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異国の商人フレヤ
二人の信頼関係
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彼女は視線を正面に戻すと腕組みをして、何かを考えるような仕草を見せた。
当然ながらこちらに恋愛感情を持っているような雰囲気はなく、さばさばした様子で会話を続けようとしていた。
「そういえば、マルクって何をしてる人なの?」
「料理店を経営してます」
「ああっ、やっぱり」
フレヤは納得したように頷いた。
無邪気な表情は彼女の気さくな性格を表すようだった。
「そんなふうに見えますか?」
「客商売をしてそうな雰囲気だなと思ったから。深い意味はないんだ」
気づけば夕暮れが近づいて川面が夕日の橙色に染まっている。
フレヤの横顔は涼しげで、整った顔立ちは魅力的に見えた。
異国情緒を感じさせる佇まいの影響なのか、自分の方が彼女に惹かれていることに気づいてしまった。
「そういえば、今日の宿は決まってますか? この時間からだとそろそろ探した方がよさそうですけど」
「それがまだなんだよね。どこかおすすめを教えてほしいかな」
「もちろん、いいですよ」
「もしも見つからなかった時は、マルクの家に泊まってもいいけどね!」
「……えっ」
「もう冗談だって、本気にしないでよ」
「はははっ、そりゃそうですよね」
女の一人旅ならば貞操観念はしっかりしていて当然だった。
動揺してしまったことを紛らわすように、フレヤから顔を逸らして景色に目を向けた。
「足の疲れもだいぶ楽になったし、そろそろ宿探しに行こうか」
「そんなに休んでないですけど、もう大丈夫ですか?」
「楽しくて張りきりすぎたっていうのもあるから。もう平気だよ」
フレヤの元気そうな笑顔を見て、問題ないだろうと判断した。
俺たちは川沿いの遊歩道にあるベンチから、町に向かって移動を始めた。
エレーヌ川の近くは自然が多く、気持ちのいい風が吹いていた。
こんな場所を歩いているとすがすがしい気分になる。
二人で移動を続けるうちに町中に戻ってきた。
帰宅のピークはすぎたようで、仕事帰りの人はまばらだった。
この時間帯は外食に向かう人、買い物帰りの人などが中心だ。
「そういえば、予算はどれぐらいですか? バラムは大都市ではないので、高級な宿屋は案内できませんけど、多少は上品なところでよければありますよ」
「とりあえず、安宿は却下かな。なるべくいいところを紹介して」
「分かりました。その方向でいきます」
いくつか頭の中で宿屋をピックアップして、一番適したところを導き出す。
だいたいの見当をつけて歩いていたが、目的の宿に向けて方向転換した。
「それにしても、長旅なのに資金が潤沢なんですね」
「うちの親が心配症なんだよ。路銀をがっつり持たされて重いんだよね」
「もしかして、俺のことを信用してくれるんですね。旅人が持ち金の話をするなんて、信頼関係がないとありえないですから」
ランス王国は比較的治安がよいため、引ったくりや置き引き、その他諸々を警戒する必要はほとんどなかった。
ロゼルやデュラスも同じようなもので、稀に現れる野盗にさえ気をつけていれば安全だった。
しかし、もっと離れた国ではそうとは限らないと聞いたことがある。
「私は商人としては見習いでも人を見る目はあるんだ。この町がどれぐらいの治安なのかは来たばかりで分からなくても、マルクは安心してよさそうだから」
「それはどうも。ちなみにバラムは安全ですよ。知り合いにセレブがいますけど、裕福なのを隠さなくても何も起きませんから」
「ええっ、お金持ちと知り合いなの? 今度会ってみたいなあ」
俺はアデルのことを言ったのだが、フレヤは目を輝かせていた。
しばらく彼女がバラムに滞在するのなら、会う機会はあるのかもしれない。
「また機会があれば紹介しますよ」
「うんうん、覚えておいてね」
フレヤは目力を強めてこちらを見ていた。
その圧力に押されて、たじろぎそうになった。
エレーヌ川を離れてから、途中までマーガレット通り周辺を歩いていたが、移動を続けるうちに彼女の条件に合いそうな宿屋のあるソレイユ通りに来ていた。
モントレイ通りはマリーさんの店に行くという目的で足を運ぶことがあっても、この通りには来ることが滅多になかった。
