異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
385 / 561
ベナード商会と新たな遺構

ブラスコとの情報交換

 ブラスコの話を聞いていると途中で彼がもじもじするような動きを見せた。
 彼のことをよく知らないので、声をかけるべきか決めかねる。
 もしかして、トイレに行きたいのだろうか。

「フレヤちゃん、お腹空いちゃった」

 どうやら、尿意ではなく食欲の方だった。

「私も何か食べたい気分かな。この近くにいいお店はある?」

 フレヤが俺とアデルを見てたずねた。
 そば屋は美味しかったが、俺たちは食べたばかりだった。
 お腹が膨れていると食に関するアイデアは出にくい。

「それなら近くの茶店に案内するわ。団子が美味しい店なのよ」

 さすがはアデルだ。
 時間をかけずにさらりと答えた。

「チャミセ、ダンゴ……未知なる響き。アデル様、案内してくださいまし」

「あれ、あなたに名乗ったかしら?」

「鮮やかな赤髪と常人ならざるオーラ。そんな方はアデル様しかいないですよー」

 ブラスコは偉ぶらないどころか、気に入った相手に媚びるところが見受けられる。
 たぶん本心からだと思うが、根っからの商人気質でそうなってしまうのだろうか。

「まあとにかく、近くの茶店に案内するわ」

 言われた方のアデルだが、悪い気はしないようで気に留めていない。
 
 サクラギの人たちは奥ゆかしいところがあり、俺やアデルのように見た目が違う者が歩いていても注目することは滅多にない。
 しかし、ついさっき町を騒がせたばかりのため、フレヤとブラスコを遠目に見ている人がちらほらといた。
 二人はそんなことはどこ吹く風といった様子で、アデルに案内された茶店に移動した。

「ふーむ、ここがチャミセ」

 店の前に到着すると、ブラスコは上から下まで店構えを眺めるように頭を動かした。
 フレヤはそんな父を気に留めず、アデルと店の中に入っていく。
 
 彼女たちが店の人を呼びに行ったようなので、ひとまず軒先の席に腰かけた。
 大きな和傘が据えつけてあり、いい具合に日光を遮っている。
 店構えを見ていたブラスコが隣に腰を下ろした。

「婿殿、調子はどうだい?」

 大商会の社長とは思えないような穏やかな声だった。
 俺のことを気に入ってくれるのはありがたいが、彼ほどの立場の知り合いはいないため、緊張と居心地の悪さが混ざり合うような感覚になる。

「おかげさまで店は順調で……といっても、しばらくはフレヤと手伝いを希望した若者に任せていたんですけど」

「フレヤちゃんから聞いた感じだと、売上は好調みたいだよ。ランス王国は治安が安定しているし、街道沿いの交易も堅調だから、わし的には推している地域だったり……今のはここだけの話で。てへへっ」

 灯台下暗しという言葉が日本にあったと思うが、ランス王国をそんな視点――広い視野で商機がどこにあるか――で見たことはなかった。 
 ブラスコの才覚は優れているはずなので、彼の目には違う景色が見えているのだと理解できる。

「遺構はキャラバンで巡る途中に見つけたわけですもんね」

「まあ、そういうこと」

 暗殺機構の件からそこまで時間は経っていないため、秘密裏に動けば王城の関係者が警戒心を抱くはず。
 俄然、彼の行動に興味が湧いてきた。

「もしかして、城の方面とも連携済みだったり?」

「そこはまあ、想像にお任せってことで。話せる範囲だと遺構を調べるのに地元の冒険者の協力は得ているよ。あと、うちのルカがいないんだけど、あの男も調査に同行してたり」

 限定的な情報とはいえ、こうして打ち明けてくれることに喜びを感じる。

「フレヤのお目付け役だった人ですよね。強そうだったので、探索に向いてそう」

 フレヤとは婚約していない上に婿殿と読ばれているだけだが、ブラスコとの会話が義理の父親と話すような感じがして、少し恥ずかしい気持ちになった。
 いつか結婚するとして、妻の父親がこんなふうにフランクならばやりやすいはず。

