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彼女たちの未来
街との関わり
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アンソワーレが開店してから一か月が過ぎた頃、店は街の生活に自然と溶けこみ始めていた。
最初は物珍しさで足を止める人が多かったが、今ではリピーターが増えている。
通りを歩く人の間で「この飲んだ夢の始まり、良かったわよ」と言葉を交わす様子も見かけるようになった。
店の前に設けた小さな木製のベンチでは、買い物帰りの主婦や市場の手伝いに来た少年が、試飲用のハーブティーを片手にひと息つく。
この店は少しずつ立ち止まりたくなるような空間として定着しつつあった。
「マルクさん、この前の人たちが来てくれました。今度は友達を連れて」
店内で棚の整理をしていたフレイがうれしそうに声をかけてくる。
時間が経つにつれて自然な笑顔が増えており、彼女が少しずつ元気を取り戻す様子が見られた。
俺はうなずきながら、入り口に目をやった。
三人組の若い女性たちが棚から香り袋を手に取って、楽しそうに話している。
「陽だまりの午後ってネーミング、ずるいよね。買っちゃうに決まってる」
「この木洩れ日の庭も良い匂い……でも、あたし昨日ちょっと落ち込んでて、小さな希望の方が合うかも」
店が繁盛するようになってから、商品名に関することが会話のきっかけになるようになった。
効能を示す表記はあえて控えめにすることで、香りや飲み心地をイメージさせる名前にしたことが功を奏していた。
それに加えて街との接点は少しずつ深まり、より具体的なかたちになっていった。
そんなある日のこと。近隣の食堂の主が訪ねてきた。
「そちらのブレンドティー、うちのランチと一緒に出せないかと思ってね。香りが落ち着くって評判なんだ」
こうした提案はありがたかったが、供給体制にはまだ余裕がなかった。
フレイと相談して、「今はまだ難しいですが、試験的に週に数本から始めてみませんか?」と丁寧に返した。
街とのつながりを広げていくには慎重さも必要だった。
同じような経験はないものの、焼肉屋の店主としてこういった判断について助言はできる。
それとダークエルフへの差別や偏見は見られないものの、見慣れないことで距離を取りがちな人もいるため、代わりに俺が交渉などの手伝いをすることがある。
俺自身もラーニャに出会うまではダークエルフを見たことがなく、冷たい態度を取らないだけでも、カルンの街の人たちは寛容に感じられた。
店のことが認識されるようになったことで、薬草に興味を持つ若者も現れた。
街の市場で働く青年が「僕にも何か手伝えることはありませんか」と申し出てきたのだ。
こういう時も俺の出番で「ただの力仕事ならともかく、調合は少しずつ覚える必要がある。簡単じゃないよ?」と伝えたが、青年は真剣な眼差しでうなずいた。
フレイたちが街の一員になるためにもプラスに働くと思い、この青年の申し出を受け入れることに決めた。
その日から、朝の収穫に彼を同行させるようになった。
新しい風が吹き込むことで、店の空気にもいくらか変化が訪れた。
アンソワーレの営業を続ける中で、街の衛生協会の視察もあった。
どうやら、店の軒先でオルネアが足をくじいた老人に対して、親切心から応急処置を施したことがきっかけらしい。
その様子を見た通行人のひとりが「街でこんなに丁寧な応対をしてくれる店があるとは」と感動して協会に伝えたという。
「推薦店舗の候補として視察させてください」と申し出を受け、俺たちは緊張しながら準備を進めた。
当日、視察に訪れた協会員たちは商品の成分表示や衛生管理、客の動線まで細かく見て回った。
フレイがどの質問にも落ち着いて答えるのを見て、改めて彼女の成長を実感した。
「とても丁寧な運営です。安心して紹介できますね」そう言って帰っていった彼らの背中を見送りながら、胸の奥が温かくなるのを感じた。
――数日後、街の掲示板には「推薦店舗:アンソワーレ」の札が加えられた。
そして、その影響はすぐに現れた。
初めての客が「この札を見て」と来店すると、ラベルを読みこみながらじっくりと商品を選んでいった。
「こういうのって、信用があるからこそ、安心して買えるのよね」
その言葉は、この店に関わる全員が目指してきたことがかたちになった証だった。
アンソワーレは多方面から認められるようになり、フレイたちが望んだ道を歩んでいることがうれしかった。
その後、街の学校から「薬草の基礎について、子どもたちに話をしてくれないか」という依頼が届いた。
俺は何の知識もないため戸惑ったが、依頼のことを知ったフレイが「子どもたちに伝えるのは大事だと思います」と言って快く引き受けた。
そんなことがありなながらも、流れるような日々がすぎて、授業当日を迎えた。
アンソワーレにやってきた子どもたちは、店内の香りに目を輝かせていた。
「ねえ、これはどんな味?」「これ、眠くなるんでしょ?」
そんな好奇心いっぱいの問いかけに、フレイは一つずつ優しく答えていく。
その横で、オルネアが笑顔で小瓶を並べ、「匂いだけで元気になるものもあるのよ」と語りかけた。
俺は補助役として見守るだけだったが、素晴らしい時間だったと思う。
そして講義の最後に、ひとりの少年が言った。
「ぼく、大きくなったら薬草屋さんになる!」
その言葉に、俺たちはつい顔を見合わせて笑ってしまった。