「見てもらえば分かると思うんですけど、この辺りはバラムの中で裕福な人が多いところです。もう少し先に行くと、フレヤのお眼鏡にかなうような宿屋があります」
「へえ、言われてみればたしかに。そんな雰囲気を感じるかな」
フレヤは初めて訪れるソレイユ通りに目を配っていた。
遠くの国から来たならば、興味をそそられるものだろう。
彼女の歩みがゆっくりになっていたので、それに合わせて足の運びを緩める。
「そういえば、槍の使い方はどこかで習ったんですか?」
「故郷はここほど治安がよくないから、親が腕の立つ師匠を雇って教えてもらった」
「親御さんは娘思いなんですね」
「そこはどうなんだろ。一人娘で跡継ぎだし、色々と心配になっちゃうものなのかもね。旅に出ることを許可してもらうまでは大変だったな」
フレヤは懐かしむように遠い目をしていた。
一人娘が諸国漫遊の旅に出るとなれば、ほとんどの親は心配するものだろう。
二人で世間話をしていると、前方に紹介しようとしている宿屋が見えてきた。
「あっ、あそこです」
バラムにしては珍しい三階建ての建物。
一階が食堂兼ロビーになっていて、二階と三階に部屋があった気がする。
自分で泊まったことがあるわけではないので、ここの詳しい情報は曖昧だった。
「おおっ、立派な建物じゃん。これなら安心して泊まれそうかな」
「宿の中に食堂があるみたいなので、夕食には困らないと思います」
「やった、それは便利だね。ここまで案内してくれてありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
フレヤの自然な笑顔に惹かれる自分がいた。
きっかけは偶然だったが、楽しい時間をすごすことができてよかった。
「そうそう、マルクの店の場所を教えてくれない?」
「ええ、構いませんけど」
俺が説明を始めようとしたところで、フレヤは今日の散策で大体の地理を覚えたので、店の場所を聞けば見つけられそうだと教えてくれた。
そのため、彼女に確認をしながら、無事にたどり着けるように説明した。
「今日はすごく楽しかった、また会いに行くね!」
「俺も楽しかったです。それじゃあ、また会いましょう」
俺たちは互いに手を振り合って離れた。
充実した時間だったので、少し名残惜しい気持ちだった。
当然ながらこちらに恋愛感情を持っているような雰囲気はなく、さばさばした様子で会話を続けようとしていた。
「そういえば、マルクって何をしてる人なの?」
「料理店を経営してます」
「ああっ、やっぱり」
フレヤは納得したように頷いた。
無邪気な表情は彼女の気さくな性格を表すようだった。
「そんなふうに見えますか?」
「客商売をしてそうな雰囲気だなと思ったから。深い意味はないんだ」
気づけば夕暮れが近づいて川面が夕日の橙色に染まっている。
フレヤの横顔は涼しげで、整った顔立ちは魅力的に見えた。
異国情緒を感じさせる佇まいの影響なのか、自分の方が彼女に惹かれていることに気づいてしまった。
「そういえば、今日の宿は決まってますか? この時間からだとそろそろ探した方がよさそうですけど」
「それがまだなんだよね。どこかおすすめを教えてほしいかな」
「もちろん、いいですよ」
「もしも見つからなかった時は、マルクの家に泊まってもいいけどね!」
「……えっ」
「もう冗談だって、本気にしないでよ」
「はははっ、そりゃそうですよね」
女の一人旅ならば貞操観念はしっかりしていて当然だった。
動揺してしまったことを紛らわすように、フレヤから顔を逸らして景色に目を向けた。
「足の疲れもだいぶ楽になったし、そろそろ宿探しに行こうか」
「そんなに休んでないですけど、もう大丈夫ですか?」
「楽しくて張りきりすぎたっていうのもあるから。もう平気だよ」
フレヤの元気そうな笑顔を見て、問題ないだろうと判断した。
俺たちは川沿いの遊歩道にあるベンチから、町に向かって移動を始めた。
エレーヌ川の近くは自然が多く、気持ちのいい風が吹いていた。
こんな場所を歩いているとすがすがしい気分になる。
二人で移動を続けるうちに町中に戻ってきた。
帰宅のピークはすぎたようで、仕事帰りの人はまばらだった。
この時間帯は外食に向かう人、買い物帰りの人などが中心だ。
「そういえば、予算はどれぐらいですか? バラムは大都市ではないので、高級な宿屋は案内できませんけど、多少は上品なところでよければありますよ」
