。何も知らない人が見たら、確実に大騒ぎになると思うので」

「そういえば、私がいる時はいいけれど、ハンクと二人の時は困るわね」 
 
「……あっ」

 テオが力を貸してくれるようになったこと、理想的な温泉に出会えたことに意識が向いていたせいか、そこまで考えていなかった。
 アデルやコレットならともかく、エルフではない俺やハンクが覚えようとしたら、ものすごい時間がかかりそうだ。

「まだアスタールの山にいるか分からないけれど、魔道具おじさんに作ってもらうのはどうかしら?」

「うーん、そうですね。バラムに戻ったら、何か手土産持参で会いに行きますかねー」

 まずはエルフの村に戻って、その後はバラムへ帰る予定になりそうだ。
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