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ダークエルフの帰還
女将のブルーベリーパイ
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どこかいたたまれないような空気は消え去り、普段通りに会話ができるようになった。
ラーニャはいつもと変わらず積極的ではないものの、リリアとクリストフを交えて談笑を続けた。
しばらくして、何かが焼けるような香ばしい匂いが漂ってきた。
焼き菓子について詳しくないが、クッキーやパイを焼いているのだと思った。
「――はい、お待たせね」
何が出てくるのか期待して待っていると、女将がトレーに皿を乗せて運んできた。
四枚の皿がそれぞれの前に並べられる。
彼女はフォークを置いてから、にんまりした顔で話し始めた。
「これはトローサの村でよく食べるブルーベリーのパイだよ。さあ、焼きたてのうちに召し上がれ」
朝食から時間が空いたことで食欲は十分にある。
用意されたパイは明らかに美味しそうだ。
生地の上の白いソースはクリームのような見た目で、ブルーベリーはバラムで見かけるものよりも小粒でたっぷり乗っている。
「うん、美味しいです」
リリアが早速食べ始めており、最速で感想を述べた。
俺も彼女に続いて食べることにする。
フォークで小さく刻み、それを刺して口へと運ぶ。
「――おおっ、完成度が高い」
ソースはクリームチーズのような味わいで、ベリーはさわやかな酸味と甘みが感じられる。
生地は軽い食感で食べやすく、女将が作り慣れていることがよく分かる。
ラーニャもこの味が気に入ったようで、わりとすぐに完食した。
スイーツを食べることで何かが解決するわけではないが、こうして甘いものを食べながら息抜きすることは緊張感を和らげるのに必要だと実感した。
パイを食べ終えたところで女将さんも近くの席に座っていた。
仕事の中休みのようで、お客との交流が好きそうな彼女は俺たちが完食したことに満足げな反応を見せている。
「女将さん、このブルーベリーはトローサ周辺で採れるものですか?」
「今は雪が降って時期じゃないんだけど、夏に野山で採れるんだよ。この辺りの夏場の緑はきれいなもんさ。お客さんたちにも見せてあげたいもんだね」
女将はしみじみとした様子で語った。
話しぶりから彼女がこの村を気に入っていることが分かる。
それから、ブルーベリーのこと以外にもトローサについて話を聞かせてもらった。
この空間に名残惜しさを感じたが、ずっといるわけにもいかない。
やがて誰にともなく出発しようという流れになり、俺たちは宿屋を出発した。
外に出ると雪は降っていないものの、上空は白い雲に覆われていた。
かろうじて日差しを感じられる程度で日光はそこまで強くない。
両足で積もった雪を踏みしめながら、馬車を預けてあるところまで向かう。
食堂での出来事からラーニャの様子が気がかりだったが、何ごともない顔で歩いていた。
性格的に打たれ強いところがあるようなので、必要以上に心配しなくてもいいのかもしれない。
「――マルク殿のお店ではあのようなお菓子は作らないのですか?」
視線を正面に戻すのと同時にリリアが声をかけてきた。
どこか浮きたつような声音から、彼女の期待が感じられた。
自分の店では作っていないことに加えてお菓子作りが得意なわけではないが、 純粋な眼差しを前に応えなければと張り切ってしまう。
「うちの店ではないですけど、同じ町に紅茶やお菓子に詳しい人がいて、その人の店に行けば似たようなものが食べられると思いますよ」
「それはいいことを聞きました。機会が合えば、バラムに行ってみます」
「おおっ、いいですね。ぜひ案内させてください」
リリアは微笑みを浮かべて、バラムを訪れる時のことを楽しみにしているようだ。
パメラの店でブルーベリーパイを見たことはないが、それ以外でも美味しいスイーツを振る舞ってくれるだろう。
王都で暮らすリリアでさえも満足させられるものを出してくれると予想できる。
やがて馬車を引き取ったところで、トローサの村ともこれでお別れかと思った。
