異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

文字の大きさ
426 / 555
ダークエルフの帰還

調査開始

しおりを挟む
「本来ならランス王国以外の人を助ける義務はないけれど、他ならぬマルクくんの頼みとあれば協力するよ」

「私もクリストフに同じです。マルク殿がこちらの店主を助けたいのなら、手助けさせてください」

 リリアとクリストフに期待していたが、予想通りの答えで安心した。
 一方、ラーニャからの返事はまだだった。
 押し黙ったままで彼女の真意は分からない。
 俺は沈黙に耐えかねて声をかける。

「……ラーニャさん、ごめんなさい。エスタンブルクに向かうのが遅くなってしまって」

「いや、それは関係ない。それよりこの宿の食事は美味だった。ダークエルフの里には一宿一飯の恩義という言葉がある。恩に報わねば一族の名が廃ってしまう」

「じゃあ、もしかして……」

「ああ、私も手伝おう」

 ラーニャの表情は固いままなのだが、はっきりとした声だった。
 打ち解けるのにもう少し時間はかかるとしても、彼女が義理堅いところがあると知った。

「ううっ、皆ざん、ありがとうございまず」

 仲間たちが協力を申し出たのを受けて、マリオは鼻水と涙を垂らしていた。
 すぐに本人もそれに気づき、自分のハンカチで顔を拭った。

「俺も仲間の安全に責任が持てないので、状況次第では調べるだけになるかもしれません」

 冒険者の時の名残で、思わず可能と不可能の境界線を伝えてしまった。
 無意識にぬか喜びさせたくない意識が働いたような気もする。

「いえいえ、ぞれでもうれじいでず」

 マリオはちょっと失礼と言って、調理場で顔を洗って戻ってきた。
 再び顔を見せた彼は憑きものが落ちたようにさっぱりした表情だった。

「とりあえず、僕らで調べて行くよ。マリオさん、地図と知る限りの情報を提供してもらえるかい?」

「承知しました。少々お待ちを」

 クリストフは淡々と指示を出し、マリオは地図を探しにこの場を離れた。
 少しして、丸まった紙を持った彼が戻ってきた。

「うちのペンション周辺の地図です。といっても森と山ばかりで、目印が少ないのが難点ってとこです」

「よしっ、分かった。まずはテーブルの上に広げてみてよ」

 マリオはそそくさと丸まった紙を広げた。
 全体の左下部分にペンションがあり、それに沿うように街道が見える。
 地図を確かめると分かりやすいのだが、森の中を突き抜けるように街道が通っているのが一目瞭然だった。

「まずここがうちのペンション。それからこっちがツヌーク山。標高はそこまで高くなくて、麓から山頂まではわりと距離が短い。危険なモンスターが出ると言われているのはこの山付近です」

 マリオは指先でツヌーク山の辺りをぐるぐるとなぞった。
 今見た限りの縮尺では比較的近いところにある。

「ちなみにここからその山まではどれぐらいかかります?」

「午前中に出れば昼までには着く。お客さんたちは体力がありそうだから、それよりも短い時間で行けるはず」

 そこでマリオは何かを思い出したように席を外した。
 戻ってきた彼が手にしていたのは人数分のバックパックだった。
 膨らみ具合から中に何かが入っていることが分かる。

「旅の装備はお持ちのはずだけど、山の準備はないでしょう? この中に水筒と食料が用意してあります」

「ありがとうございます。すごく助かります」

 俺が感謝を伝えるとマリオは笑顔を向けてくれた。
 それからもう一度地図を確認して、用意してもらったバックパックを背負った。

「頼んでおいて言うのもあれだけど、どうか気をつけて。危険を感じたら引き返してください」

「はい、大丈夫です」

 俺たちはペンションの外でマリオに見送られながら出発した。 
 馬に危険があってはいけないため、馬車は宿泊客用の馬小屋に移動してある。
 少し歩いたところで街道に出た。

「ここから向こうへ進んで、遊歩道を通ってツヌーク山に向かうルートですね」

 俺は地図の写しを手にした状態で仲間に伝えた。
 皆一様に平気そうな感じだったものの、移動開始後は口を閉じたまま歩いている。
 目的地まで離れていることもあり、今は陣形を組んでいない状態だった。

 ラーニャの経験は詳しくないが、少なくともリリアとクリストフは対人戦が主戦場であってモンスターを得意としているわけではない。
 それはどちらかというと冒険者の領分だ。
 グレイエイプの時でさえも行きがかり上、二人が助力したにすぎない。

 周囲は新緑を思わせる木々に囲まれており、自然とすがすがしい気分になる。
 朝のきらめく陽射しが風に揺れる枝葉を照らし、さわやかな風が通り抜けた。
 ここからそう遠くないところに危険なモンスターが出ることをにわかに信じがたい気持ちになる。
 危険にも色んな種類があり、具体的な情報がないことも厄介だった。

「元冒険者としては、情報が少ないことが気になります。以前、フェルトライン王国の街では同業者を狙った嫌がらせが横行していました。ただ、マリオさんの人柄的に恨みを買うようには思えませんし、彼がペンションを引き払った時のメリットも想像できません」

 沈黙が続くのに息苦しさを覚えて、思ったことを口にした。
 リリアとクリストフはこちらを向き、ラーニャはそのまま歩いている。
 三人の実現を頼りにしすぎている面もあるため、もう少し話をした方がいいと判断した。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身、動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物や魔法、獣人等が当たり前に存在する異世界に転移させられる。 彼が送るのは、時に命がけの戦いもあり、時に仲間との穏やかな日常もある、そんな『冒険者』ならではのスローライフ。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練とは如何なるものか。 ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

【完結】テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

処理中です...