異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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ダークエルフの帰還

作戦会議とクッキー

 リリアとクリストフを紹介されてから、カタリナとブルームと別れた。
 今後のことを決めるために俺とラーニャ、同行してくれるリリアたちの四人で別室に移動した。
 その部屋は会議室のように使われているようで、調度品などは控えめだった。
 部屋の中心に大きなテーブルがあり、複数の椅子が用意されている。

「まあ、適当に座ってよ」

 この中で唯一兵長という肩書きのあるクリストフが仕切るかたちになった。
 エスタンブルクへ出向いた際にはシビアな場面も想定されるため、指揮系統が分かりやすい方が後々に益がある気がした。
 さすがのラーニャも協力を申し出てくれた相手には反目しなかった。

「――失礼します」

 それぞれに椅子に腰かけた後、メイドがカートを押してお茶を持ってきてくれた。
 カタリナの執務室にいたのとは別の人で、こちらのメイドの方が年上に見える。

「それじゃあ、始めようか」

 テーブルに紅茶とお茶菓子が用意されたところで、クリストフが切り出した。

「エスタンブルクですが、暗殺機構の事後処理に携わった経験を踏まえても情報が多くありません」  

「補足しておくと、リリアはあの後も各地で情報収集や危険の芽がないかを調査していたんだよ」

「なるほど。情報は古いようですけど、まずはラーニャ本人から聞くのが一番ですね」

 三人の視線が集まり、ラーニャは少し緊張したように見えた。
 エスタンブルクだけでなく、彼女がいた里についても情報が不足している。
 リリアたちが手助けしてくれる以上、あらかじめ共有しておくべきことだ。

「……エスタンブルク自体はダークエルフを排除するような風潮は見られない。ただ、軍の兵士に力がそこまでないことで、ならず者が好き放題にしている傾向がある。里を襲ったのも山賊まがいのことをしている連中だった」

 ラーニャの話を聞きつつ、いくつか疑問が浮かぶ。
 ここまでの時間でじっくり話せなかったり、会話が弾まなかったりが影響していたが、おぼろげに状況がイメージできるようになっていた。

「ラーニャさんほどの魔法があればというか、ダークエルフの人たちが魔法を使えるなら、撃退できそうですけど。その辺りはどうですか?」

 核心を突けたようで、リリアとクリストフも身を乗り出していた。
 ラーニャは少し黙っていたが、意を決するように口を開く。

「最初は私たちが優勢だった。しかし、連中の方が人数が多くて、人質を取られてしまい……」

 彼女は悔しそうな表情を浮かべた。
 そのまま俯いて、ぐっと唇を噛みしめている。
 洞窟での隠遁生活、故郷を失ったこと。
 かけるべき言葉が見つからず、俺は何も言えなかった。

 重たい空気を感じ始めたところで、サクッと何かが弾けるような音がした。
 思わず音のした方に目を向けるとクリストフがお茶菓子のクッキーをかじっていた。

「うん? 君たちも食べてみたら? メイドさんたちの作るお菓子はどれも美味しいから」

 彼はまるで少年のように微笑み、場を和ませようとしているのが分かった。
 王城の兵長を任されるだけあり、コミュニケーション能力の高さが窺えた。

「紅茶にクッキーは合いますよね」

 俺も皿に盛られた中から一枚手に取る。
 整った焼き上がりでクリーム色の生地の表面に果皮が見える。
 色からしてオレンジが使われているのだろう。

 口に含むとほのかな甘みとさわやかな風味が広がっていく。
 軽快な食感と絶妙な歯ざわり。
 クリストフの言うようにクオリティの高いクッキーだった。

「ラーニャさんもよかったらどうぞ」

 リリアが気遣いを見せて、ラーニャに笑顔を向ける。
 ラーニャは少し戸惑いの色を浮かべていたが、おずおずとクッキーに手を伸ばす。
 まるでクッキーを初めて目にしたかのような反応だった。

「……甘い」

 クッキーを口にした彼女の第一声がそれだった。
 貴重なものを食べるようにじっくりと味わっている。

「お前たちはこんな贅沢なものを毎日食べているのか?」

「日によって種類は変わるので、毎日クッキーを食べるわけではありません。街でケーキを買うこともあります」

「……そうか。それはいいな」

 ラーニャの声からはうらやましいという気持ちが読み取れた。
 ダークエルフの里とスイーツは結びつきにくく、質素な生活をしていたことが想像できる。
 アデルの故郷のエルフの村でも自給自足に近い生活が営まれていた。

「それじゃあ、こうしましょう。今回のことが解決したら、私が王都のお店を案内します。ケーキだけじゃなくて、美味しいパン屋さんもありますよ」

「……ありがとう」

 リリアの無邪気な様子にラーニャはためらいながらも感謝を述べた。

「場も和んだところで話の続きをさせてもらうね。ラーニャさんの故郷を偵察するに当たって、僕とリリアだけならどうにかなる。案内役として、ラーニャさんは来てもらう必要が歩けれど、マルクくんはどうする?」

「人質を取るような相手で一筋縄ではいかないかもしれません。それでも、乘りかかった船ですから、一緒に行かせてもらいます」

「これで話はだいたいまとまったね。エスタンブルクは遠いから、続きは移動中の馬車で聞かせてもらうさ」

 クリストフは颯爽と立ち上がり、部屋から出ていった。

「もしかして、馬車の手配に行ってくれたんですか?」

「ええ、そうだと思います。このまま待ちましょう」

 ひとまず小休止となり、紅茶片手にクッキーに手を伸ばした。
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