雪上ではリリアよりもクリストフの方が適任ということになり、今日も彼が御者を務めることになった。
街道の手前に出た後、俺を含めた三人も馬車に乗った。
客車に暖房があるわけではないので、車内の空気はひんやりとしていた。
この狭さで火を起こせば煙たくなるのは分かりきったことで、上着を羽織って寒さを耐えることにした。
兵士として野外活動に慣れているリリア、洞窟生活が長かったラーニャ。
二人はそこまで堪えていない様子だが、俺はまだ寒さに慣れていない。
バラムの方が王都よりも温暖ですごしやすい気候であり、身体が寒冷地に適用しきれていないのだろう。
御者台にいるクリストフはさらに寒くなるため、不満をこぼさずに手綱を握る彼には頭が下がる思いだ。
幸いなことに街道の通行量が多いことで、道の上の雪は踏み固められていた。
ここまでの道中で蹄鉄を雪に合わせたものに変更してあり、馬の歩みは通常通りだと感じられる。
バラムではそういった仕様は見聞きしないため、このような面からも降雪地帯にいることを実感させられた。
トローサの村からカルンの街までは少し距離があるものの、馬車を使えばその日のうちに到着できる距離とのことだ。
仲間たちと話し合う中で地図を何度か確認しており、エスタンブルクの地理を把握しつつある。
この国は平地が中心のランスとは異なるようで、ところどころ山になっている。
季節は春を思わせる温かい時期と寒さと降雪が特長の寒冷期の二つの帰還が存在する。
地理と気候の両面が影響して、畑で作物が収穫できるのは限られた時期になる。
そのため、食料にシビアな部分があり、山賊が発生する要因になっているようだ。
ダークエルフの里を襲った集団が暴挙に出たのには、こういった背景があるため、一方的に悪だと決めつけることができない面もある。
ただそれでも連れ去られたり、命を奪われたりした人たちがいる以上、ラーニャに助力することへの決意に揺らぎはなかった。
あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
エールやいいねなど励みになっております。
今後もエスタンブルク編が続く展開になり、ラーニャの目的のためにマルクたちが協力します。
ラーニャはいつもと変わらず積極的ではないものの、リリアとクリストフを交えて談笑を続けた。
しばらくして、何かが焼けるような香ばしい匂いが漂ってきた。
焼き菓子について詳しくないが、クッキーやパイを焼いているのだと思った。
「――はい、お待たせね」
何が出てくるのか期待して待っていると、女将がトレーに皿を乗せて運んできた。
四枚の皿がそれぞれの前に並べられる。
彼女はフォークを置いてから、にんまりした顔で話し始めた。
「これはトローサの村でよく食べるブルーベリーのパイだよ。さあ、焼きたてのうちに召し上がれ」
朝食から時間が空いたことで食欲は十分にある。
用意されたパイは明らかに美味しそうだ。
生地の上の白いソースはクリームのような見た目で、ブルーベリーはバラムで見かけるものよりも小粒でたっぷり乗っている。
「うん、美味しいです」
リリアが早速食べ始めており、最速で感想を述べた。
俺も彼女に続いて食べることにする。
フォークで小さく刻み、それを刺して口へと運ぶ。
「――おおっ、完成度が高い」
ソースはクリームチーズのような味わいで、ベリーはさわやかな酸味と甘みが感じられる。
生地は軽い食感で食べやすく、女将が作り慣れていることがよく分かる。
ラーニャもこの味が気に入ったようで、わりとすぐに完食した。
スイーツを食べることで何かが解決するわけではないが、こうして甘いものを食べながら息抜きすることは緊張感を和らげるのに必要だと実感した。
パイを食べ終えたところで女将さんも近くの席に座っていた。
仕事の中休みのようで、お客との交流が好きそうな彼女は俺たちが完食したことに満足げな反応を見せている。
「女将さん、このブルーベリーはトローサ周辺で採れるものですか?」
「今は雪が降って時期じゃないんだけど、夏に野山で採れるんだよ。この辺りの夏場の緑はきれいなもんさ。お客さんたちにも見せてあげたいもんだね」
女将はしみじみとした様子で語った。
