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ダンジョンのフォアグラを求めて
何者かにさらわれるマルク
会計を済ませた後、店の中から通りに出た。
相変わらず賑やかな様子で、通行人の量が多い。
一見したところ危険はなさそうだが、先ほどの男の存在が気にかかっている。
焼肉店は繁盛しているので、関係者の金回りがいいと思われてもおかしくない。
モルネアの方まで名が通っているとは考えにくいものの、あの男が店に来たことがあるという部分だけは本当なのかもしれない。
「……あまり考えすぎない方がいいか。さすがに往来のど真ん中で何か起きるとは思いたくない」
動揺がないわけではないものの、この街の雰囲気を味わっておきたかった。
こちらに足を運ぶ機会などそうそうないだろうから。
俺は気を取り直して、通り沿いの店に目を向けた。
道の左右に雑貨店や衣料品店、素朴な雰囲気のカフェが並んでいる。
すでに食事は済ませたので、何かスイーツを食べようと思いついた。
どの店に入ろうか眺めていると、店頭に様々な洋菓子が陳列された店を発見した。
バラムでは見かけないようなものが目に入る。
「……さっきのこともあるし、この店にするか」
この店はオープンカフェのようなかたちで、店の前にテーブルが並んでいる。
建物の中にいるよりも、外にいる方が安全なのではと考えた。
通りからガラスケースの陳列棚に近づいて、店主らしき男に声をかける。
「すいません、これを食べたいんですけど、どんな味ですか?」
四角いクレープみたいなものを指先で示した。
「ようこそ、旅の人。それはムスンメンだね。ハチミツやバターを塗って食べる」
「へえ、そんなものが……。それじゃあ、これを一つください」
男に銅貨二枚だと促されて、財布から小銭を出して差し出した。
人通りが多いため緊張を覚えるが、視線を感じたりはしない。
支払いを終えて席に座ると、店主の男が皿に乗ったムスンメンを持ってきた。
先ほど説明があったように皿の脇にハチミツとバターが盛ってある。
「どうぞ、ごゆっくり」
「ありがとうございます」
早速、用意されたナイフとフォークで食べ始める。
切り分けようとすると見た目通りに柔らかい。
転生前の記憶にあるクレープよりも、少しばかり厚みがあるように感じられた。
食べやすい大きさになったところで、ハチミツとバターを塗って口の中に運ぶ。
「……うん、美味しい」
素朴な味わいだが、シンプルで食べやすいところがよかった。
食感と味を総合すると、薄くて四角いパンケーキに見えなくもない。
これは庶民のおやつという立ち位置のようで、食べ頃サイズだった。
短い時間で食べ終えると、適度な満足感を覚えた。
「よかったら、食後のお茶にね」
「あっ、これはどうも」
店主がテーブルの上にカップを置いた。
ふと見覚えのある光景に何度か瞬きをした。
「……これはミントティーですか?」
「ああっ、そうだね。午後のひと時に最高の一杯だ」
「ま、まあ、合いそうですよね」
「サービスだから、お代はいいよ」
二杯目のミントティーに戸惑いを覚えるが、せっかくの厚意なので飲むとしよう。
味は何となく想像がつくので、そこまで期待せずに口に含む。
店主は定位置に戻っており、穏やかな表情でこちらを見ている。
「あ、甘くて美味しいですね」
彼は返事の代わりに小さく頷いた。
こちらの反応に満足している様子だ。
俺はミントティーを半分ぐらい飲んだところで、店から立ち去った。
再び街歩きを再開して、道の左右に続く店に目を向けた。
バラムでは見かけないような商品が色々と並んでいる。
こうして休暇を満喫できるのもフレヤやシリルのおかげなので、彼らにお土産を買っていこう。
ここがフレヤの祖国リブラなら、お土産を買って帰っても目新しさはないと思うが、モルネアで買ったものなら、新鮮に見えそうな気がする。
そういえば、店に立つ時は控えめな香りだが、香水をつけていることがあった。
「ムルカぐらい大きな街なら、香水ぐらい売ってるよな」
