異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
336 / 555
異世界の南国ヤルマ

南東の小国ヤルマに到着

しおりを挟む
「いやー、お腹いっぱい」

 南国そばの食堂を出たところで、ミズキがご機嫌に言った。
 四人で食べた角煮の量はなかなかのものだった。
 脂身もあるのでもたれそうなはずだが、この食堂の角煮は食べやすくて、ついつい箸が進んだわけである。

 俺たちは食堂を離れて、道の脇に停まる牛車へと戻った。 
 水牛は地面にしゃがみこんで眠たそうにしていた。

「姫様、今から出発して、夕方にはヤルマへ着くと予定です」

「了解、出発していいよ」

「それでは、参ります」

 御者台からアカネの声がして、牛車が動き出した。 

 いよいよヤルマが近づき、外の日差しは強くなっていた。
 客車の幕を上げて風通しをよくしていても、中の温度は上昇している。
 
 ミズキは平気なようだが、俺は暑さに慣れていなかった。
 全身にじんわりと汗が浮かぶ。

「こんなこともあろうかと――はい!」

「ありがとうございます」

 ミズキがうちわを取り出して、渡してくれた。
 エアコンや扇風機の存在を知っていると高望みしそうなところだが、この状況で贅沢を言ってはいられない。
 受け取ったうちわで風を送り、暑さが和らぐ感じがした。

「ミズキさん、魔王って本当にいるんですかね」

「それなんだけど、あたしも初耳でさ。サクラギ以外の国に行ったことがあるから、何となく伝承は聞いたことあるんだよね。まあでも、大半の人は昔話としか思ってないし、そんな存在が実在するなら、この世界を治めようとしそうじゃん」

 あははっといった具合で、ミズキは魔王のことが半信半疑のようだ。
 もしかしたら、ゼントクの与太話にすら思っている節もある。

「アデルはどうですか? 俺たちよりも詳しいように思います」

「うーん、どうかしら。魔王がいたとされるのは何百年も前な上に、どれも寓話めいた内容ばかりなのよ」

 当然ながら魔王が信仰の対象だったことがあるわけもなく、必要がなければ忘れ去られているといったことなのだろうか。
 俺自身、魔王が出てくる昔話はほとんど聞いたことがない。

「例えば、どんな内容ですか?」

「そうね、魔王の魔法で巨大な岩が削られて、それが一つの山になったとか」

「わあっ、スケールが大きい話だ」

 ミズキが楽しそうに笑い声を上げた。

「だいたい民話はこんなものじゃない? ランスにもサクラギにも、魔王に限らず似たような話はあるはずよ」

 アデルはミズキの反応を気にすることなく、平然とした様子で言った。

「サクラギの事情は知りませんけど、バラムでもそんな感じです。天を翔ける馬が空に輝く石ころをばら撒いて、それが星になったとか」

「へえ、ロマンがある話じゃん」

「えっ、さすがにありえないわよね」

 ミズキが現実的なコメントをしたアデルをじっと見た。

「いやいや、それじゃあ夢がないよ」

「そう? ペガサスが実在すると思う?」

 気心知れた仲ということもあり、二人は言い争うことはない。
 じゃれ合う程度のノリで話している。

「数ある寓話や伝承の中で、たまたま魔王が実在したってことだと思います。ゼントクさんのとっておきみたいでもあるようですし」

「あたしは断片的に聞いたことはあるけど、具体的にヤルマにいるとは知らなかったな」

「それが本当に魔王なら隠居生活をしていて、目立たないようにしているはずよ。ゼントクが知っている理由までは分からないけれど」

「あたしも謎なんだよねー。お父さんが魔王と知り合いとかあるわけないし」

「「「うーん」」」

 魔王に関する謎は深まるばかりだった。
 ヤルマで現地調査を行えば、手がかりは掴めるだろうか。

 窓から外を見れば、街道沿いには南国を思わせる植物が生えており、ヤルマが近づいていることを実感した。
 水牛は復活したようで順調に進んでいる。

 やがてどこからか波の音が聞こえて、遠くの方に砂浜が見えた。 
 夕方に差しかかる時間帯で、夕日の橙色が海面に広がっている。   

「うわぁ、海だ―!」

 ミズキも同じように気づいて、はしゃぐように声を上げた。

「なかなか海は見れないので、こうして波の音が聞こえると気分も変わりますね」

「みんなでガルフールのブルークラブを食べたのを思い出すわ」

「ははっ、トマトジュースとカニの姿蒸しでしたか。あれは予想外に美味しくて驚かされました」

 アデルが楽しそうに話しているのを見て、うれしい気持ちになる。
 彼女にはお世話になっているので、少しでも喜んでほしいものだ。

 それからさらに進んだところで牛車が停まった。

「地図通りなら、ここがヤルマの入り口です」

 御者台からアカネの声が聞こえた。
 それに反応して、俺たちは客車から外に出た。

 周囲には丸石を積み上げた石垣が続き、ところどころにハイビスカスの花が咲いている。
 日が傾いて気温は下がっているものの、じっとりと湿った空気が肌に触れた。

「なるほど、ここがヤルマか」

 発展を遂げているという雰囲気はないが、それなりに規模はあるようだ。
 あちらこちらに南国そばの食堂と同じような構造の民家が建っている。
  
「今日の宿や夕食の店を探した方がいいわね」

「はい、そうですね」

 アデルは楽しそうに見えるが、いつも通りに落ちついている。
 彼女の言うように暗くなる前に見つけておいた方がいい。

「アカネさん、牛車で町中を移動できそうですか?」

「うむ、道幅も広い故、問題なかろう」

「それじゃあ、今日の宿と食事のできる店を探しましょう」

「承知した」

 もう一度、牛車で移動をすることにした。
 日没までにもう少し時間はありそうなので、明るいうちに見つけられるはずだ。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...