異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
286 / 561
和の国サクラギとミズキ姫

ミズキと美食クラブ

 旧知の友のように笑顔を見せ合うアデルと謎の美女。
 姿形が日本人に似ている転生者を見たことはなく、彼女はこの世界の存在である可能性が高い。
 会話の様子からして、日本に近い文化の国があるということだろうか。

 俺は頭を抱えそうになりながらも、アデルに声をかける。

「そちらの人は知り合いですか?」

「彼女はミズキ。ずっと遠くのサクラギという国の王様の娘よ」

「はじめまして! 君たちはアデルの友人?」

「友人……みたいなものです」

 歯切れの悪い答えになるが、ただ知り合いというのも恩義のあるアデルに対して、冷たい態度になると思った。

「このイクラという食べもの、不思議な食感でとても美味しかったです」

 まさかの登場に戸惑ったものの、満足できる味なので感想を伝えた。

「そうだよね! サクラギから鮮度を保って運搬するの大変だったんだよ」

 王様の娘ということは姫になると思うのだが、ミズキは気さくな態度だ。
 接しやすい反面、どこまでこちらもカジュアルに接していいのか。
 出会ったばかりということもあり、見極めが難しいところである。

「あなたたち、お店を経営する者同士で気が合いそうね。二人で話してみたら」

 アデルは酔いが回ったようで、上機嫌に言った。
 年頃の男女をくっつけようとする年配者の言葉のようでもあるが、彼女の意図は言葉通りのものだと思われる。

「えっ、何屋さん? 食堂、カフェ?」

「焼肉屋……いや、肉料理の店です」

 焼肉屋を知らない可能性もあり、途中で言い直した。

「へえ、肉料理……いいね、あっちで話そっか」

「そうですね、分かりました」

 アデルの提案を無下にするわけにもいかず、別の席へ移動することにした。
 ワインの入ったグラスを手にして、ミズキと共に別のテーブルに移った。
 もっとも、アデルたちとの距離はわりと近くで、同じように屋外の席である。

「おーい、ミント水をちょうだーい!」

 ミズキは飲みものが手元になく、大きな声を出して店員に頼んだ。
 彼女の立場が経営者ということもあり、瞬く間にテーブルに運ばれてきた。

「うん、ありがと。それじゃあ、乾杯しよっか」

「はい、では」

 お互いに文化が違うため、口上を述べることなく、グラスとグラスを合わせた。

「あっ、君の名前を聞いてもいい?」

「マルクといいます。出身はランス王国のバラムです」

「バラムかあ…………ごめん、どこか分からないや」

「気にしないでください。そちらの故郷……サクラギからはずいぶん遠いので」
    
 まだ話し始めて間もないが、ミズキのペースに巻きこまれている気がする。
 一国の姫ともなれば、カリスマ性やそれに類する素質を持っていてもおかしくない。

「あたしもアデルも食へのこだわりが底抜けでね。そういう共通点もあって自然と仲良くなったんだ。彼女とはどこで出会ったの?」

「アデルとはうちの店で会いました。開店初日に客として来てくれて、色んな面でお世話になってます」

 こちらの言葉にミズキはうんうんと頷いた。
 なるべく意識しないようにしているが、彼女の端正な顔立ちと日本人風の外見に目を奪われる。

「分かるー。クールぶってるけど、けっこう面倒見がいいんだよね。でしょ?」

「そうですね。本人の前では気恥ずかしくて伝えにくいですけど」

 アデルはハンクと共に出てきた料理と酒に酔いしれている。
 俺が声を潜めたこともあり、本人には聞こえていないようだ。 
 
 手元に視線を向けて、グラスを傾ける。
 ワインを流しこむといくらか潤いを感じた。
 ミズキに対して気後れするところがあり、緊張感からのどに渇きがあった。

「うーん、君の魅力はどこにあるのかな?」

「あ、あの……そんなに見られると恥ずかしいです」

 会話を再開しようと向き直ったところで、ミズキの視線がこちらに固定されていることに気づいた。
 反射的に乙女のような言葉が口から出ていたことに気づき、次第に顔が火照るのを感じた。 

