異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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異国の商人フレヤ

マイペースな教育係

 人ごみをかき分けて、広場を通り抜ける。
 町のどこにこれだけの人がいたのだと思うほど賑わっていた。

 楽しそうにグラスを傾ける人、陽気に踊っている人。
 そういった人々の様子、出店で売られている食べものや飲みものに興味が湧いた。

「はいよ、ごめんよ。通してもらえるかな」

 フレヤの父は俺たちを先導するように、先ほど話に出た店に向かおうとしている。
 確認したいことがあるものの、落ちついて話す場所へ移動することを優先したい。

 まだ、気持ちの整理がつかないままだが、何かをたずねることは控えておいた。

 やがて広場を離れると人波は落ちついてきた。
 その後はフレヤの父とルカが案内するように先を進んだ。

「うちのお父さんは思いこみが激しい時があるから、あんまり真に受けないでね」

「んっ……? ああっ、分かった」

 フレヤに生返事をしてから気づいた。
 どうやら、こちらの地元なのにフレヤの父のペースに巻きこまれている。

 先行きが読めないまま、一軒の食堂にたどり着いた。
 店内から明かりが漏れているものの、閉店に札がかかっている。

「マルクさん、ここが社長が貸し切りにした店です」

「……は、はあっ」

 ルカとの距離感が掴めず、曖昧に言葉を返すことしかできない。

「さあさあ、中に入って。積もる話もあるでしょう」

 フレヤの父に促されて、そのまま店内に足を運んだ。

 聞かされた通りに他の客は一人もいなかった。
 この店の給仕担当の男が手持ち無沙汰にしているところだった。

「お客さん、お戻りで」

「とりあえず、人数分の水か何か頼むよ」

 フレヤの父はここまでの酔狂な振る舞いとは打って変わって、給仕の男に鷹揚と注文を告げた。
 どちらが本当の彼なのか混乱するばかりだった。

「婿殿、気が利かなくてごめんー。そこの席に座っていいから」

「は、はぁっ……」

 店の中央にあるテーブル席の椅子へと着席するように勧められた。
 特に断る理由もなく、素直に従って腰を下ろした。

「――どうぞ、四名様分のレモン水です」

「うむっ、ご苦労さん」

 フレヤの父は給仕の男に労(ねぎらい)いの言葉をかけた。
  
「おっ、そうだ。これはチップだ」

「……チ、チップですか?」

 バラムの店でチップを払うところなど見たことがない。
 給仕の男はかろうじて意味を汲み取れたようで、銀貨を受け取って一礼した。

「ありがとうございます。他に注文はよろしいですか?」

「フレヤちゃん、お腹は空いてない?」

「……空いてない」

 フレヤは反抗期の少女のように素っ気ない返事をした。
 
「うーん、そう。婿殿は?」

「いえ、お構いなく」

 妙な呼び方をされているが、抵抗を覚えなくなっている自分に気づく。
 
「そうね、とりあえず注文はいいや」

「かしこまりました。失礼します」

 給仕の男が離れた後、フレヤの父は仕切り直すように口を開いた。

「自己紹介がまだだったね。わしはフレヤちゃんの父親、ブラスコ。砂原(さはら)の国、リブラからやってきた」

「社長、あっしもごあいさつを」

「うーん、好きにすれば」
 
 二人は主従関係にあるとは思えないほど打ち解けているように見えた。
 ルカはブラスコの方からこちらに向き直った。

「あっしはルカ。お嬢……フレヤ様の教育係みたいなもんで」

「……よろしくお願いします」

「よろしく頼んます」

 慇懃無礼な物言いと隙のない立ち振る舞い。
 少しだけこの男は苦手に感じられた。

「どういうわけか、お二人ともこちらをご存知のようですが、一応自己紹介をしておきます。この町で焼肉屋をやっているマルクです」

「それじゃあ、あいさつはこの辺でいいよね。最初にたずねたいんだけど、お父さんはどういうつもりだったの?」

 フレヤは冷静な物言いをしているが、今の彼女からは鋭い眼差しが垣間見える。
 それを向けられたブラスコは肝が冷えたような顔で汗をかいていた。

「フレヤちゃんが一人旅に出たから、ルカに監視を任せて……」

「もう子どもじゃないんだから、そんな心配しなくてもいいのに」

「フレヤちゃんはべナード商会の代表者の一人娘でもあるんだから、あなただけの問題じゃないの。お父さんは後継者に商会を継がせたくてだね」

 ブラスコはそう言った後、こちらにちらりと視線を向けた。
 威圧感というより妙にねっとりとした気配があり、思わず椅子の背もたれに身を引いた。

「社長、もうちょい分かりやすく言ったった方がいいかもしれんですね」

「おっ、そうか? ルカ、ちょっと頼む」

「まっ、任されときますわ」

 ルカはこほんと咳払いをすると、こちらに向き直った。

「マルクさん、リブラが遠すぎてピンとこないでしょ」

「……たしかにそうですね」

「べナード商会はリブラの王家にも認められた由緒ある商会なんです。規模は国一番で従業員の数も百人を超えますんで」

 何やらスケールの大きな話に相づちを打つことしかできずにいた。
 
「とりあえず、大規模なところというのは分かりました」

「そんで、フレヤ様はそこの跡取りということになります」

 俺はルカの話に頷いた後、フレヤの方をちらりと見た。
 彼女が出自を話したがらない理由が何となく分かる気がした。

「失礼な言い方になってしまうんですけど、俺があなたたちとどんな関係があるんでしょうか? フレヤには店を手伝ってもらっているだけで、彼女の実家がどのようなところであるかは気にしたことはありません」

「ふんふん、そうでしょうな。ですが、社長にとっては切迫した課題なんすわ」

 そこでルカは言葉を区切り、こちらを見定めるような視線を向けた。

「別に女性の跡継ぎでも構わんでしょう。ただ、従業員の数が多い上にリブラという国の中で商売をしようと思ったら、女性にはきついところがある。そんならと、社長本人と周りの人間で婿養子を迎えようっちゅう話だったんです」

 ここまでの文脈とブラスコの発言から、彼らの狙いが予想できた。

「……つまり、俺に婿養子になれということですか?」

「ほう、理解が早くて助かるってもんで。つまり、そういうことです」

 こちらのあずかり知らぬところで、妙な話が進んでいたようだ。
 状況が見えてくると、思わず目眩を覚えるような気分だった。
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