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ダークエルフの帰還
思い巡らせるマルク
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クリストフに御者を任せているため、居眠りはしないでおきたいと思っていた。
しかし、これまでのこと――これからのことに思いを巡らせるうちに眠たくなってきた。
すでに夢の世界に入りかけている女子二人を起こさないように窓の開口部を大きくする。
涼しげな空気が入ってきて、いくらか頭がすっきりするような気がした。
眠気が軽くなると考えごとに意識が戻るのを感じた。
そもそも、ランス王国を含めた始まりの三国では平和が保たれているものの、それ以外のところでは秩序が乱れているところもある。
バラムのような辺境で暮らしていると考えることは少なかったが、暗殺機構の脅威はリリアが参加した掃討作戦が終わるまで存在した。
それにフレヤの故郷であるリブラもブラスコが平定するまでは、部族間のいざこざがあったことを耳にした。
転生前を含めて歴史に関心を抱く方ではなかったが、我が身に置き換えて考えられるようになれば話は別だ。
まず、始まりの三国に争いがないのは平和協定が締結されているからであり、そこに至るまでは戦乱が続いた時代があった。
暗殺機構について分からないことが多いが、リブラに関しては国の成り立ちとして考えた時に自然な流れで起きた戦いとも考えられる。
情報としてこれらの経緯を知ってはいるものの、平和な時代に生まれ育ったことで現実感を持つことが難しい側面がある。
国の成り立ちに関わるような争いと比較して、ラーニャの故郷を襲った者たちには利己的な目的があったのだろう。
過激な人間の考えを想像するのは難しいが、ダークエルフをさらうことや襲撃自体に狙いがあったのかもしれない。
暗殺機構と対峙した時と同じように、そこまでのことができる勢力に対して渡り合うことができるだろうか。
こうして考えを巡らせていると、ラーニャを助けるために安請け合いしてしまったような気になってくる。
焼肉屋の店主として経営に精を出していれば、まとまった利益を手にすることができて、充実感を得ることもできる。
――それなのにどうして、俺はラーニャを助けるのか。
リリアとクリストフは冒険者ではなく、兵士として人を助けることに慣れている。
両者の性質の違いは公的精神、奉仕に貢献できるかの違いがあると思う。
冒険者は受けた依頼をこなすことに力を入れるが、それは自らの利益のためであって、属する国や民のためという意識が動機になりにくい。
個人差もあるはずだが、俺自身が開業資金を貯めるという目的のために邁進していた。
もしも、気づかないうちに意識が変わったのだとすれば、これまでに出会った人たちの影響が大きいのかもしれない。
サクラギで出会ったミズキのように民を思う心。
Sランク冒険者という偉業を成し遂げても、他人を助けることへの労を厭わないハンクの思いやりの心。
彼らとすごすうちに少しずつ、自分の中で変化が起きたのだろう。
――ガタガタッゴトン。
眠らないように意識していても馬車の揺れが眠りへと誘う。
このまま寝たところでクリストフが文句を言わないと思うが、四人中三人がうとうとしているのは旅の安全を考えた時に心もとない。
「……そういえば」
携帯している荷物の中にミント味の飴が入っていることを思い出す。
普段は焼肉を食べたお客に口をさっぱりしてもらうために使っており、俺自身が気分転換のためになめることもあった。
ミントの扱いや飴に加工する技術はパメラの力を借りたのだった。
彼女はアフタヌーンティーを出す店の店主であり、各種ハーブにも精通していた。
ミントの飴は小さな布袋に包み紙にくるまった状態で入っている。
その中の一つを取り出して、そっと口の中に運んだ。
さわやかな風味が舌先に伝わり、鼻腔に向かって鮮烈な香りが届く。
眠気覚ましに使ったことはなかったが、これはなかなかに効き目がありそうだ。
「おや、なんだか不思議な匂いがします」
リリアが眠たげな目蓋を開いて、こちらに視線を向けた。
この香りに慣れていないような反応に見える。
「よかったら、一つどうです? 頭がすっきりしますよ」
包み紙にくるまった状態の飴を差し出す。
彼女は興味深そうに見つめた後、それを手に取った。
「これは飴でしょうか?」
「はい、そうです。香りが強いので、ちょっとびっくりするような味かもしれません」
リリアは包み紙を外して、中にある白っぽい飴を指先でつまんだ。
じっと眺めた後、おもむろに口の中に運んだ。
彼女の顔からは「そんな刺激的な味があるものか」という半信半疑な様子が見て取れたが、見る見るうちに顔色が変わっていく。
「マルク殿、これは一体……」
「ミントという植物の葉が原料です。爽快感があるんじゃないですか」
「……はい、とても」
上品なリリアが飴を吐き出すようなことはなく、じっと耐えるような表情で味わっている。
パメラの腕がいいことで甘さ自体は美味しい出来なので、けっしてまずいわけではない。
だからこそ、リリアも確かめるようになめているのだろう。
「なんだか騒がしいな……」
居眠りをしていたラーニャが目を覚まして、やんわりと抗議するように言った。