アンソワーレは街の中で静かに根を張っていた。
香りとともに記憶に残る場所として、訪れる人の心にそっと寄り添いながら。
最初は物珍しさで足を止める人が多かったが、今ではリピーターが増えている。
通りを歩く人の間で「この飲んだ夢の始まり、良かったわよ」と言葉を交わす様子も見かけるようになった。
店の前に設けた小さな木製のベンチでは、買い物帰りの主婦や市場の手伝いに来た少年が、試飲用のハーブティーを片手にひと息つく。
この店は少しずつ立ち止まりたくなるような空間として定着しつつあった。
「マルクさん、この前の人たちが来てくれました。今度は友達を連れて」
店内で棚の整理をしていたフレイがうれしそうに声をかけてくる。
時間が経つにつれて自然な笑顔が増えており、彼女が少しずつ元気を取り戻す様子が見られた。
俺はうなずきながら、入り口に目をやった。
三人組の若い女性たちが棚から香り袋を手に取って、楽しそうに話している。
「陽だまりの午後ってネーミング、ずるいよね。買っちゃうに決まってる」
「この木洩れ日の庭も良い匂い……でも、あたし昨日ちょっと落ち込んでて、小さな希望の方が合うかも」
店が繁盛するようになってから、商品名に関することが会話のきっかけになるようになった。
効能を示す表記はあえて控えめにすることで、香りや飲み心地をイメージさせる名前にしたことが功を奏していた。
それに加えて街との接点は少しずつ深まり、より具体的なかたちになっていった。
そんなある日のこと。近隣の食堂の主が訪ねてきた。
「そちらのブレンドティー、うちのランチと一緒に出せないかと思ってね。香りが落ち着くって評判なんだ」
こうした提案はありがたかったが、供給体制にはまだ余裕がなかった。
フレイと相談して、「今はまだ難しいですが、試験的に週に数本から始めてみませんか?」と丁寧に返した。
街とのつながりを広げていくには慎重さも必要だった。
同じような経験はないものの、焼肉屋の店主としてこういった判断について助言はできる。
それとダークエルフへの差別や偏見は見られないものの、見慣れないことで距離を取りがちな人もいるため、代わりに俺が交渉などの手伝いをすることがある。
俺自身もラーニャに出会うまではダークエルフを見たことがなく、冷たい態度を取らないだけでも、カルンの街の人たちは寛容に感じられた。
店のことが認識されるようになったことで、薬草に興味を持つ若者も現れた。
街の市場で働く青年が「僕にも何か手伝えることはありませんか」と申し出てきたのだ。
こういう時も俺の出番で「ただの力仕事ならともかく、調合は少しずつ覚える必要がある。簡単じゃないよ?」と伝えたが、青年は真剣な眼差しでうなずいた。
フレイたちが街の一員になるためにもプラスに働くと思い、この青年の申し出を受け入れることに決めた。
その日から、朝の収穫に彼を同行させるようになった。
新しい風が吹き込むことで、店の空気にもいくらか変化が訪れた。
アンソワーレの営業を続ける中で、街の衛生協会の視察もあった。
どうやら、店の軒先でオルネアが足をくじいた老人に対して、親切心から応急処置を施したことがきっかけらしい。
その様子を見た通行人のひとりが「街でこんなに丁寧な応対をしてくれる店があるとは」と感動して協会に伝えたという。
「推薦店舗の候補として視察させてください」と申し出を受け、俺たちは緊張しながら準備を進めた。
当日、視察に訪れた協会員たちは商品の成分表示や衛生管理、客の動線まで細かく見て回った。
フレイがどの質問にも落ち着いて答えるのを見て、改めて彼女の成長を実感した。
「とても丁寧な運営です。安心して紹介できますね」そう言って帰っていった彼らの背中を見送りながら、胸の奥が温かくなるのを感じた。
――数日後、街の掲示板には「推薦店舗:アンソワーレ」の札が加えられた。
そして、その影響はすぐに現れた。
初めての客が「この札を見て」と来店すると、ラベルを読みこみながらじっくりと商品を選んでいった。
「こういうのって、信用があるからこそ、安心して買えるのよね」
その言葉は、この店に関わる全員が目指してきたことがかたちになった証だった。
アンソワーレは多方面から認められるようになり、フレイたちが望んだ道を歩んでいることがうれしかった。
その後、街の学校から「薬草の基礎について、子どもたちに話をしてくれないか」という依頼が届いた。
俺は何の知識もないため戸惑ったが、依頼のことを知ったフレイが「子どもたちに伝えるのは大事だと思います」と言って快く引き受けた。
そんなことがありなながらも、流れるような日々がすぎて、授業当日を迎えた。
アンソワーレにやってきた子どもたちは、店内の香りに目を輝かせていた。
「ねえ、これはどんな味?」「これ、眠くなるんでしょ?」
そんな好奇心いっぱいの問いかけに、フレイは一つずつ優しく答えていく。
その横で、オルネアが笑顔で小瓶を並べ、「匂いだけで元気になるものもあるのよ」と語りかけた。
俺は補助役として見守るだけだったが、素晴らしい時間だったと思う。
そして講義の最後に、ひとりの少年が言った。
「ぼく、大きくなったら薬草屋さんになる!」
その言葉に、俺たちはつい顔を見合わせて笑ってしまった。
アンソワーレは街の中で静かに根を張っていた。
香りとともに記憶に残る場所として、訪れる人の心にそっと寄り添いながら。
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