異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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異国の商人フレヤ

マルクの計画と新たな出会い

 サンドロとの情報交換が終わった後、今後についての確認を続けて行った。
 街道の開通に伴い、海産物の運搬がスムーズになることは言うことなしなのだが、そうなるのをコスタで待っていては店の営業が滞ってしまう。

 そのため、こちらの店の場所を教えておいて、選んでもらった商品を届けてもらうことになった。
 すでにいい品を融通してもらえる話になっていたが、俺たちのホテルでの貢献もあり、第一便の商品は支払いが不要に。
 開通の予定が早まることで市場に生まれる利益は大きく、一回分をタダにする程度のことはさせてほしいという話だった。

 サンドロとの話が済んだ後、俺たちは市場管理組合を後にした。
 それから町にある食堂で昼食を済ませて、コスタの町を出発した。

 預けておいた馬の調子は良好で、きちんと世話をしてくれたのだと思った。
 帰り際に少しだけ開通予定のルートを覗いてみると、整備を始めようとする関係者の姿が見受けられた。
 大事な道が復旧することによる活気が感じられて、見ていると明るい気持ちになった。

 そんなわけで、コスタへの遠征は無事に終えることができた。
 海産物の手配はサンドロが前向きに進めてくれているので、近いうちにエビなりカニなどが店に届くはずだ。



 ――コスタから帰った数日後。

 サンドロから早馬の手紙が届いて、もう少しかかるから待ってほしいというお詫びの内容が書かれていた。
 割高な料金を払ってまで連絡してくれたことから、こちらへの誠意が伝わってありがたい気持ちになった。
 
 ちなみに今は昼下がりの敷地内のテーブル席で、先行きについて頭を抱えていた。 
 海産物の入荷が遅れるのは重要な問題ではない。
 それよりも不在の時に店を閉めるしかないことが悩みの種だった。
 
「分かってはいるけど、定休日が多すぎるってことだよな」

 目新しい食材を仕入れるのはバラム近辺では難しい。
 そうすると必然的に遠征することが多くなってしまう。
 以前は王都の料理人だったジェイクに店を任せることがあったものの、すでに自分の道を歩んでいる彼を呼び戻すことはできない。

「エスカは冒険者稼業があるから、留守番を頼むのは気が引けるなあ」

 そもそも、彼女は少し手先が器用で気が利くというだけで、料理人というわけではない。
 あるいは二人で狩猟に力を入れてジビエ戦略を取るという選択肢も頭に浮かぶのだが、そこら辺で捕まえられる動物の肉では斬新さに欠ける。

「シカもイノシシも美味いけど、ダメだダメだ。ここは妥協できない」

 目下の課題としては、留守を任せられる人材の確保と継続した食材探し。
 この二つに着手していかなければならない。

「どこかにいないのか、理想の人材は?」

 転生前にカフェを経営していた時は苦難の連続だったものの、この世界では巡り合わせの祝福が作用している。
 とんでもない人物を雇ってしまう可能性は低いとは思うが。

 すでに店の片づけも済んでおり、一人で悶々と悩み続けるのは精神衛生的によくなさそうなので、散歩ついでにどこかでお茶でも飲むことにした。

 店の敷地を出て通りを歩き始めると、街路樹にきれいな花が咲いていた。
 白く可憐な花弁を広げて、周囲に甘い香りを漂わせている。
 心が華やぐのを感じながら、一歩また一歩と足を運ぶ。

 やがてマーガレット通りの近くに到着した。
 王都から離れていることで辺境と表現されるものの、主要通りのこの辺りは人通りも多く栄えている。

「うーん、今日はもうちょっと静かな方がいいか」  

 途中で方向転換して、ここよりも人通りが少ないモントレイ通りに向かった。
 石畳の路地を歩くうちに町の様子は変わって目的地に着いた。 
 店を始めてから忙しくて足が遠のいていたが、この辺りの町並みが好きだった。
 転生前の記憶のおかげで比較できるのだが、若い頃に一人旅をしたヨーロッパの国々の下町に雰囲気が似ている。
 
「さてと、ゆっくりすごすならあの店か」

 考えをまとめるには何も考えずにくつろぐことが重要だ。
 久しぶりに訪れる通りをしげしげと眺めていると、目当てのカフェが見えてきた。

 あそこは店内にカウンターとテーブル席、店の前にはテラス席がある、わりとこじんまりとして、落ちついた雰囲気の店だった。 
 店の前に到着して看板を眺めると、この世界の文字で「フルール」と書かれていた。
 店の扉は解放されており、そのまま中へと足を運ぶ。
  
「あらら、マルクちゃんじゃない! 久しぶりね」

「どうも、ご無沙汰しています」

 カウンターにいた人影がこちらに気づいて声をかけてきた。
 落ちついたマダムといった雰囲気の彼女は店主のマリーさん。
 以前この店に通った時期があるので、俺のことを覚えていてくれたようだ。

「自分の店を始めて頑張っているんだってね」

「まだまだこれからですけど、どうにかやれてます」

「それで注文は何にしようかしら?」

 久しぶりに目にするメニュー表に変わりはなく、そこまで経っていないはずなのに懐かしい気持ちになった。

「今日は暖かい天気なので、アイスティーにします」

「それじゃ、少し待ってて」

 マリーさんは慣れた様子で用意をして、カウンターにグラスを差し出した。  

「銅貨二枚でしたか?」

「そんな、お代なんていいのよ。あたしからの開店祝いってことで」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

「どういたしまして、ごゆっくりー」

 俺はグラスを手に取ると、店内を歩いてテラス席に出た。
 空いている席に腰かけて、アイスティーを口に含むと茶葉の香りを感じた。

「それにしてもいい雰囲気だ。俺の店の周りも悪くないけど、この辺りは流れる空気が違う気がする」

 街路樹が風に揺れ、店の前の通りを通行人が歩いていく。
 静かでのんびりした雰囲気が絡まった思考をほぐしてくれる気がした。
 俺は一息ついて、もう一度グラスを口に運んだ。
 
 冷静に考えるとやるべきことはそこまで複雑ではない。
 食材探しの間も店を閉めないために、自分の留守を任せられる人材を確保する。
 すぐに候補者は思い当たらないが、バラムもそこまで人口が少ないわけではない。
 探しているうちに誰かしら見つかるだろう。

 考えがまとまってくると頭がすっきりするような感じがした。
 両腕を上げて背中を伸ばし、大きく息を吐いた。

「――お兄さん、そこのお兄さん」

「……えっ?」

 椅子に座った状態でくつろいでいると誰かに呼ばれた。
 声の主は正面に立ち、にっこりと笑みを見せた。

「私は旅の者なんだけど、この町は初めてでさ。よかったら案内してくれない?」

 栗色の髪をした明るい表情の女だった。
 こちらをお兄さんと呼んでいるが、さして変わらない年頃に見える。
 おそらく、二十歳か若くても十代後半といった雰囲気だ。

「まあ、いいですよ」

「私はフレヤ。よろしく」

「俺はマルクです。こちらこそよろしく」

 考えもまとまったところだし、相手が旅人なら親切にしようと思った。
 突然のことではあるが、バラムの町を案内するとしよう。
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