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第二十二話
しおりを挟むその週の休み、待ち合わせ場所へ行くと、
「御伽さん、こっちですよ」
白いフリルのついたミニのワンピースに真っ赤なエナメルの靴を履いた甘神がいた。珍しくメイクもしていて、長い髪の毛を綺麗に結い上げ、白いリボンの髪飾りまでつけている。ただでさえ目を見張るような美少女なのに、今日は一段と神がかって見えた。
「……今日って、何かあったっけ?」
「いいえ、何も」
「これからタスクの見舞いに行くんだよな?」
「ええ、もちろん」
「……でも甘神、なんかいつもと雰囲気が違うような……」
以前、私服で会った時は丈の長いワンピースを着ていて、お嬢様然とした恰好をしていたが、
「そうですか? 私は普段からこんな感じですけど」
そうなのか?
ワンピースの後ろから取り忘れた値札がはみ出ているが、ここは気づかないふりをしておこう。
「えっと、なんか、ごめん。俺、こんなジャージ姿で」
「かまいませんよ。ところで……どう思いますか?」
ごほんおほんと咳払いする甘神に、「は?」と聞き返す。
「私を見て、どう思いますか?」
意見を求められていることに気づいて、あらためて彼女の服装をじっと見る。
くるりとその場で一回転されて、短いスカートの丈から下着が見えないか、ハラハラした。
「もうちょい、スカートは長めでもいいと思う」
「……他に言うことはないんですか?」
「今日は階段を使わないで、エレベーターに乗ろう」
もうっ、と怒ったように頬を膨らませる甘神を連れて、歩き出す。
「これじゃあ、私が馬鹿みたいじゃないですか」
「なんで?」
「御伽さん、貴方、本当に私のことが好きなんですか?」
あらためて訊かれると妙に照れてしまい、
「そうですけど、何か?」
つい茶化すような答え方をしてしまう。
「だったらこっちを見て言ってください。好きだって」
「嫌だ」
「ど、どうして?」
あからさまにうろたえる甘神に、「恥ずかしいから」と正直に答える。
「人の目があるところじゃ無理」
「……御伽さんって、難しい人なんですね」
重いため息を吐く甘神に、
「今、俺のこと面倒くさい奴だと思っただろ?」
照れ隠しのように訊ねれば、彼女は微笑んで頷く。
「でも私、そういうの嫌いじゃありませんよ」
それを聞いて、良かったと内心ほっとした。
「二人きりの時なら、言えるから」
「私は人前でも言えますよ。御伽さんのこと大好きだって」
それはそれで嬉しい。
ガチで照れる俺を見て、甘神はふふふと笑う。
その時だった。
「ふざけんなっ」
突然、こちらに向かって物が飛んできた。
咄嗟の判断で、甘神を庇うようにして立った俺の胸元にそれはぶつかる。
痛みはなかったが、ぐしゃっと何かが割れる嫌な音がした。
――これ、卵だ。
悪臭を放つ生卵。
「道路の真ん中でいちゃついてんじゃねぇっ。死ねよっ」
聞き覚えのある声と台詞。
ハッとして顔を向ければ、塩沢によく似た後ろ姿の女子が走り去るところだった。
「甘神は先に病院へ行っててくれ。あとで追いつくから」
言いながら、俺はすぐさま彼女を追いかけた。
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