「あっ、ごめんごめん! アデルが他人に肩入れするなんて珍しいからさ。何か理由があると思うんだけど」

「……どうでしょう。俺にはちょっと分かりません」

 ここまでそう長い時間ではないが、ミズキの勢いに巻きこまれがちな自分がいる。
 彼女は魅力的な人物なので、特に悪い気がしないことは幸いなのだが。

「俺からも質問をしても?」

「うん、何でも答えるよ。あっでも、セクハラはやめようね」

「いえいえ、そんなことしませんから」

「地元の宴席はそんな質問が日常茶飯事だから、うんざりしちゃう。でっ、質問だよね」
 
 明るく奔放な振る舞いを見せているが、一国の姫として責任も背負っていると感じさせる言葉だった。ミズキなりの苦労もあるのだと思った。

「モルネアからサクラギは遠いと思うんですけど、普段はムルカの街にいるんですか?」

「ずっといるわけじゃないよ。他の国にもあたしの店があるから、旅を兼ねて回る感じ。どこも優秀な従業員がいるから、たまに顔を出すだけで十分だけどね」

「すごいですね。複数店舗の経営をしてるなんて」

「アデルを含めた何人かの知り合いと美食クラブっていうのを始めてね。美味しいものを集めるのにお金がかかるから」

「……美食クラブですか?」

 ミズキの口から出た言葉に興味を抱いた。
 美味しいものを探求する集まりというのものに魅力を感じる。

「その顔は興味ありって感じだね。入れてあげてもいいけどなー。いくらアデルのお気に入りでも、無条件にってわけにもいかないし……そっか、それがあるか!」

 彼女は何かを閃いたように椅子から立ち上がった。
感想 30

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

転生三男のまったり開発記 ~魔法がなくても、前世の知識とガラクタいじりで世界を便利に変えていきます~

戯言の遊び
ファンタジー
【前世のオタク知識で、不便な異世界をちょっと便利に大改造!】 前世は「何でも屋」の息子で、機械の解体と研究をこよなく愛する技術オタク。 そんな俺が転生したのは、魔法が存在するものの非常に不便な中世レベルのファンタジー世界だった。 しかも、辺境を治める貧乏男爵家の三男坊という、家督の重圧もない完全なる「自由枠」 豊かな自然という名の素材の宝庫を前に、俺の技術オタクとしての血が騒がないわけがない! 風で飛んでいく洗濯物と手荒れに悩むメイドのため、ただの木切れを削って作った『洗濯バサミ』 それが屋敷中で大絶賛されたのを皮切りに、気難しい凄腕の鍛冶職人や、利益の匂いに敏い若き女商人を巻き込んで、俺の「ちょっと便利なモノづくり」はどんどんエスカレートしていくことに!? 大げさな魔法もチートもない。 けれど、前世の知識と底なしの探究心で、不便な世界をまったりと便利に成り上がっていく、三男坊の領地開発記!

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」 「え?」 「は?」 「いせかい……?」 異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。 ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。 そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!? 異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。 時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。 目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』 半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。 そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。 伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。 信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。 少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。 ==== ※お気に入り、感想がありましたら励みになります ※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。 ※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります ※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった

よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】 皆様の熱い応援、本当にありがとうございます! ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です! 【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】 電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。 気がついたら異世界召喚。 だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。 52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。 結論――王都の地下下水道に「廃棄」。 玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。 血管年齢は実年齢マイナス20歳。 そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。 だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。 下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。 捨てられた魔道具。 長年魔素を吸い続けた高純度魔石。 そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。 チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。 あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。 汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。 スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。 この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。 魔力は毒である。代謝こそが命である。 軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。 でも、だからこそ――まず1話、読んでください。 【最新情報&著者プロフィール】 代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作! ◆ 2月に待望の【第2巻】刊行! ◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中! ◆ 【コミカライズ企画進行中】! すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!