 情報交換に区切りがついたところで、アデルとフレヤがお盆を持ってきた。
 緑茶の入った湯呑みと横長の皿にたっぷり乗せられた団子の数々。

「お父さんお待たせー。アデルにおすすめを教えてもらって、注文してきたから」

「ありがと、フレヤちゃん!」

 ブラスコは目を輝かせて団子を見つめていた。
 スイーツを前にした少女のような純真さを感じさせる。
 当然ながら、外見は丸い体型の中年男性なのだが。

「私たちはお茶で十分よね」

「はい、ありがとうございます」

 アデルから湯吞みを受け取ると、彼女はブラスコと反対側に腰を下ろした。
 フレヤとブラスコは団子を食べ始めている。

「二人と一緒にランス王国に戻りますけど、アデルはどうします?」

「さっきの客車に乗れるなら、私も戻ることにするわ。最近の拠点はバラムの町になっていたから」

「ハンクはサクラギに残りますけど、アデルまでとなったら寂しいので……それが聞けてよかったです」

「あら、うれしいことを言ってくれるのね」

 そう言ったアデルの横顔は美しかった。
 まるで女神のように手の届かない存在。 
 彼女の美貌に見惚れていると、横からツンツンと突かれた。

「婿殿、話は聞かせてもらった。アデル様の分の席なら……あるよ」

 ブラスコはわざとらしく間を空けて言った。
 それだけ伝えたかったようで、再び団子を食べ始めた。 
 
「あっ、聞こえました? 客車の空きがあるみたいですよ」

「ええ、もちろん。一緒に帰らせてもらうわ」

 遺構のことが気にかかるところだが、まずは四人で帰ることになりそうだ。
 ほどよい温かさのお茶を口に含むと、ほっこりするような気持ちになった。


 あとがき
 いつもお読み頂き、ありがとうございます。
 エールも励みになっています。
感想 30

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

転生三男のまったり開発記 ~魔法がなくても、前世の知識とガラクタいじりで世界を便利に変えていきます~

戯言の遊び
ファンタジー
【前世のオタク知識で、不便な異世界をちょっと便利に大改造!】 前世は「何でも屋」の息子で、機械の解体と研究をこよなく愛する技術オタク。 そんな俺が転生したのは、魔法が存在するものの非常に不便な中世レベルのファンタジー世界だった。 しかも、辺境を治める貧乏男爵家の三男坊という、家督の重圧もない完全なる「自由枠」 豊かな自然という名の素材の宝庫を前に、俺の技術オタクとしての血が騒がないわけがない! 風で飛んでいく洗濯物と手荒れに悩むメイドのため、ただの木切れを削って作った『洗濯バサミ』 それが屋敷中で大絶賛されたのを皮切りに、気難しい凄腕の鍛冶職人や、利益の匂いに敏い若き女商人を巻き込んで、俺の「ちょっと便利なモノづくり」はどんどんエスカレートしていくことに!? 大げさな魔法もチートもない。 けれど、前世の知識と底なしの探究心で、不便な世界をまったりと便利に成り上がっていく、三男坊の領地開発記!

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」 「え?」 「は?」 「いせかい……?」 異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。 ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。 そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!? 異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。 時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。 目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』 半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。 そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。 伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。 信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。 少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。 ==== ※お気に入り、感想がありましたら励みになります ※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。 ※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります ※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった

よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】 皆様の熱い応援、本当にありがとうございます! ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です! 【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】 電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。 気がついたら異世界召喚。 だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。 52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。 結論――王都の地下下水道に「廃棄」。 玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。 血管年齢は実年齢マイナス20歳。 そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。 だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。 下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。 捨てられた魔道具。 長年魔素を吸い続けた高純度魔石。 そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。 チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。 あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。 汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。 スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。 この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。 魔力は毒である。代謝こそが命である。 軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。 でも、だからこそ――まず1話、読んでください。 【最新情報&著者プロフィール】 代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作! ◆ 2月に待望の【第2巻】刊行! ◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中! ◆ 【コミカライズ企画進行中】! すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!