35 / 59
幻の村メテオロスでブードキャンプ
35
しおりを挟む戦いが終わると、全員が全員、後始末に追われていた。
死体の解体作業と埋葬作業で筋肉を酷使しまくっている。
こんな時でもシアの能力は大いに役立ち、不要な部分を全て消し炭に変えていた。
アネーシャも下に降りて仕事を手伝いつつ、目はある人を探していた。
『誰を捜しているのか当ててあげましょうか』
「そういうのはいいから。どこにいるのかだけ教えて」
『それは……お前の……後ろだっ』
ひっと息を飲んで振り返ると、確かに彼がいた。
岩陰に隠れて、出てくるタイミングをうかがっているようだ。
「カイロス、やっぱり逃げなかったんだね」
近づいて声をかけると、彼は観念したように出てきた。
「怪我はしてない?」
「……いいえ、保守派の方々のおかげで助かりました」
「信者さんたち、無事に逃げられてよかったね」
イヤミを言ったつもりはなかったが、カイロスの決まり悪そうな顔を見、「ごめんなさい」と慌てて謝罪する。
「けど、さすがにあれはやりすぎだと思う」
「はい。おかげで目が覚めました」
そう言ってカイロスは苦笑した。
「もう二度とあのようなことはしないと誓います。我ら革新派は神の試練を乗り越えることができなかった。取り戻すべき聖女を置き去りにし、保身のために逃げるとは――」
血が滲むほど強く握り締められた拳を、アネーシャはそっと掴んだ。
「相変わらずだね、カイロスは」
「……謝罪の言葉もありません」
「覚えてる? 子どもの頃、カイロスは私に優しくしてくれたよね? その頃の私、皮膚病にかかって、今よりひどい顔してたのに、カイロスだけが普通に接してくれた。すごく嬉しかったんだよ」
瞬時に拳の傷を治して手を離すと、彼は不思議そうな顔をしていた。
「アネーシャ様の顔はひどくありませんよ」
うん、そいうところが好きだったなと心の中でつぶやく。
「地味な私に対しても、美人の子に対しても、カイロスは分け隔てなく接してくれる。相手が男の子だろうと女の子だろうと、年上だろうと年下だろうと態度を変えない。お金や権力にも興味ないし、聖職者に向いてるよ、カイロスは」
「……アネーシャ様」
「王都へ戻って、カイロス。あなたが信者さんたちを導いてあげて。私がいなくてもきっと大丈夫」
カイロスは泣き笑いの表情を浮かべると、
「私に共に来いとは言ってくださらないのですね」
「一緒に来たいの?」
驚いて聞き返すと、「冗談ですよ」と悔しげにつぶやく。
「今の私が付いていったところで、足でまといにしかならないでしょう」
『頭も固いしね~』
余計なことを言うコヤを睨みつけつつ、
「カイロスは、カイロスにしかできないことをすればいい。私も、私にしかできないことをするから。だから行って。もしもこの先、カイロスが困っていたら、駆けつけて助けるって約束する。昔、カイロスが私にしてくれたみたいに」
言いながらアネーシャは、自身の髪の毛を少し切って、カイロスに差し出した。
「コヤ・トリカの加護があらんことを」
カイロスは震える手でそれを受け取ると、笑顔で言った。
「わかりました、いつの日か、アネーシャ様のお役に立てるよう、精進してまいります」
…………
……
…
カイロスの姿が見えなくなると、アネーシャは岩陰に隠れて俯いた。
やけに目頭が熱いと思ったら、頬が涙で濡れている。
『急にどうしたの、アネーシャ』
「……わからない……ただ、昔を思い出したら、急に胸が苦しくなって」
『戻りたいの? あの頃に』
「戻りたくなんかないっ。知ってるでしょ? ずっと独りだったもの。コヤ様が現れるまで、ずっと独りぼっちで……」
『今は違うでしょ?』
「……そうだね、でも先のことはわからない」
もやもやした感情を抱えたまま、ずるずるとその場にしゃがみこむ。
そんなアネーシャを心配してか、コヤは小熊の姿に化けると、二本足でよたよたと近づいてきた。
『とりあえずもふっとく?』
うんとうなずいて、ふかふかのコヤの腹部に顔をうずめる。
『落ち着いた?』
「少しだけ……」
「姿が見えないと思ったら……そこで何をしているんだ?」
怪訝そうに声をかけられて、アネーシャはのろのろと顔を上げた。
大量にドラゴンの血を浴びたウルス・ラグナだった。
「これは……」
「泣いていたのか?」
アネーシャが言い訳を考えているあいだ、彼はあることに気づいてはっとした。
「そこにいるのは……コヤ・トリカ?」
『そうでーす。あたしの姿が見えるなんて、どんだけドラゴン殺しまくったのよ』
「……なぜ熊の姿をしているんだ?」
『大人の事情ってやつ。それより例の件、そろそろ返事してくれない?』
ウルスはちらりとアネーシャを見ると、
「彼女がそうなのか?」
『あなたがそれを望めばね。楽に手に入るなんて思わないでよ。こう見えてこの子、ガードが固いんだから』
「……知っているのか、彼女は」
『それとなく伝えたけど、どーだろ。決めるのはこの子だから』
アネーシャは慌てて涙を拭うと、「何の話?」と会話に割り込む。
『孤独な男女を結びつけようとしているの』
「それは……ここが旅の終着点だから?」
不安を吐き出すようにアネーシャは訊いた。
「そうなんでしょ、コヤ様」
『馬鹿ね、どうしていきなりそんなこと言い出すの』
「だって、何度訊いても次の目的地を教えてくれないし、それにここには――」
『ここにドルクはいないわ。封印されているのは彼の一部だけ』
ほっとしていいのか悪いのか、アネーシャは顔をしかめる。
『彼の肉体は地上のあちこちに散らばっていて、あたしもその全てを把握しているわけじゃないの。だからこうしてちまちま彼がいた痕跡を辿ってるってわけ。馬鹿みたいでしょ?』
そんなことないと、アネーシャはかぶりを振る。
「だったら旅は続くんだね」
『ええ、もちろん』
「次の目的地は?」
『メガイラ』
「……失われた都市か」
ウルスはつぶやくと、「俺も仲間に入れてくれないか?」とまっすぐアネーシャを見た。
「アネーシャ、君が許してくれるのなら」
まさか許可を求められるとは思わず、あたふたしてしまう。
一瞬だけカイロスの顔が脳裏をよぎったものの、それを振り払ってアネーシャは言った。
「大歓迎ですよ」
52
あなたにおすすめの小説
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた
向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。
聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。
暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!?
一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい
木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。
下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。
キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。
家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。
隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。
一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。
ハッピーエンドです。
最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる