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ダークエルフの帰還
この先の道のり
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ミント飴をなめたことが効果的だったようで、ラーニャはすっきりした表情をしている。
俺は彼女にたずねたかったことを訊こうと思い立った。
「ラーニャさん、質問してもいいですか?」
「どうした。何が知りたい?」
相変わらずぶっきらぼうな態度だが、出会ったばかりの頃よりも歩み寄る姿勢が感じられる。
ここまでの旅を通じて、多少は信頼関係を築けた気がした。
「地図を見れば距離は分かりますけど、この辺りからエスタンブルクまでどれぐらいかかります?」
「馬車で通ったことはないが、そう遠くはないはずだ。二日ほどすれば到着する」
「そうですか。教えてくれてありがとうございます」
会話が済んだところで、ラーニャは頬杖をついた状態で窓の外に視線を戻した。
彼女の故郷が近づいてきたため、物思いに耽っているようにも見える。
ブラスコの協力もあって事情を知ることができたものの、その全てを話してくれたわけではない。
いずれ話してくれることがあるかもしれないし、そうならないかもしれない。
どちらにせよ力を貸すと決めた以上、できる限りのことをするつもりでいる。
会話が途切れたところで、客車の中は静かになった。
リリアは人当たりがいいものの、話好きというほどしきりに会話をするようなタイプではない。
ラーニャは言わずもがなである。
初めて訪れる場所ということで、窓の外を流れる景色を眺めていても退屈しない。
時折、思い出したように世間話をしたり、通過した土地の生活に思いを馳せたりするうちに時間が経過していった。
それから四人で馬車の移動を続けた。
マリオのペンションを出発して以降は順調な道のりで、途中の宿屋で休みながら先へと進んだ。
エスタンブルクへと近づくほどに冬の気配を感じさせるような気温になり、山の方には冠雪が目につくようになった。
やがて、馬車の近くでも雪の気配が見え始めた頃、デュラス公国の国境にたどり着いた。
ランス、デュラス、ロゼルの始まりの三国同士の間では通過が容易になっている。
しかし、エスタンブルク側の関所を通るのに時間がかかった。
クリストフの巧みな交渉のおかげでダークエルフのラーニャがいるにもかかわらず、何ごともなく入国できたの幸いだった。
兵士同士ということもあり、彼は門番の扱いを上手にあしらっていた。
エスタンブルクの土地に足を踏み入れると白い雪は一段と濃くなった。
俺だけでなくクリストフとリリアも初めて見るようで、三人でしばらく見入っていた。
雪が降るような気候だけあって気温は低いのだが、ラーニャのアドバイスに従って厚手の上着を身につけている。
こちらの方が寒いことでランス王国よりも温かい衣服の品揃えがよかった。
バラムで身につけているような服装では凍えるような寒さになっていただろう。
馬車は関所を越えてから雪道をひた走っている。
この先について大まかなことは話し合っていたが、気になることもありラーニャに声をかける。
「ラーニャさん、ちょっといいですか?」
「どうした。言ってみろ」
「エスタンブルクの市街地は人が多いですよね」
こちらの意図が伝わりきらないようで、ラーニャは眉間にしわを寄せた。
怒っているというよりも解せないという意思表示であることが読み取れる。
「そう小さい街ではないからな。情報収集のためにカルンの街に向かうと話したはずだが……」
「そのことは覚えてますけど、ダークエルフの里を襲った連中と鉢合わせになる可能性はないですか? 人口が多いと色んな人がいますし」
エスタンブルクに詳しいわけではないが、稀少な種族のダークエルフがそこまで多いとは考えにくい。
そうなるとラーニャがいることで目立つ可能性がある。
「いや、あの者たちは山賊のようなものだ。わざわざ街にいるとは思えない。それにおたずね者になっているからな」
「まあたしかに。わざわざ衛兵に捕まる可能性を上げるとは考えにくいですね」
巨大な組織ならばいざ知らず。
山賊程度の勢力が主要都市の衛兵を敵に回す可能性は低い。
万が一に数で勝ったとしても、練度の違いから実力で敵うはずがない。
大きな街でも幅を利かせることができるのならば、わざわざこそこそと山賊まがいのことをする必要はないだろう。
「ランス王国だと盗賊の類は少ないんですけど、エスタンブルクにもいるんですね」
「冷涼で作物が採れる土地が限られているからな。それでも暖かい季節に耕すことができる者たちはそんなことはしないはずだ。やむにやまれぬ事情もあるらしいが、里を襲った者たちに憐れみをかけることはできない。あの者たちは食料だけが目的ではなかったみたいだった」
「……そうですか」
ラーニャはぶっきらぼうなところはあっても、冷酷な性格というわけではないと捉えている。
しかし、里を襲った山賊たちの話になると瞳に冷たい影が垣間見える。
家族や仲間を失ったこと、洞窟での隠遁生活がそうさせてしまうのかもしれない。
成り行きで力になると決めたとはいえ、彼女の支えになるには出会ってからの日が浅すぎる。
打たれ強い性格のようなので、遠巻きに見守るぐらいがちょうどいい気がした。
ダークエルフもエルフと同じように寿命が長いらしく、彼女からすれば孫みたいなものかもしれないが。
俺は考えを整理しながら窓の外を眺めた。
冠雪が道を白く染めて少し寒そうに感じられた。
リリアとクリストフに加えて魔法が得意なラーニャがいれば、山賊に劣勢になるとは考えにくいものの、数の面で不安が残る。
状況次第ではエスタンブルクの兵士に協力を仰ぐ方がいいのかもしれない。
あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
エールやいいねも励みになっています。
俺は彼女にたずねたかったことを訊こうと思い立った。
「ラーニャさん、質問してもいいですか?」
「どうした。何が知りたい?」
相変わらずぶっきらぼうな態度だが、出会ったばかりの頃よりも歩み寄る姿勢が感じられる。
ここまでの旅を通じて、多少は信頼関係を築けた気がした。
「地図を見れば距離は分かりますけど、この辺りからエスタンブルクまでどれぐらいかかります?」
「馬車で通ったことはないが、そう遠くはないはずだ。二日ほどすれば到着する」
「そうですか。教えてくれてありがとうございます」
会話が済んだところで、ラーニャは頬杖をついた状態で窓の外に視線を戻した。
彼女の故郷が近づいてきたため、物思いに耽っているようにも見える。
ブラスコの協力もあって事情を知ることができたものの、その全てを話してくれたわけではない。
いずれ話してくれることがあるかもしれないし、そうならないかもしれない。
どちらにせよ力を貸すと決めた以上、できる限りのことをするつもりでいる。
会話が途切れたところで、客車の中は静かになった。
リリアは人当たりがいいものの、話好きというほどしきりに会話をするようなタイプではない。
ラーニャは言わずもがなである。
初めて訪れる場所ということで、窓の外を流れる景色を眺めていても退屈しない。
時折、思い出したように世間話をしたり、通過した土地の生活に思いを馳せたりするうちに時間が経過していった。
それから四人で馬車の移動を続けた。
マリオのペンションを出発して以降は順調な道のりで、途中の宿屋で休みながら先へと進んだ。
エスタンブルクへと近づくほどに冬の気配を感じさせるような気温になり、山の方には冠雪が目につくようになった。
やがて、馬車の近くでも雪の気配が見え始めた頃、デュラス公国の国境にたどり着いた。
ランス、デュラス、ロゼルの始まりの三国同士の間では通過が容易になっている。
しかし、エスタンブルク側の関所を通るのに時間がかかった。
クリストフの巧みな交渉のおかげでダークエルフのラーニャがいるにもかかわらず、何ごともなく入国できたの幸いだった。
兵士同士ということもあり、彼は門番の扱いを上手にあしらっていた。
エスタンブルクの土地に足を踏み入れると白い雪は一段と濃くなった。
俺だけでなくクリストフとリリアも初めて見るようで、三人でしばらく見入っていた。
雪が降るような気候だけあって気温は低いのだが、ラーニャのアドバイスに従って厚手の上着を身につけている。
こちらの方が寒いことでランス王国よりも温かい衣服の品揃えがよかった。
バラムで身につけているような服装では凍えるような寒さになっていただろう。
馬車は関所を越えてから雪道をひた走っている。
この先について大まかなことは話し合っていたが、気になることもありラーニャに声をかける。
「ラーニャさん、ちょっといいですか?」
「どうした。言ってみろ」
「エスタンブルクの市街地は人が多いですよね」
こちらの意図が伝わりきらないようで、ラーニャは眉間にしわを寄せた。
怒っているというよりも解せないという意思表示であることが読み取れる。
「そう小さい街ではないからな。情報収集のためにカルンの街に向かうと話したはずだが……」
「そのことは覚えてますけど、ダークエルフの里を襲った連中と鉢合わせになる可能性はないですか? 人口が多いと色んな人がいますし」
エスタンブルクに詳しいわけではないが、稀少な種族のダークエルフがそこまで多いとは考えにくい。
そうなるとラーニャがいることで目立つ可能性がある。
「いや、あの者たちは山賊のようなものだ。わざわざ街にいるとは思えない。それにおたずね者になっているからな」
「まあたしかに。わざわざ衛兵に捕まる可能性を上げるとは考えにくいですね」
巨大な組織ならばいざ知らず。
山賊程度の勢力が主要都市の衛兵を敵に回す可能性は低い。
万が一に数で勝ったとしても、練度の違いから実力で敵うはずがない。
大きな街でも幅を利かせることができるのならば、わざわざこそこそと山賊まがいのことをする必要はないだろう。
「ランス王国だと盗賊の類は少ないんですけど、エスタンブルクにもいるんですね」
「冷涼で作物が採れる土地が限られているからな。それでも暖かい季節に耕すことができる者たちはそんなことはしないはずだ。やむにやまれぬ事情もあるらしいが、里を襲った者たちに憐れみをかけることはできない。あの者たちは食料だけが目的ではなかったみたいだった」
「……そうですか」
ラーニャはぶっきらぼうなところはあっても、冷酷な性格というわけではないと捉えている。
しかし、里を襲った山賊たちの話になると瞳に冷たい影が垣間見える。
家族や仲間を失ったこと、洞窟での隠遁生活がそうさせてしまうのかもしれない。
成り行きで力になると決めたとはいえ、彼女の支えになるには出会ってからの日が浅すぎる。
打たれ強い性格のようなので、遠巻きに見守るぐらいがちょうどいい気がした。
ダークエルフもエルフと同じように寿命が長いらしく、彼女からすれば孫みたいなものかもしれないが。
俺は考えを整理しながら窓の外を眺めた。
冠雪が道を白く染めて少し寒そうに感じられた。
リリアとクリストフに加えて魔法が得意なラーニャがいれば、山賊に劣勢になるとは考えにくいものの、数の面で不安が残る。
状況次第ではエスタンブルクの兵士に協力を仰ぐ方がいいのかもしれない。
あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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