話しぶりから彼女がこの村を気に入っていることが分かる。
それから、ブルーベリーのこと以外にもトローサについて話を聞かせてもらった。
この空間に名残惜しさを感じたが、ずっといるわけにもいかない。
やがて誰にともなく出発しようという流れになり、俺たちは宿屋を出発した。
外に出ると雪は降っていないものの、上空は白い雲に覆われていた。
かろうじて日差しを感じられる程度で日光はそこまで強くない。
両足で積もった雪を踏みしめながら、馬車を預けてあるところまで向かう。
食堂での出来事からラーニャの様子が気がかりだったが、何ごともない顔で歩いていた。
性格的に打たれ強いところがあるようなので、必要以上に心配しなくてもいいのかもしれない。
「――マルク殿のお店ではあのようなお菓子は作らないのですか?」
視線を正面に戻すのと同時にリリアが声をかけてきた。
どこか浮きたつような声音から、彼女の期待が感じられた。
自分の店では作っていないことに加えてお菓子作りが得意なわけではないが、 純粋な眼差しを前に応えなければと張り切ってしまう。
「うちの店ではないですけど、同じ町に紅茶やお菓子に詳しい人がいて、その人の店に行けば似たようなものが食べられると思いますよ」
「それはいいことを聞きました。機会が合えば、バラムに行ってみます」
「おおっ、いいですね。ぜひ案内させてください」
リリアは微笑みを浮かべて、バラムを訪れる時のことを楽しみにしているようだ。
パメラの店でブルーベリーパイを見たことはないが、それ以外でも美味しいスイーツを振る舞ってくれるだろう。
王都で暮らすリリアでさえも満足させられるものを出してくれると予想できる。
やがて馬車を引き取ったところで、トローサの村ともこれでお別れかと思った。
雪上ではリリアよりもクリストフの方が適任ということになり、今日も彼が御者を務めることになった。
街道の手前に出た後、俺を含めた三人も馬車に乗った。
客車に暖房があるわけではないので、車内の空気はひんやりとしていた。
この狭さで火を起こせば煙たくなるのは分かりきったことで、上着を羽織って寒さを耐えることにした。
兵士として野外活動に慣れているリリア、洞窟生活が長かったラーニャ。
二人はそこまで堪えていない様子だが、俺はまだ寒さに慣れていない。
バラムの方が王都よりも温暖ですごしやすい気候であり、身体が寒冷地に適用しきれていないのだろう。
御者台にいるクリストフはさらに寒くなるため、不満をこぼさずに手綱を握る彼には頭が下がる思いだ。
幸いなことに街道の通行量が多いことで、道の上の雪は踏み固められていた。
ここまでの道中で蹄鉄を雪に合わせたものに変更してあり、馬の歩みは通常通りだと感じられる。
バラムではそういった仕様は見聞きしないため、このような面からも降雪地帯にいることを実感させられた。
トローサの村からカルンの街までは少し距離があるものの、馬車を使えばその日のうちに到着できる距離とのことだ。
仲間たちと話し合う中で地図を何度か確認しており、エスタンブルクの地理を把握しつつある。
この国は平地が中心のランスとは異なるようで、ところどころ山になっている。
季節は春を思わせる温かい時期と寒さと降雪が特長の寒冷期の二つの帰還が存在する。
地理と気候の両面が影響して、畑で作物が収穫できるのは限られた時期になる。
そのため、食料にシビアな部分があり、山賊が発生する要因になっているようだ。
ダークエルフの里を襲った集団が暴挙に出たのには、こういった背景があるため、一方的に悪だと決めつけることができない面もある。
ただそれでも連れ去られたり、命を奪われたりした人たちがいる以上、ラーニャに助力することへの決意に揺らぎはなかった。
あとがき
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
エールやいいねなど励みになっております。
今後もエスタンブルク編が続く展開になり、ラーニャの目的のためにマルクたちが協力します。
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