そこからいくつか店を回って話しかけやすそうな店員に声をかけると、取り扱っているところについてたずねた。
何軒か回るうちに一人の店員が具体的な場所を教えてくれた。
実際にその場に行ってみると、通りから路地に入ることになりそうだった。
治安のことが頭をよぎるものの、そこまで奥まったところではない。
目当ての店は目と鼻の先だったので、周囲に気を配りながら慎重に足を運ぶ。
香水を扱っている店はこじんまりとした個人経営の店だった。
他にお客はおらず、店主と思われる女が一人いた。
「――いらっしゃいませ」
店内に足を踏み入れると、こちらに気づいた女が声をかけてきた。
彼女は薄い笑みを浮かべているが、歓迎されているとも商売のカモが来たと思っているとも、どちらにも取れる表情だった。
「すいません、二十歳ぐらいの女性に贈りものをしたいんですけど」
「あらまあ、何て素敵なんでしょう。香水を贈ろうだなんて」
女は感心したように言った。
彼女はモルネアの民のようで小麦色の肌をしており、目鼻がはっきりした顔のつくりをしている。
「いえいえ、ちなみにおすすめを教えてもらえます?」
こちらがたずねると、彼女は店頭に並んだ香水をいくつか吟味し始めた。
「……この香りはいかが?」
「いい香りですね。ちょっと甘さが強いような気もします」
「あなたの想い人には、もっとすっきりした香りがいいのね」
「いやその、ははっ……」
フレヤのことを異性として意識しないわけではないが、明確に想っているとまでは言えないところだ。
俺は反応に困り、苦し紛れに愛想笑いを浮かべた。
「では、この香りは?」
次に提案された香水はさわやかな香りがした。
香りの中に柑橘類のような気配が感じられる。
「いいですね。これにしようかな」
「他にこういう香りもあるのよ」
続けて勧められたものは、花のような存在感のある香りがした。
――その直後だった。
「あれっ、何だ……」
ふいに足元がおぼつかなくなり、意識が遠のくのを感じる。
「うっ、ダメだ……」
全身の力が抜けて、強烈な眠気めいた感覚を押し戻すことができなかった。
俺の抵抗も力が及ばず、意識が遠のいていくのを感じた。
相変わらず賑やかな様子で、通行人の量が多い。
一見したところ危険はなさそうだが、先ほどの男の存在が気にかかっている。
焼肉店は繁盛しているので、関係者の金回りがいいと思われてもおかしくない。
モルネアの方まで名が通っているとは考えにくいものの、あの男が店に来たことがあるという部分だけは本当なのかもしれない。
「……あまり考えすぎない方がいいか。さすがに往来のど真ん中で何か起きるとは思いたくない」
動揺がないわけではないものの、この街の雰囲気を味わっておきたかった。
こちらに足を運ぶ機会などそうそうないだろうから。
俺は気を取り直して、通り沿いの店に目を向けた。
道の左右に雑貨店や衣料品店、素朴な雰囲気のカフェが並んでいる。
すでに食事は済ませたので、何かスイーツを食べようと思いついた。
どの店に入ろうか眺めていると、店頭に様々な洋菓子が陳列された店を発見した。
バラムでは見かけないようなものが目に入る。
「……さっきのこともあるし、この店にするか」
この店はオープンカフェのようなかたちで、店の前にテーブルが並んでいる。
建物の中にいるよりも、外にいる方が安全なのではと考えた。
通りからガラスケースの陳列棚に近づいて、店主らしき男に声をかける。
「すいません、これを食べたいんですけど、どんな味ですか?」
四角いクレープみたいなものを指先で示した。
「ようこそ、旅の人。それはムスンメンだね。ハチミツやバターを塗って食べる」
「へえ、そんなものが……。それじゃあ、これを一つください」
男に銅貨二枚だと促されて、財布から小銭を出して差し出した。
人通りが多いため緊張を覚えるが、視線を感じたりはしない。
支払いを終えて席に座ると、店主の男が皿に乗ったムスンメンを持ってきた。
先ほど説明があったように皿の脇にハチミツとバターが盛ってある。
「どうぞ、ごゆっくり」