リリアの反応に気をよくした俺は、ラーニャにもミントの刺激を試してもらおうと思った。
しかし、これまでのこと――これからのことに思いを巡らせるうちに眠たくなってきた。
すでに夢の世界に入りかけている女子二人を起こさないように窓の開口部を大きくする。
涼しげな空気が入ってきて、いくらか頭がすっきりするような気がした。
眠気が軽くなると考えごとに意識が戻るのを感じた。
そもそも、ランス王国を含めた始まりの三国では平和が保たれているものの、それ以外のところでは秩序が乱れているところもある。
バラムのような辺境で暮らしていると考えることは少なかったが、暗殺機構の脅威はリリアが参加した掃討作戦が終わるまで存在した。
それにフレヤの故郷であるリブラもブラスコが平定するまでは、部族間のいざこざがあったことを耳にした。
転生前を含めて歴史に関心を抱く方ではなかったが、我が身に置き換えて考えられるようになれば話は別だ。
まず、始まりの三国に争いがないのは平和協定が締結されているからであり、そこに至るまでは戦乱が続いた時代があった。
暗殺機構について分からないことが多いが、リブラに関しては国の成り立ちとして考えた時に自然な流れで起きた戦いとも考えられる。
情報としてこれらの経緯を知ってはいるものの、平和な時代に生まれ育ったことで現実感を持つことが難しい側面がある。
国の成り立ちに関わるような争いと比較して、ラーニャの故郷を襲った者たちには利己的な目的があったのだろう。
過激な人間の考えを想像するのは難しいが、ダークエルフをさらうことや襲撃自体に狙いがあったのかもしれない。
暗殺機構と対峙した時と同じように、そこまでのことができる勢力に対して渡り合うことができるだろうか。
こうして考えを巡らせていると、ラーニャを助けるために安請け合いしてしまったような気になってくる。
焼肉屋の店主として経営に精を出していれば、まとまった利益を手にすることができて、充実感を得ることもできる。
――それなのにどうして、俺はラーニャを助けるのか。
リリアとクリストフは冒険者ではなく、兵士として人を助けることに慣れている。
両者の性質の違いは公的精神、奉仕に貢献できるかの違いがあると思う。
冒険者は受けた依頼をこなすことに力を入れるが、それは自らの利益のためであって、属する国や民のためという意識が動機になりにくい。
個人差もあるはずだが、俺自身が開業資金を貯めるという目的のために邁進していた。
もしも、気づかないうちに意識が変わったのだとすれば、これまでに出会った人たちの影響が大きいのかもしれない。
サクラギで出会ったミズキのように民を思う心。
Sランク冒険者という偉業を成し遂げても、他人を助けることへの労を厭わないハンクの思いやりの心。
彼らとすごすうちに少しずつ、自分の中で変化が起きたのだろう。
――ガタガタッゴトン。
眠らないように意識していても馬車の揺れが眠りへと誘う。
このまま寝たところでクリストフが文句を言わないと思うが、四人中三人がうとうとしているのは旅の安全を考えた時に心もとない。
「……そういえば」
携帯している荷物の中にミント味の飴が入っていることを思い出す。
普段は焼肉を食べたお客に口をさっぱりしてもらうために使っており、俺自身が気分転換のためになめることもあった。
ミントの扱いや飴に加工する技術はパメラの力を借りたのだった。
彼女はアフタヌーンティーを出す店の店主であり、各種ハーブにも精通していた。
ミントの飴は小さな布袋に包み紙にくるまった状態で入っている。
その中の一つを取り出して、そっと口の中に運んだ。
さわやかな風味が舌先に伝わり、鼻腔に向かって鮮烈な香りが届く。
眠気覚ましに使ったことはなかったが、これはなかなかに効き目がありそうだ。
「おや、なんだか不思議な匂いがします」
リリアが眠たげな目蓋を開いて、こちらに視線を向けた。
この香りに慣れていないような反応に見える。
「よかったら、一つどうです? 頭がすっきりしますよ」
包み紙にくるまった状態の飴を差し出す。
彼女は興味深そうに見つめた後、それを手に取った。
「これは飴でしょうか?」
「はい、そうです。香りが強いので、ちょっとびっくりするような味かもしれません」
リリアは包み紙を外して、中にある白っぽい飴を指先でつまんだ。
じっと眺めた後、おもむろに口の中に運んだ。
彼女の顔からは「そんな刺激的な味があるものか」という半信半疑な様子が見て取れたが、見る見るうちに顔色が変わっていく。
「マルク殿、これは一体……」
「ミントという植物の葉が原料です。爽快感があるんじゃないですか」
「……はい、とても」
上品なリリアが飴を吐き出すようなことはなく、じっと耐えるような表情で味わっている。
パメラの腕がいいことで甘さ自体は美味しい出来なので、けっしてまずいわけではない。
だからこそ、リリアも確かめるようになめているのだろう。
「なんだか騒がしいな……」
居眠りをしていたラーニャが目を覚まして、やんわりと抗議するように言った。
リリアの反応に気をよくした俺は、ラーニャにもミントの刺激を試してもらおうと思った。
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