青と虚と憂い事

鳴沢 梓

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三章 碧落と悠遠

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初LIVE終了後、数日前に開設した公式Twitterで僅かなライブ映像と共にツイートすると、とんでもない数のRTといいねがついていた。
リプライの欄は「Aoiが可愛い」だの、碧の事ばかり書かれていたが話題性としては十分すぎるくらいだった。

「碧ちゃんすごいよ、めっちゃバズってる」
「バズ…?」

神楽の言葉についていけない碧は、首を傾げながらスマホ画面を見ていた。

碧のルックスと歌声、そして記憶喪失という前代未聞の境遇のおかげかSNSで話題沸騰中らしい。
肝心の碧は何が何だか分かっていない様。

僕らは今、初LIVE大成功を祝う為の打ち上げに来ている。
とはいえ、小さな焼肉店の個室だが。
牛タンを頬張りながら神楽が言う。

「友達にも碧ちゃんみたいな可愛い子とバンドやってるなんて羨ましいって言われちゃってさ~
紹介してよって言われたけど絶対嫌だよね」
「お前みたいな腐れ外道、碧さんみたいな神々しい子を紹介していい身分じゃないだろ」
「音無くん!?今なんつった!?」

隼人と神楽は肉を焼きながらお得意の夫婦漫才を繰り広げている。
碧はそれを見て笑いながら美味しそうに肉を食べていた。

「こんな美味しすぎる食べ物、知らなかったなんて勿体無いですね」

碧は今にもとろけそうな表情でそんなセリフを口にする。

「学生にはきついだろうからね。僕にとったってご褒美みたいなものだよ」
「そうなんですね。毎日ご褒美がいいですね」

子供らしいことを口にする碧に、微笑ましい気分になった。

「次回LIVEもワンマンで開催出来そうだ。ゲストで来てくれないかって依頼もかなり来てる。全部受けるつもりだからかなり忙しくなりそうだ」
「1回やっただけでこれだけの影響力、さすが碧ちゃんだよな~」

関心している神楽は何故か、碧より嬉しそうだ。

「順調過ぎて怖い。絶対何かあるよ」
「音無く~ん…縁起でもない事言わないの」
「…碧さんの歌唱力はわかるけど、俺らにも注目して欲しいよな。かなり上手くなってると思うんだけど」

音無の声量は、後半になるにつれて小さくなっていく。
碧はもちろんだが、僕らの演奏もかなり完成度が高かった、と思う。

「誘いの中には僕らを褒めて貰えた事もあったよ。大丈夫だ、ちゃんと評価されてる。」

僕は隼人に励ますつもりでそう告げた。

「それなら良かったです。クソ会社とバンドの両立、めちゃくちゃ大変なので」

隼人はかなり大変な会社で働いているようで、就職してから勤め先の愚痴が絶えない。
以前バンドを組んでいた時は高校生だった隼人が就職してバリバリ働いているのには未だに実感が湧かないが、頑張っているようだ。

隼人の成長ぶりに関心していると、僕以外の三人が食べ終わったようで帰り支度をしていた。
僕も同じように荷物をまとめる。

これから慌ただしくなるだろう。
全ての事は順調に進んでいた。

___ように思えていた。
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