あの頃の必殺技〜ロック編

晴天の碧眼

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Police “Message In The Bottle”

A/D/E/F#m/D/C#m/A/F#m

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 誰かに何かを伝えたい、そんなあやふやな欲求を抱え込んだまま、でもそんな素振りを一切見咎められる事なく、卒無く日々のルーティンを熟していた17の秋、FM局のオンエア曲に耳が釘付けになった。

 片道一時間半の電車通学は慣れ親しんだ日常とは言え苦行以外の何物でもなく、部活に入るでもなく授業が終われば同じ帰宅組のクラスメイトと駅までのバスでたわいも無い会話、目指す大学の事や先日の模試の偏差値等色気の全くない話に終始するばかり。クラスメイトと書いたのは、つまり友達ではないからで、彼にとっては単なる通過点ですれ違う人々の一人に過ぎないと決め付けていた所為だ。

 だから放課後の雰囲気は彼にとって耐え難いものだった。そのまま帰宅する者と部活動に勤しむ者に二分される夕刻にはまだ早い時間。運動部に入る体力は足りず、ましてや得意と言うスポーツもない。音楽や絵画も人並み。そもそも部活動に打ち込む動機も気概も皆無では選択肢は帰宅部しかない。学業だけが彼のレゾンデートルではあるが、それとて地方の進学校で中の上、彼は上の下と認識しているようだが。

 土曜日の放課後はその二分化が際たるものとなる所以、彼はいつも居た堪れず教室から真っ先に出て行くのだが、それでも急いで行く場所などない。強いて言うなら自宅二階の六畳間、彼の小さな帝国を目指し平日よりは人の少ないバスと電車を乗り継いでその場所を目指す。

 バスはまだクラスメイトが彼でさえも声を掛けてくるので少しの会話があるのだが、駅からの電車は全くの一人。だから、鞄からFMの入る小型のラジオを取り出すとイヤホンを片耳に嵌め込んでスウィッチを入れる。いつものように邦楽トップ10が流れているが、彼が聴きたいのはこの後放送される洋楽トップ10だ。小学校高学年の頃から歌謡曲よりもカーペンターズやサイモン&ガーファンクル、ビートルズ等洋楽に興味を持ち、レコードも洋楽ばかり購入するようになった。

 母親の歪んだ性格も彼の洋楽嗜好に拍車をかけた。テレビで歌番組、特に当時お気に入りだった山口百恵を観ていると彼女が出演している間中、傍に立ち小言を言うのだ。ある時は前回のテストの成績が振るわなかった事であり、またある時は何処かで聞きつけたであろう同級生の成績、誰々くんは部活動もしていて学年一番になった等々。山口百恵がテレビに出る度、それが繰り返される内に彼の中で山口百恵は好ましい存在では無くる。

 一方、ラジオで洋楽を聴いていると、決して学のあるとは言えない母親にとっては、息子は英語の曲を聴いている、英語が解ると脳内変換されるようで煩く纏わりつく事がなくなった。それなら山口百恵で嫌な思いをするより、いっそ洋楽を聴き込んで好きになった方がいい、と考え直すきっかけとなった訳だ。

 その頃からだ、帰宅すると彼が六畳間に籠り何をするのでもラジオを片時も離さなくなったのは。とは言え、FMでも洋楽が流れる番組はまだ少なく、そんな時にはFEN(Far Easten Network)今のAFN(American Forces Network)がネイティブDJの司会で六畳間にはポップやロック、カントリーのみならずブルースやジャスも流れた。ハーモニカもリコーダーも演奏はからきし駄目だが、聴く事に関しては飽きる事はなかった。FMレコパルやrockin'onを端から端まで読んでいたのもこの頃だ。

 レコード、特にLP盤などなかなか買う余裕も無いからFMレコパルは貴重な情報源であるだけでなく、いち早く気になるアーティストの新曲を手に入れる為の道具でもあった。レンタルレコードもダウンロード、ましてやアップルミュージック等ない時代、ラジカセでラジオから流れる音源を録音して聴くのがLPを購入する以外、唯一お金が最もかからない方法だった。後はいつ、どの番組で目当ての曲が流れるか?これを知る為の道具がFM専門誌だったのだ。

 FMレコパルもFMファンも向こう二週間の番組表を掲載している。お気に入りの番組やランキング系、じっくりとLP一枚分流す番組等特徴を熟知しているから、気になる番組をラインマーカーでマークして後は当日を待つだけとなる。しかし、タイマー機能などない時代だから学校に行っている間はエアチェックは叶わない。原則、彼が六畳間にいる時に目の前のラジカセを操作出来る事が条件だ。ただカセットテープを装着して番組が始まると同時に録音ボタンを押すだけの事なんだけど。

 60分の番組の場合、カセットテープが60分だとCMの合間にカセットを取り出し、反対向きに入れて巻き戻してから再び録音を再開したり、特定の曲だけ録音する時にはMCの狭間を狙ってボタンを押し、確実に曲が終わったタイミングで停止する等熟練というか、DJのクセを知って立ち向かう事も覚えていった。慣れない頃にはイントロの途中から録音していたり、曲が終わる前に録音停止したりと、幾度となく試行錯誤を繰り返していたものだ。

 いつしかカセットテープは数百本単位で六畳間の一画を占めるようになった。電車通学がもたらしたものはもう一つ、一日二時間の読書時間である。これにより文庫本の数も増え続け、彼の部屋はラジカセを除くとカセットテープ、文庫本、FMレコパルに占拠されつつあった。完全に色気のない部屋である。しかし、これも防御の為なのだ。一度ベッドのマットの下にエロ本を隠して置いたら母親に見つけられ、あろう事かそれを父親に見せて彼は変質者ではないか?と家族で議論に至ったという黒歴史がある。面倒は極力避けたいのだ。アナログの時代、昭和にはよくあった話だ。

 Police のセカンドアルバム”Reggatta de Blanc”がリリースされたのは1979年10月、先行シングル”Message in a Bottle”は同年9月にリリースされる。ファーストアルバムからも”Roxanne”他シングルヒットを放っていたが、セカンドアルバムからの先行リリースであり、彼は大いに期待していた。そして土曜日の学校帰り、文庫本を広げながら微弱な電波で切れたり繋がったりのシリア・ポールのDJに耳を傾けていた。

 A/D/E/F#m/D/C#m/A/F#m
 I’ll send an SOS to the world 
    I hope that someone get my
    Message in a bottle 

 途切れ途切れに聴こえるフレーズ。そして何度も繰り返されるサビのヴァーズは彼の耳に残った。

 その後エアチェックにも成功、歌詞を聴き取り書き起こし改めて訳して見る。そして10億本の硝子の瓶が打ち上げられ渚を想像してみる。

 瓶の中にはメッセージの書かれた紙が詰め込まれている。何故か彼の思考は一本づつその紙を取り出して瓶と紙に分けて砂浜を掃除しなければという使命に取り憑かれていた。

 海はどこまでも広く、浜辺は左右見渡す限り青色、緑色、茶色や透明な硝子瓶で足の踏み場もない。波打ち際を埋め尽くす様々な色の瓶が波に洗われ白い飛沫の中、陽の光を浴びて反射する。彼の白い顔を様々な色の反射光がフラッシュの様に照らす。

 彼は足元に転がる一本の瓶を手に取ると思い切り沖に投げた。遠い波間、飛沫が上がる。そして振り返ると確固たる顔付きで波打ち際から離れていった。

 https://youtu.be/Tf50D8H5TCE 
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