異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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彼女たちの未来

会長との打ち合わせ

 ぬくもりを感じるような春の陽射しが降り注ぎ、通りでは行き交う人々の活気が感じられる。
 俺とフレイはカルンの城館へ向かっていた。
 道すがら簡単な確認を行いつつ、打ち合わせが成功に終わることを願うばかりだった。

 城館はカルンの郊外にあり、そこに商業組合の会長がいるそうだ。
 今回の出店計画を進めるには、まずその人物に話を通す必要がある。

 冒険者を引退してからランスの王族と話したり、南方のヤルマでは勇者と魔王に出会ったりした。
 カルンの街はまずまずの規模ではあるのだが、先進的なレイランドほど栄えているわけではない。

 そんな背景もあってか、この街の偉い人に会うからといって、心の準備みたいなものは必要なかった。
 その一方でフレイを見る限り、表情がこわばっているように見える。

 「もしかして、緊張してますか?」

 歩きながら声をかけると、フレイは少し肩をすくめて答えた。

 「……ええ。正直、すごく。でも……やるしかないですね」

 言葉の端々から緊張感と出店にかける想いがにじんでいる。
 ここまでの準備を手伝ってくれたモモカの協力もあってか、フレイの足取りに迷いは感じられなかった。

 やがて周囲の建物が徐々に少なくなり、芝生の広がる庭園の中に立派な館が目に入った。
 どうやら、あれが聞いていた城館のようだ。
 その名の通りに小規模な城に見えなくもない。

 俺たちは城館の門をくぐり、玄関から中へと足を運んだ。
 商業組合の関係者が出入りしているようで、数人があちらこちらに歩いていた。
 それから受付で用件を伝えると案内を受けて応接室に通された。

 重い扉がゆっくりと開いた後、まず目に入ったのは高い天井と広い空間だった。
 部屋の中央には白い大理石のテーブルが置かれ、そのまわりには黒い革張りの椅子が並んでいる。
 椅子の背もたれには、細かい獅子の彫刻が施されていた。

「椅子にお座りになってお待ちください。少ししたら会長がやってきます」

「ありがとうございます」

 俺とフレイは促された通りに椅子に腰を下ろした。
 テーブルの下には絨毯が敷かれており、柔らかい感触が足元に伝わってくる。
 調度品を見る限り、カルンの経済は潤っているようだ。

 二人で室内を眺めていると、再び応接室の扉が開いた。
 そこに現れたのは落ち着いた雰囲気の中年の男性だった。
 これが初対面なのだが、どこか貫禄を感じさせる佇まいから商業組合の会長であると理解した。 

「遠いところからご苦労だね。すでに知っていると思うが、会長のアレストだ」

 アレストはよろしくと言って、向かい側の椅子に腰かけた。
 
「ランス王国出身のマルクといいます」

 俺は椅子から立ち上がって名乗った後、この場の主役であるフレイに場を譲った。
 フレイも同じように立ち上がり、おずおずと口を開いた
 
 「フレイと申します。ダークエルフの皆と一緒に、ハーブを使った店を開こうと考えています」

 フレイの緊張した様子が伝わってくるが、はっきりとした声で話している。
 彼女は自己紹介をした後、どうして店を始めた以下の理由を語り始めた。 

 囚われの日々を経て、新たな生活の場を築こうとしていること。
 ハーブの知識を活かし、体にやさしい商品を作ること。
 人と関わりながら、地域の一員として働きたいという願い。

 アレストは頷きながら耳を傾け、時折穏やかな表情を浮かべていた。
 フレイの話が終わるとアレストは数秒の沈黙を挟んで口を開いた。

 「モモカさんが認めている時点で信頼に足る話だとは思っていたが、君自身の言葉を聞いて確信したよ。協力を惜しむ理由はない」

 フレイが息を呑む様子が伝わってきた。
 自ら訴えかけたことが通じたという実感から、とても驚いているようだ。

 「街の東側――市場の近くに空いている区画がある。それなりに人の流れもあるが、喧騒を離れた閑静な場所だ。君さえよければそこを提供しよう」

 俺は横でうなずきながら、フレイの様子を温かい気持ちで見ていた。

 「……ありがとうございます。本当に助かります」

 フレイの声は少し震えているが、しっかりとした強さがあった。
 アレストはそんな様子の彼女に笑みを向けている。
 こうして対面することで、アレストが親切な人物だと知ることができた。

 「店の名前は決まっているのかね?」

 アレストの問いに、フレイはほんの少し間をおいてから答えた。

 「アンソワーレといいます。古い言葉で陽の当たる場所という意味です。これから私たちは……自由に生きることを望んでいます」

 アレストはその言葉に静かにうなずいた。
 ヒイラギからそう遠くないカルンの街にも、山賊のことやダークエルフの身に何があったかは伝わっているのだろう。
 ましてや商業組合の会長ともなれば、近隣の情勢に精通しているものだ。

 「よい名だ。カルンに新しい店が増えること、私も嬉しく思う」

 モモカの根回しも影響したのかもしれないが、アレストとの打ち合わせは成功だった。
 ダークエルフの人たちの新たな一歩が始まると思うと感慨深いものがある。

「できる限りのことはしたいと思うが、すぐに予定の時間でね。代わりに部下と話を進めてもらえるかな」

「あ、はい。分かりました」

「それにしても、自分の店を出したいという人の話はいいものだ。聞いていてやる気が出てくる」

 アレストはそう告げた後、足早に部屋を出ていった。
 その姿が扉の向こうに消えると広い室内に静けさが戻った。
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