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幻の村メテオロスでブードキャンプ
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しおりを挟む「初めまして、アネーシャ。私がこの修道院の院長をしているウルスラよ。村長も兼任しているわ」
実際に会って二人きりで話してみると、ウルスラは家庭的な雰囲気がにじみ出た、気さくな女性だった。歳は49と聞いていたが、10歳は若く見える。
「あなたのことはウルスから聞いてる。ようこそメテオロスへ」
――もしかしてこの野草茶のせい? 若返りの効果があるとか?
途端目の色を変えて、出されたお茶を一気に飲み干すアネーシャ。
あまりに苦さに吐きそうになるが、これも自分のためだと思い、ぐっと堪える。
『ちょっとアネーシャ、我慢するとこ間違ってるから』
ここに来た目的を思い出してとコヤに言われ、そういえばそうだったと我に返る。
「ウルスさんは、私のことを何ておっしゃっていましたか?」
「保守派の暮らしに興味があるのよね? 実際に皆の暮らしぶりを見てみて、体験したいとか」
全くその通りだとアネーシャはうなずく。
「実は以前から質素な暮らしに憧れていて……」
『散々贅沢しておいて、どの口が言うか』
コヤの嫌味を華麗にスルーしつつ、アネーシャは至極真面目な顔をする。
「ずっと移動続きだったので、いずれは定住したいなと」
「だったらなおさら体験すべきね。ただし、ここにいる間は俗世間との関わりを全て絶つことになるけれど」
「かまいません。手紙で近況を知らせるような相手もいませんし」
「不躾だけど……ご家族は?」
「いるかどうかも分かりません。孤児院育ちなので」
「お友だちには話したかしら? このこと」
「友だちと呼べる人はいません」
シアは護衛で旅の仲間だし。
コヤは養い親ではあるけれど神様だし。
嘘はついていない。
「で、でも、恋人くらい」
「いません」
「……一人も?」
「いません」
「あなた、まだそんなに若いのに……」
何を思ったのかウルスラは目を潤ませて、アネーシャを見る。
「苦労したのね」
『昔の自分と重ねてるのよ。彼女が修道女になったのも、ちょうどアネーシャと同じ年くらいだったから』
けれどかたや妊娠中かたや処女。
喜んでいいのか悪いのか、微妙なところだ。
「ちなみにここでの生活スタイルは二通りよ」
一つは修道士・修道女スタイル、修道院で共同生活を行いつつ、祈りや懺悔を行って神への信仰を深めたり、瞑想したりする。もう一つは隠者スタイル、岩の上に建てられたあばら家で最低限の暮らしをつつ瞑想にふけり、たまに修道院へ来て、飲食や会合を行う。
「どちらにする?」
「修道女スタイルでお願いします」
アネーシャは即座に答えた。
「ただ髪の毛を切るのはちょっと……」
「もちろん体験期間中だもの。断髪はなしよ」
それを聞いてほっとした。
「ちなみにここでの定住をお考えなら、一つ条件があるのだけど」
改まった口調で言われ、「何でしょう」とアネーシャもまた背筋を伸ばす。
「現在所有する財産を全て、この村に寄付していただきたいの。貧富の差をなくして、平等な生活を送るために――といっても皆、ここへたどり着くのがやっとで、金銭的な物はほとんど持っていないのだけど。ここでは建物も含めて、食料や家財、全てが共有財産として扱われるわ」
『なんか詐欺っぽく聞こえるけど、革新派の神官長と違ってウルスラは信用できるから安心して。ここでの暮らしは基本自給自足だし。王からの多額の寄付金もあるから。これまで、ここの人たちは餓死しない程度の食事しか口にできなかったけれど、ウルスラが院長に就任してから、かなり改善されたのよ』
はぁとアネーシャは感心したような息を吐く。
「じゃあウルスさんは……?」
「あの子は修道士ではないし、するつもりもない。あくまでここで生まれ育ったというだけ。それなのに収入のほとんどをこの村に寄付してしまうし、食料もたくさん持ってきてくれるから、本当に申し訳なくて。私としては、早くいい人を見つけて、家庭を持って欲しいのだけど……」
話しながらチラチラとアネーシャに意味深な視線を向ける。
「ごめんなさい、話が脱線してしまったわね」
いいえとアネーシャはにこやかに首を振った。
「母親が子どものことを心配するのは当然だと思います」
「本当の親子ではないのだけどね」
そうだった。そういう設定だった。
ここはあまりウルスことには触れないほうがいいと思い、話題を変える。
「そうだ、ここでの食事について、アウレリアさんに聞きたいことがあるんですけど」
その瞬間、ウルスラの顔がさっと強ばった。
「……アウレリア?」
「そうアウレリアさんに聞きたいことが、保存食の持ち込みについてなんですが」
徐々に青ざめていく修道院長兼村長の顔を見、アネーシャは己の失敗を悟った。
『バカっ、アネーシャっ、喋っちゃダメって言ったじゃないっ』
そういえばそうだった。
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