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異世界の南国ヤルマ
魔王との遭遇
箸の扱いに慣れていても、誰も気にかける者はいない。
何度か食事を同席しているため、俺が使い方を覚えたように映るのだろう。
緊張感から解放されて、気ままに食事ができる。
早速箸を伸ばしてみるが、切り身がずいぶんとデカい。
これがマグロではなく、焼いた肉だったら男飯と命名したいところだ。
どんぶりの一番上に乗ったものを箸でつまんで、小皿に入ったしょうゆにつける。
マグロ丼である以上、白米と一緒に食べた方がいいのだが、輝くような鮮度の切り身を前にして、衝動を抑えきれるはずがなかった。
箸で掴んだ切り身を口の中に放りこむと、しょうゆの風味とみずみずしい感覚が広がった。
「うん、これは美味い」
マグロは赤身に見えるが、噛みやすい固さですぐに飲みこむことができた。
次の一切れは小皿に添えられたワサビをつけて食べる。
箸で掴んで口の中に入れると心地よい辛味がして、味の変化を感じる。
これだけ食べやすい味であれば、あっという間に食べ終わってしまいそうだ。
俺は何切れかの切り身を食べてから、白米と一緒に食べ始めた。
この米はマグロと相性がいいようで、相乗効果でさらに美味しく感じた。
何口か食べられたところで、店内を見回す余裕が出てきた。
満席とまではいかないものの、わりと繁盛しているようだ。
どの席でもマグロ料理を味わいながら、酒を飲んだり歓談したりしている。
カニを食べる時に無言になると聞いたことがあるが、仲間たちはマグロ丼に夢中で静かになっていた。
黙々とマグロを口に運んで、一緒に白米を食べる。
アカネに至っては完食しそうな勢いだった。
「お客さん、ヤルマへは観光っすか?」
席の近くに先ほどの少女がやってきた。
彼女は質問を投げかけつつ、慣れた手つきでお茶のおかわりを注いでいった。
「まあ、そんなところかな」
魔王を見るための旅とは言いにくい。
適当に答えておいた方が騒ぎにならないだろう。
「――リン、空いた席を片づけてもらってもいいか?」
「はいはい、ただいまっす」
少女は魔王と思われる男にリンと呼ばれた。
きびきびと働く姿に若いのに偉いなと思ってしまう。
それから、俺がマグロ丼を味わう間にアカネは三杯を完食して、周囲の人間を驚かせた。
アデルは美食家の矜持を見せるように、マグロ以外の食材が使われた料理も注文した。
やがて、全員が食べ終えたところで、魔王と思われる男が人数分のガラス皿を持ってきた。
「たくさん注文してくれたから、これはサービスだ」
皿には切り分けられたパイナップルとマンゴーが乗っている。
男は威圧感を覚えるような風貌だが、高圧的な人柄ではないようだ。
俺たちは出されたフルーツを食べ終えた後、会計のために席を立った。
「お客さん、よかったらまた来てください」
リンははつらつとした笑顔で、こちらを見ていた。
年齢は十代半ばぐらいに見えるので、年の離れた妹のような感覚を覚える。
男が魔王なのかはまだ分からないが、こうして若いうちから働くのは感心できることだと思った。
「会計どうします?」
「とりあえず、私が払っておくわ。店を出てから、自分の分をくれたらいいから」
「どうも、助かります」
アデルはカウンターへ向かい、会計のやりとりを始めた。
店の主人が魔王なのかは分からないまま、マグロ三昧の外に出た。
俺とミズキ、アカネの三人で店の前に立っている。
それっぽい気配はあったものの、実物を前にしてどうしたものかと手をこまねくような感覚だった。
少なくともリンは地元の少女というだけで、魔王とのつながりは見られない。
やたらなことを言って、彼女に不利益が生じることは避けたかった。
店の外で待っていると、少ししてアデルが出てきた。
「……マルク、やっぱりあの男が魔王みたい」
アデルの表情は硬くなっているが、そこまで切迫しているようには見えなかった。
彼女が中へ入るように促すので、出たばかりの店の中へと戻ることにした。
俺とアデルが店に入ると、続いてミズキとアカネもやってきた。
「今日はもう店じまいだ。リン、のれんを外してきてくれるか」
「はい」
リンはそそくさと店の外に向かった。
彼女が離れたのを見計らうように魔王が口を開く。
「あの子は我が魔王であることは知らない。彼女の前で明言することは避けてもらえるか」
俺たちはお互いの顔を見合った後、同じタイミングで頷いた。
そしてその直後、のれんを抱えたリンが中に戻ってきた。
「今晩はお客さんたちと飲むから、もう帰っていい。今日もお疲れ様」
「あの、後片付けは大丈夫っすか?」
「人手が足りなければ、この人たちに手伝ってもらうさ、なっ?」
男の表情は穏やかなのだが、言いようのない圧がある。
俺は苦笑いを浮かべそうになりながら、うんうんと頷いた。
「それじゃあ、大丈夫っすね。お先に失礼します!」
「じゃあな、また明日」
リンは前かけを外してから、大きく手を振って去っていった。
「そこの二人はサクラギに縁のある者だろう。大方、ゼントクに聞いてやってきたというところか」
「うん、そうだね」
男からの問いかけにミズキは素直に答えた。
「ゼントクの情報があったとしても、魔力を看破されなければ問題なかったが……。そこの女性が何かに気づいている時点で、こちらからたずねて正解だったな」
男は戸惑うような笑みを浮かべながら、アデルの方を見た。
「自分から、『ここに魔王がいると聞いて信じられるか』なんてたずねられるとは予想外だったわ」
