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第十二話
しおりを挟む甘神を連れて、適当に近所を散歩しつつ野良猫探しをするつもりだったのだが、
「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき」
俺は現在、鬼のような形相の塩沢に立ちはだかれ、凄まじい早口言葉で呪いの呪文をかけられていた。逃げようにも甘神が後ろにいるので動くに動けない。俺タスクという名の盾を失えば、甘神が攻撃対象になるのは必至。
「甘神、悪いけど今日は帰ってくれないか」
とりあえず彼女だけでも逃がそうと、俺は全力で頼み込む。甘神は呆気にとられたように塩沢を見ていたが、さすがに状況を察したらしく、「分かりました。私はお先に失礼します」と丁寧に頭まで下げて、その場から立ち去る。
甘神のことを射殺さんばかりに睨みつけていた塩沢は、
「タスクの嘘つきっ、今は誰とも付き合ってないって言ったじゃんっ」
「言ったよ」
「だったらなんで元カノをうちに泊めたりしてんだよっ。ありえねぇだろっ」
こえー。
塩沢って切れるとこんな風になるんだ。
――しかもとんでもない誤解してるし。
タスクよ、お前はなんて恐ろしい女に手を出したんだ。
尻ぬぐいをする俺の身にもなれ。
「泊めてねぇよ。たまたま朝早く家に来ただけだし。つーか、荷物見たら分かるだろ」
小さなショルダーバッグしか持っていなかった甘神のことを思い出したのだろう、「そういえば」と塩沢の怒りが半減する。
「それに彼女の好きな人、俺じゃなくて御伽だから」
「……まじ?」
「マジ。さっきも御伽のことを話してたんだ。俺、中学まであいつと仲良かったから」
「なら二人が別れたのって……まさかタスクのほうが振られたの?」
頷きながら、「恥ずいから誰にも言うなよ」と釘を刺す。
そのほうが真実味が増すと思ったからだ。
「それでも信用できないなら今からうちに来いよ。お袋も親父もいるし。二人に直接話聞けば?」
卑怯だが親を持ち出せばさすがの塩沢も引くかと思いきや、
「親に紹介してくれるの? 行く行く」
なぜか大喜びで付いてくる。
――まずい、やぶへびか。
「あ、でもその前に洗面台貸してくれる? 髪の毛ぼさぼさだし、メイクも直したいから」
先ほどまでメンチ切っていたヤンキーはどこへやら。
あまりの変わりっぷりに、引いたのはむしろ俺のほうだった。
***
結局、塩沢は俺タスクの家に長居しまくり、ちゃっかり晩飯まで食って帰りやがった。タスク母には「二股はいけません」と説教されるし、タスク父には避妊用のゴムを押し付けられるしで、散々な日曜日だった。
しかしなんとか修羅場は回避したぞと達成感を覚えていた俺だったが、
――なんなんだ、一体?
廊下にまで喋り声が漏れるほどうるさかった教室が、俺が入った途端、水を打ったように静まり返る。いつもなら駆け寄ってくるクラスの女子たちも遠巻きに俺タスクを見ていて、何やらこそこそと話をしていた。
何かあったのかと首を傾げる俺に、「お前さぁ、マジで塩沢はやめたほうがいいと思うよ」と胆沢が小声で話しかけてくる。
「顔は可愛いけど、女子に嫌われてるだろ? あれは絶対性格悪いって」
「えっと、何の話?」
「とぼけんなよ。塩沢のこと、親に紹介したらしいじゃん」
「紹介したつもりはないけど……塩沢から聞いたのか?」
「あいつが俺らみたいなのと話すわけないだろ。目黒だよ」
また目黒か。
「クラスの女子、今キレてるから近づかないほうがいいぞ。お前、誰とも付き合う気ないって言ったくせに、あっさり塩沢とくっついてんだから、そりゃ怒るだろうな。しかも塩沢、お前の家に泊ったらしいじゃん?」
「いや、それ嘘だから」
火のない所に煙は立たぬとは言うものの、さすがに嘘の情報を流すのは見逃せない。女子だからとこれまで大目に見てきたが、今回ばかりは度が過ぎる。
「目黒って何組だっけ?」
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