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幻の村メテオロスでブードキャンプ
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しおりを挟む「お腹がすいて死にそう……」
『まだたったの五人にしか声かけてませんけど?』
「ちょっと休憩しない?」
『休憩してもお腹は膨れないわよ』
「……うう」
途中くじけてしゃがみこみそうになったところで「そういえば」とあることを思い出す。
「この村にもお店があるって言ってたよね?」
『言ったっけ? そんなこと』
「絶対に言った。記憶にあるもん」
『……ったく、こういう時だけ……』
「そのお店に食べ物は売ってる?」
『必要最低限のものしか置いてないわよ』
「食べ物は必要だよね?」
『……隠者用の携帯食なら』
それを聞いて俄然やる気が出てきた。
「今からそのお店に行こう」
『一旦下に降りて、また恐怖の壁を登らないといけないわよ?』
「そんなの当たり前でしょ」
『ったく、こういう時だけ……ぶつぶつ』
「ついでにお店の人にも祝福を与えられるし」
一石二鳥だと言えば、『それもそうね』とコヤも機嫌を直してくれる。
店に行く前に一旦部屋に戻って荷物袋の底にある小銭をかき集めていると、
『お金、それぽっちしか持ってこなかったの?』
「重いからほとんど下に置いてきちゃった」
『で、持ち込んだのは保存食だけだと。普通は逆じゃない?』
「どうして? 食べ物は腐るけどお金は腐らないよ」
アネーシャらしいと笑われてしまう。
『あなたのそういうところ好きよ』
「……コヤ様、馬鹿にしてるでしょ?」
『いいえ、ちっとも』
支度を終えて修道院を出ようとしたところで、「そんなに慌ててどちらに行かれるのですか?」と年配の修道女に捕まってしまった。アネーシャが荷物を抱えているのを見ると、「まさか、もうお立ちに?」と青ざめた顔をされてしまう。
「いえ、これは……」
「少しここでお待ちください。あの方を呼んできますわ」
まもなくウルスが現れて、アネーシャはぎょっとした。
『監視されてるわよ、アネーシャ』
「どこへ行くつもりだ?」
尋問口調ではないものの、やんわりと訊ねられて、アネーシャは視線を泳がせる。まさか携帯食を買うためだけに修道院を抜け出してお店に行こうとしているなんて、恥ずかしくて言えない。
「この村の店に向かうよう、神託が下ったので」
『あたしはそんなこと一言も言ってません』
「女神の下僕として、コヤ様の意思に逆らうわけには……」
『しょっちゅう反抗してるくせに、よく言うわ』
しどろもどろな説明でもウルスは信じてくれた。
それどころか「俺も一緒に行こう」と同行を申し出てくれる。
「いえ、さすがにそれは悪いので」
「かまわない」
丁重にお断りするつもりが無言で押し切られて、申し訳なさで胸がいっぱいになる。
『あたしに対する罪悪感は?』
仕方なくウルスを連れて、外へ出る。
鎖がたれているところまで来ると、足を止めてこわごわ下を覗き込んだ。
風はそれほど強くないし、雨も降っていない。
これなら何とか降りられそうだ。
「しばらくここで待っていてもらえますか? 私、降りるのに時間がかかるので」
「……よければ俺が運ぶが?」
『そうしてもらいなさいよ、アネーシャ』
「でも私、たぶんすごく重いので――きゃっ」
言い終わらないうちに抱き上げられ、そのまま空中にダイブ。
混乱した頭で息を止め、ついでにそっと目も閉じて、落下の衝撃に備える。
「着いたぞ」
いつ着地したのかもわからなかった。
気づけば地面に下ろされていて、信じられない思いでウルスを見上げる
これぞ超人の成せる技なのだろうが、
「ウルスさんって背中に羽でも生えてるんですか?」
「生えていない」
「普通、飛び降りたらドンって衝撃がきますよね?」
「着地の際に膝を曲げて衝撃を吸収した」
「あの高さで? うそだァ」
「……なら次はしっかり目を開けて見てろ」
「それは無理です。怖いので」
「…………」
ともあれウルスのおかげで、かなりの時間と労力を節約できた。
店にもあっという間に着いて、一気にテンションが上がる。
「ウルスさん、欲しいものがあったら何でも言ってください。私がおごりますから」
「特にない」
『この子ったら、はしゃいじゃってまあ……』
先ほどからニヤニヤしているコヤの言葉を聞き流し、お店へと突入する。
そこは比較的低い岩の上に建てられた小さな雑貨店で、品揃えはあまり豊富とは言えなかった。メインで置かれているのは薪や石炭などの燃料や防寒具、丈夫な靴や寝具など。もちろん携帯食もあって、興奮度が増した。
干した小魚にナッツ類、固めに焼かれたビスケットもある。
「砂糖漬けの果物はさすがにないか」
「……砂糖?」
怪訝そうな視線を向けられて、はっと我に返る。
「そうだ、まずはお店の人に祝福を……」
「店主ならずっとそこにいるぞ」
視線を感じて顔を向けると、店の隅でじっとこちらの様子を伺っている老人が一人。
「けっ、リア充が」
機嫌が悪いのか、何やら悪態をついているご様子。
「うちはカップルの入店お断りだよっ」
そんなことどこにも書いてないし。
そもそも私たち、カップルじゃありませんから。
『そうとうやさぐれてるわね』
「過去に何かあったのかな?」
『下手に突っ込まないでよ。話が長くなるから』
すごい顔でこちらを睨んでいた店主だったが、ウルスの顔を見た途端、ころりと態度を変えた。
「おや、もしかしてそこにいるのはウルスラさんとこの坊やかい?」
「お久しぶりです、ウーリーさん」
「いやいや、あんたなら大歓迎だよ、ウルス・ラグナ。あんたが以前持ってきてくれたドラゴンの肉は最高だった。おかげで男としての自信を取り戻せたよ。うちのかかぁも泣いて喜んでた」
「……保守派はお肉厳禁じゃなかったっけ?」
『ドラゴンのお肉は例外。聖女ゾマの好物だったから。あと魚も』
それは知らなかった。
けど、それはそれで大丈夫なの? 何か色々問題が起きたりしない?
『あなたが心配することじゃないでしょ。それよりやるべきことやりなさい』
「なら、あのおじいさんに何て伝えればいい?」
『それは……こそこそ』
「うん、わかった。やってみる」
「ところでウーリーさん、あなたに紹介したい人がいるんだが」
「そこにいる彼女だろ? なんだい、あんたもそろそろ結婚するのかい?」
「……まずは彼女の話を聞いてくれ」
ウルスに紹介されて前に出たアネーシャは、老人の前に立ち、かっと目を見開くと、
「よそで種を撒くなっ。かかぁは全てお見通しっ」
コヤの指示通り、威厳をこめた口調で言い放った。
老人は雷に撃たれたような顔をして立ち上がると、
「こりゃまずいっ、早くウチに帰らねぇとっ。かかぁに殺されちまうっ」
真っ青な顔で一目散に店を出て行ってしまう。
そんな店主の後ろ姿をぽかんとした顔で見送るウルスとは対照的に、
「ところでコヤ様、『よそで種を撒くな』ってどういう意味?」
『アネーシャは一生知らなくていいことよ』
ふーんと言いつつ、大量の携帯食を手に取るアネーシャ。
「代金はカウンターの上に置いとけばいいよね?」
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