アデルが苦笑交じりに言った。
どうやら、この人物が魔王ということで間違いないようだ。
何度か食事を同席しているため、俺が使い方を覚えたように映るのだろう。
緊張感から解放されて、気ままに食事ができる。
早速箸を伸ばしてみるが、切り身がずいぶんとデカい。
これがマグロではなく、焼いた肉だったら男飯と命名したいところだ。
どんぶりの一番上に乗ったものを箸でつまんで、小皿に入ったしょうゆにつける。
マグロ丼である以上、白米と一緒に食べた方がいいのだが、輝くような鮮度の切り身を前にして、衝動を抑えきれるはずがなかった。
箸で掴んだ切り身を口の中に放りこむと、しょうゆの風味とみずみずしい感覚が広がった。
「うん、これは美味い」
マグロは赤身に見えるが、噛みやすい固さですぐに飲みこむことができた。
次の一切れは小皿に添えられたワサビをつけて食べる。
箸で掴んで口の中に入れると心地よい辛味がして、味の変化を感じる。
これだけ食べやすい味であれば、あっという間に食べ終わってしまいそうだ。
俺は何切れかの切り身を食べてから、白米と一緒に食べ始めた。
この米はマグロと相性がいいようで、相乗効果でさらに美味しく感じた。
何口か食べられたところで、店内を見回す余裕が出てきた。
満席とまではいかないものの、わりと繁盛しているようだ。
どの席でもマグロ料理を味わいながら、酒を飲んだり歓談したりしている。
カニを食べる時に無言になると聞いたことがあるが、仲間たちはマグロ丼に夢中で静かになっていた。
黙々とマグロを口に運んで、一緒に白米を食べる。
アカネに至っては完食しそうな勢いだった。
「お客さん、ヤルマへは観光っすか?」
席の近くに先ほどの少女がやってきた。
彼女は質問を投げかけつつ、慣れた手つきでお茶のおかわりを注いでいった。
「まあ、そんなところかな」
魔王を見るための旅とは言いにくい。
適当に答えておいた方が騒ぎにならないだろう。
「――リン、空いた席を片づけてもらってもいいか?」
「はいはい、ただいまっす」
少女は魔王と思われる男にリンと呼ばれた。
きびきびと働く姿に若いのに偉いなと思ってしまう。
それから、俺がマグロ丼を味わう間にアカネは三杯を完食して、周囲の人間を驚かせた。
アデルは美食家の矜持を見せるように、マグロ以外の食材が使われた料理も注文した。
やがて、全員が食べ終えたところで、魔王と思われる男が人数分のガラス皿を持ってきた。
「たくさん注文してくれたから、これはサービスだ」
皿には切り分けられたパイナップルとマンゴーが乗っている。
男は威圧感を覚えるような風貌だが、高圧的な人柄ではないようだ。
俺たちは出されたフルーツを食べ終えた後、会計のために席を立った。
「お客さん、よかったらまた来てください」
リンははつらつとした笑顔で、こちらを見ていた。
年齢は十代半ばぐらいに見えるので、年の離れた妹のような感覚を覚える。
男が魔王なのかはまだ分からないが、こうして若いうちから働くのは感心できることだと思った。
「会計どうします?」
「とりあえず、私が払っておくわ。店を出てから、自分の分をくれたらいいから」
「どうも、助かります」
アデルはカウンターへ向かい、会計のやりとりを始めた。
店の主人が魔王なのかは分からないまま、マグロ三昧の外に出た。
俺とミズキ、アカネの三人で店の前に立っている。
それっぽい気配はあったものの、実物を前にしてどうしたものかと手をこまねくような感覚だった。
少なくともリンは地元の少女というだけで、魔王とのつながりは見られない。
やたらなことを言って、彼女に不利益が生じることは避けたかった。
店の外で待っていると、少ししてアデルが出てきた。
「……マルク、やっぱりあの男が魔王みたい」
アデルの表情は硬くなっているが、そこまで切迫しているようには見えなかった。
彼女が中へ入るように促すので、出たばかりの店の中へと戻ることにした。
俺とアデルが店に入ると、続いてミズキとアカネもやってきた。
「今日はもう店じまいだ。リン、のれんを外してきてくれるか」
「はい」
リンはそそくさと店の外に向かった。
彼女が離れたのを見計らうように魔王が口を開く。
「あの子は我が魔王であることは知らない。彼女の前で明言することは避けてもらえるか」
俺たちはお互いの顔を見合った後、同じタイミングで頷いた。
そしてその直後、のれんを抱えたリンが中に戻ってきた。
「今晩はお客さんたちと飲むから、もう帰っていい。今日もお疲れ様」
「あの、後片付けは大丈夫っすか?」
「人手が足りなければ、この人たちに手伝ってもらうさ、なっ?」
男の表情は穏やかなのだが、言いようのない圧がある。
俺は苦笑いを浮かべそうになりながら、うんうんと頷いた。
「それじゃあ、大丈夫っすね。お先に失礼します!」
「じゃあな、また明日」
リンは前かけを外してから、大きく手を振って去っていった。
「そこの二人はサクラギに縁のある者だろう。大方、ゼントクに聞いてやってきたというところか」
「うん、そうだね」
男からの問いかけにミズキは素直に答えた。
「ゼントクの情報があったとしても、魔力を看破されなければ問題なかったが……。そこの女性が何かに気づいている時点で、こちらからたずねて正解だったな」
男は戸惑うような笑みを浮かべながら、アデルの方を見た。
「自分から、『ここに魔王がいると聞いて信じられるか』なんてたずねられるとは予想外だったわ」
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