「とりあえず、安宿は却下かな。なるべくいいところを紹介して」
「分かりました。その方向でいきます」
いくつか頭の中で宿屋をピックアップして、一番適したところを導き出す。
だいたいの見当をつけて歩いていたが、目的の宿に向けて方向転換した。
「それにしても、長旅なのに資金が潤沢なんですね」
「うちの親が心配症なんだよ。路銀をがっつり持たされて重いんだよね」
「もしかして、俺のことを信用してくれるんですね。旅人が持ち金の話をするなんて、信頼関係がないとありえないですから」
ランス王国は比較的治安がよいため、引ったくりや置き引き、その他諸々を警戒する必要はほとんどなかった。
ロゼルやデュラスも同じようなもので、稀に現れる野盗にさえ気をつけていれば安全だった。
しかし、もっと離れた国ではそうとは限らないと聞いたことがある。
「私は商人としては見習いでも人を見る目はあるんだ。この町がどれぐらいの治安なのかは来たばかりで分からなくても、マルクは安心してよさそうだから」
「それはどうも。ちなみにバラムは安全ですよ。知り合いにセレブがいますけど、裕福なのを隠さなくても何も起きませんから」
「ええっ、お金持ちと知り合いなの? 今度会ってみたいなあ」
俺はアデルのことを言ったのだが、フレヤは目を輝かせていた。
しばらく彼女がバラムに滞在するのなら、会う機会はあるのかもしれない。
「また機会があれば紹介しますよ」
「うんうん、覚えておいてね」
フレヤは目力を強めてこちらを見ていた。
その圧力に押されて、たじろぎそうになった。
エレーヌ川を離れてから、途中までマーガレット通り周辺を歩いていたが、移動を続けるうちに彼女の条件に合いそうな宿屋のあるソレイユ通りに来ていた。
モントレイ通りはマリーさんの店に行くという目的で足を運ぶことがあっても、この通りには来ることが滅多になかった。
「見てもらえば分かると思うんですけど、この辺りはバラムの中で裕福な人が多いところです。もう少し先に行くと、フレヤのお眼鏡にかなうような宿屋があります」
「へえ、言われてみればたしかに。そんな雰囲気を感じるかな」
フレヤは初めて訪れるソレイユ通りに目を配っていた。
遠くの国から来たならば、興味をそそられるものだろう。
彼女の歩みがゆっくりになっていたので、それに合わせて足の運びを緩める。
「そういえば、槍の使い方はどこかで習ったんですか?」
「故郷はここほど治安がよくないから、親が腕の立つ師匠を雇って教えてもらった」
「親御さんは娘思いなんですね」
「そこはどうなんだろ。一人娘で跡継ぎだし、色々と心配になっちゃうものなのかもね。旅に出ることを許可してもらうまでは大変だったな」
フレヤは懐かしむように遠い目をしていた。
一人娘が諸国漫遊の旅に出るとなれば、ほとんどの親は心配するものだろう。
二人で世間話をしていると、前方に紹介しようとしている宿屋が見えてきた。
「あっ、あそこです」
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一階が食堂兼ロビーになっていて、二階と三階に部屋があった気がする。
自分で泊まったことがあるわけではないので、ここの詳しい情報は曖昧だった。
「おおっ、立派な建物じゃん。これなら安心して泊まれそうかな」
「宿の中に食堂があるみたいなので、夕食には困らないと思います」
「やった、それは便利だね。ここまで案内してくれてありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
フレヤの自然な笑顔に惹かれる自分がいた。
きっかけは偶然だったが、楽しい時間をすごすことができてよかった。
「そうそう、マルクの店の場所を教えてくれない?」
「ええ、構いませんけど」
俺が説明を始めようとしたところで、フレヤは今日の散策で大体の地理を覚えたので、店の場所を聞けば見つけられそうだと教えてくれた。
そのため、彼女に確認をしながら、無事にたどり着けるように説明した。
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充実した時間だったので、少し名残惜しい気持ちだった。
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