異世界で焼肉屋を始めたら、美食家エルフと凄腕冒険者が常連になりました ~定休日にはレア食材を求めてダンジョンへ~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家

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彼女たちの未来

夕暮れの帰り道

 城館を出てから、目的地もなくフレイを見送るつもりでいた。
 すると歩いている途中でフレイが足を止めた。

「あの……。ここから近いみたいなので、空き店舗の状態を見ていきたいです」

「いいんじゃないですか。このまま解散かなと思ってましたし」

 フレイの提案に同意したところで、今いるのがどの辺りか曖昧なことに気づく。
 カルンの街で滞在してしばらく経つが、面積が広いことで土地勘が満足にあるとは言いがたい。

「そこまでの道は分かります?」

「ダリオさんから説明があった時、何回も見ていたのでばっちりです」

「おおっ、それは心強い」

 フレイに関心を示しつつ、再び歩き出した小柄な背中についていく。
 少し歩を速めて隣に並び、二人で目的の空き店舗へと向かう。

 時折、フレイと一緒にいると囚われの日々が原因で、心に痛みが残っていないか気がかりになる。
 しかし、ダークエルフの人たちが活動するための店を始めようとしている以上、軽はずみな言葉で水を差すようなことはしたくなかった。

「もしかすると、お腹空きましたか?」

「……えっ?」

 不意の問いに間の抜けたような声が漏れた。
 フレイが探るような目でこちらに視線を向けた。

「何だか難しい顔に見えました」

「いやいや、深い意味はありませんよ」

 こちらが手短に応じると、フレイはそれ以上たずねてこなかった。
 質問を受けたことで考えが中断したが、人族とダークエルフでは時間の概念が異なるため、自分自身の尺度で彼らを推し量ることなどできはしないのだ。

 それからフレイは道順を確信するかのような足取りで先へと進んだ。
 街の角を曲がり、東市場の外れにある空き区画へと向かう。
 
「ええと、着きました。この辺りだと思います」

「ほほう、ここですか」 

 案内されたその場所は通りから少し外れていたが、人の流れは悪くない。
 それに加えて周囲に喧騒がなく、落ちついた雰囲気が漂っていた。
 空き区画とされる一角には一目で営業していないことが分かる店舗があった。

 「ここがアンソワーレになると思うと感慨深いです」

 フレイがそう言って、しみじみとした様子で建物を眺めた。
 鍵はまだ渡されていないが、ガラス窓越しに見える内部は思った以上に広い。
 日が傾き始めたことで店先の影が長く伸びる。

「自分の店ではなくても、新しい店が始まるというのはいいものです。手伝わせてもらうことができてよかったと思います」

 フレイに感化されるように素直な感想を口にしていた。
 初心に帰るような思いにもなり、誰かのためという意味以上に自分のためにもなっているような感覚さえある。

「マルクさんがいて、とても助かります。これからもよろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそ」

 それからしばらく店を眺めていたが、フレイに帰る気配が見られなかったため、暗くなる前に帰るようにと見送った。
 

 翌日、朝から東市場の外れに向かった。
 先に城館のダリオから鍵を受け取ったフレイが待っており、合流したタイミングで店舗の中へと足を踏み入れた。

 木の軋む音と共に扉が開くと、室内にたちこめていた微かな埃の匂いが鼻をかすめた。
 窓は小さいが数が多く、日差しが柔らかく差しこんでいる。
 しっかりと磨けば十分に光の届く場所になりそうだった。

 「……思ったより広いです」

 そう言いながら、フレイは足を進め、床を踏みしめる。
 彼女は小さな舞い上がる塵に手をかざし、目を細めた。

 「床は張り替えが必要ですね。あと、カウンターはここに石器できるかも」

 俺は持ってきた見取り図を机に広げて、店内をぐるりと見渡した。
 入口から奥へと続く細長い空間。
 壁は木板でいくらか変色しているが、傷みは少ない。
 奥には小さな部屋があり、薬草の調合室として使えそうだった。

 「……この柱、すごく雰囲気があります。残したいですね」

 フレイが言ったのは、店の中央にある太い梁柱のことのようだ。
 木目が浮き立ち、触れると温もりを感じるようだった。
 
 「新しくするよりも活用してもいいかもしれません。この店にはそういう雰囲気がぴったりで」

 「アンソワーレという名前にふさわしい、古くて温かなものを感じます」

 フレイはダークエルフということもあり、人族の俺が考える以上に自然物や年月を重ねたものに価値を感じるようだ。
 
 やがて午前中のうちに業者がやってきて、内装の相談に乗ってくれた。
 ダリオに紹介してもらった通り、カルンでは経験豊富な工房の職人で意図を的確に汲み取ろうとしてくれた。

 「木枠の棚を左右に、奥に作業台。客席は三つぐらいでどうでしょう」

 「内壁は塗り直して、色は……落ち着いた土色がいいですね」

 「小窓にレースのカーテンを入れると、印象が柔らかめになりますよ」

 フレイの意見が自然と中心になっていく中で、俺は時折フォローするように図面を見ながら口をはさんだ。
 業者の経験が裏打ちされるように、スムーズに打ち合わせは進んでいった。

 昼すぎには作業内容がまとまり、次週から本格的な改装が始まることになった。
 壁の塗り替え、床の張り替え、照明の取り付け、什器の搬入――やることは山積みだったが、不思議と不安はなかった。

 「……本当に始まるんですね」

 フレイがぽつりとつぶやいた。
 頬にはうっすらと汗が浮かび、手元のメモにはびっしりと文字と図が書かれている。
 充実感のにじむ表情からはしっかりと未来を見据えていることが伝わってきた。

 「お店を作っていく段階で、少しずつ雰囲気が出るんですね」

 フレイの言葉に、俺はゆっくりとうなずいた。

 「きっと、にぎやかな場所になりますよ」

 「そうなるといいな……」

 窓から差しこむ午後の光が木の床を照らしている。
 まだ何も置かれていない店内は空っぽだが、その空白の中に新しい何かが始まるような気配が感じられた。
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