超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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冬に咲く花

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 その後、追及を何とか誤魔化し、検問所は無事通過することができた。

 予定はズレてしまったが、太陽が落ちる前にはソコトラに着けるはずだ。


 魔術師たちの追求さえなかったら、出発の時間はもっと早かっただろう。





 ゴトゴト揺れながら北に向かう車の中は、誰も一言だって喋らない。


――カリカリキュリキュリキュルキュリュカリカリ……――


 揺れる馬車の中でルイは、錐で金属の腕輪にある細工をしていた。金属を削る耳障りな音に、苦情を訴える者はいない。


 マリーは手で耳を塞ぎ、ルイは耳に詰め物をしている。

 被害者は手綱を持って耳を塞げないカウルと、反省の意を込め、あえて耳を塞いでいない孝宏の二人。カウルは御者席に座り、幕を下ろしているのでさほど気にならないので、被害を被っているのは実質孝宏一人になる。


「鳥の力を使う度にボヤ騒ぎなんて冗談じゃない」


 検問所の壁や詰所、森の木々数本兵士の詰所がほぼ消失した。

 本当いうとボヤ程度では済まされないのだが、獣を討伐したこともありお咎めなしとなった。とはいえ、力の制御ができないのなら魔法具を着けるべきだと助言され、その場にいた魔術師の一人にもう使っていない腕輪をもらったのだ。

 ただ貰った腕輪に彫られた術式が簡易的なものだったため、ルイがより強力な魔法具となるよう細工しているところだ。


「タカヒロはこれが出来上がったら、絶対に外したら駄目だからね」


「はい、絶対に外しません」


 孝宏は車の一番奥、御者席側の角でうずくまって言った。膝を立てて胸の前で抱き、胸と膝の隙間に顔を沈めた。


(俺そのうち胃に穴が開くかも)


 コトコト、ユラユラ……車がゆるく体を揺する。揺れはとても心地良い。幸か不幸か村に到着するまで時間がある。


(もう寝てしまおうか)


 孝宏は膝に顔を埋め、目を閉じた。すると意外にも、カタカタ、カリカリ、トントン、フーフー。色んな音が聞こえてくる。


(不思議だよな。さっきはあの音しか聞こえなかったのに)


 ピィピィピィ、トットットッ・・・ホーォホーォ


 牛が地面を蹴るヒヅメの音と、鳥の歌声が奏でるリズム。

 なんて心地が良いのだろう。

 いつの間にかあの耳障りな音は聞こえてこなくなっていた。このまま身を委ね、目を閉じていたい。 

 夢心地に浸る孝宏の脳裏に、ある一文が唐突に浮かんだ。


――三つの国境を持つ巨大都市国家コレーの崩壊。それが彼らの始めの選択だった――


 孝宏はハッと顔を上げた。向かいに座っていたルイが、訝しげに首を傾げた。

 その時ルイは腕輪に魔力を込める最後の作業に移っていた。

 魔法具を作る際に一番大切なのが、魔力を込める作業なのだそうだ。

 魔法具を作る職人はこの作業を何より慎重に行うという。ルイもこの時ばかりは、いつになく真剣な顔つきになる。


「邪魔してごめん」


「別に、なんて事ないよ。もう終わるしね」


 ルイが腕輪を両手で持って、口元に寄せた。ルイが吹きかける息には、小さなキラキラした光が混じる。


「守る為、生きる為、使命を果たせ。お前は命を繋ぐもの。祈りを繋ぎ留めるものだ」


 完成したのはやたらキラキラ光る腕輪だった。

 三連の輪が一組みの、一対の腕輪。輪の5ミリ程の幅に細かな文字が、表裏両面に彫られてあった。表の文字は元からあるもので、ルイが彫ったのは裏の文字だ。

 両腕に通すと輪同士がぶつかり合い、ジャランジャランと不思議な音を立てる。

 孝宏の腕に通した腕輪をルイが指先で弾いた。

 すると腕輪はスルスルと小さく縮み、どういうわけか、手首にピタリと張り付いた。もう振っても逆さにしても、手首から離れそうにない。それどころか音も鳴らないし、痛くもない。

 宝石で装飾されていないのにも関わらず、ランプにかざすと文字が綺麗な七色に光った。


「ルイは本当にすごいな。何でも自分で作るし。俺にはこんな細かな細工できそうにない」


「ルーペを使って彫るから、見た目より大したことない。このくらいなら、僕じゃなくても作れるよ」


 ルイは照れくさくて、何ともないフリをしながら道具を片付け始めた。

 彼が持つには古すぎる布地の工具入れと道具の柄。使い込まれ手垢が染み付いている。
 
道具を扱う手つきに労りが感じられ、ルイがどれだけ大切にしているか、仕草だけでわかる。






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