「ありがとうございます」
早速、用意されたナイフとフォークで食べ始める。
切り分けようとすると見た目通りに柔らかい。
転生前の記憶にあるクレープよりも、少しばかり厚みがあるように感じられた。
食べやすい大きさになったところで、ハチミツとバターを塗って口の中に運ぶ。
「……うん、美味しい」
素朴な味わいだが、シンプルで食べやすいところがよかった。
食感と味を総合すると、薄くて四角いパンケーキに見えなくもない。
これは庶民のおやつという立ち位置のようで、食べ頃サイズだった。
短い時間で食べ終えると、適度な満足感を覚えた。
「よかったら、食後のお茶にね」
「あっ、これはどうも」
店主がテーブルの上にカップを置いた。
ふと見覚えのある光景に何度か瞬きをした。
「……これはミントティーですか?」
「ああっ、そうだね。午後のひと時に最高の一杯だ」
「ま、まあ、合いそうですよね」
「サービスだから、お代はいいよ」
二杯目のミントティーに戸惑いを覚えるが、せっかくの厚意なので飲むとしよう。
味は何となく想像がつくので、そこまで期待せずに口に含む。
店主は定位置に戻っており、穏やかな表情でこちらを見ている。
「あ、甘くて美味しいですね」
彼は返事の代わりに小さく頷いた。
こちらの反応に満足している様子だ。
俺はミントティーを半分ぐらい飲んだところで、店から立ち去った。
再び街歩きを再開して、道の左右に続く店に目を向けた。
バラムでは見かけないような商品が色々と並んでいる。
こうして休暇を満喫できるのもフレヤやシリルのおかげなので、彼らにお土産を買っていこう。
ここがフレヤの祖国リブラなら、お土産を買って帰っても目新しさはないと思うが、モルネアで買ったものなら、新鮮に見えそうな気がする。
そういえば、店に立つ時は控えめな香りだが、香水をつけていることがあった。
「ムルカぐらい大きな街なら、香水ぐらい売ってるよな」
そこからいくつか店を回って話しかけやすそうな店員に声をかけると、取り扱っているところについてたずねた。
何軒か回るうちに一人の店員が具体的な場所を教えてくれた。
実際にその場に行ってみると、通りから路地に入ることになりそうだった。
治安のことが頭をよぎるものの、そこまで奥まったところではない。
目当ての店は目と鼻の先だったので、周囲に気を配りながら慎重に足を運ぶ。
香水を扱っている店はこじんまりとした個人経営の店だった。
他にお客はおらず、店主と思われる女が一人いた。
「――いらっしゃいませ」
店内に足を踏み入れると、こちらに気づいた女が声をかけてきた。
彼女は薄い笑みを浮かべているが、歓迎されているとも商売のカモが来たと思っているとも、どちらにも取れる表情だった。
「すいません、二十歳ぐらいの女性に贈りものをしたいんですけど」
「あらまあ、何て素敵なんでしょう。香水を贈ろうだなんて」
女は感心したように言った。
彼女はモルネアの民のようで小麦色の肌をしており、目鼻がはっきりした顔のつくりをしている。
「いえいえ、ちなみにおすすめを教えてもらえます?」
こちらがたずねると、彼女は店頭に並んだ香水をいくつか吟味し始めた。
「……この香りはいかが?」
「いい香りですね。ちょっと甘さが強いような気もします」
「あなたの想い人には、もっとすっきりした香りがいいのね」
「いやその、ははっ……」
フレヤのことを異性として意識しないわけではないが、明確に想っているとまでは言えないところだ。
俺は反応に困り、苦し紛れに愛想笑いを浮かべた。
「では、この香りは?」
次に提案された香水はさわやかな香りがした。
香りの中に柑橘類のような気配が感じられる。
「いいですね。これにしようかな」
「他にこういう香りもあるのよ」
続けて勧められたものは、花のような存在感のある香りがした。
――その直後だった。
「あれっ、何だ……」
ふいに足元がおぼつかなくなり、意識が遠のくのを感じる。
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