38 / 180
冬に咲く花
36
しおりを挟む――闇に紛れて彼らはやって来た。人が深い眠りに落ちる頃、生き物が寝息を立てる時分、闇夜よりも暗い漆黒の波となって押し寄せたのだ――
再び浮かんだ一文に孝宏は身を震わせた。
動悸が早まり、強張っているかもしれない顔を見られたくなくて、積荷に身を預け、背中を丸めて寝るふりをした。
孝宏には皆に黙っている秘密があった。
それは例えるなら、家で一人の時は裸でいるだとか、実はおねしょをしただとか、他人からすればどうでも良いもの、孝宏にはその程度の感覚だった。
しかし、今になって何よりも重大だったと思い知らされる。
今更どうにもならないのはわかっている。忘れようと努めて、考えないようにすればするほど、唐突に頭の中であの声が囁く。
このままでは罪悪感に押しつぶされそうだった。
この世界に落ちて来てしまったあの日、孝宏には予感めいたものがあった。誰にも言わず、自分自身が信じず忘れようしたもの。そして現実になってしまったもの。
「気分でも悪い? 」
ルイの手が孝宏の額に当てられた。冷やりとしてとても気持ちが良いが、一瞬体が強ばる。
「少し熱いかなぁ。鳥の力を使ったためかも知れない。すごく濃い魔力だったし、体への負担が大きいのかも」
今は心配してくれるルイが、いつ真相に気付くともしれない。
孝宏の鼓動が速く打つ。
孝宏はルイの手をやんわり払いのけた。
「俺もともと体温高いから。全然平気だよ」
嘘ではない。体調は本当に悪くないはずだ。そう見えるとすれば、それは孝宏の恐怖心が滲み出ている為だろう。
「そう……なのか?」
外見に大差なくとも異界人同士。ルイは違和感を感じつつも、そんなものかと頷いた。
その時ルイはあることを思いついた。
「ならさ、魔力の制御を覚える良い方法があるんだけど、試してみない?」
そう言って笑顔で手を差し出すルイに対して、孝宏は一抹の不安が過ぎった。唐突な申し出なのもそうだか、行為そのものも何か引っかかる。
「それってまさか、ルイの魔力を俺の中に流したり…………その……色々するやつ?」
「そうそう。僕がタカヒロの魔力を誘導して制御の補助をするんだけど……前にした事あったっけ?」
孝宏はやはりと思った。
以前カダンにされたアレが、ルイの言う良い方法だろうが、確かあの時は火を噴いて、カダンを吹っ飛ばした。
(あれは、不味いよな。それにあれすごく……かったし)
「何?怖いの?大丈夫。意外と心地良いもんだよ」
うつ向いたまま考え込んだ孝宏の顔が怯えているように見えたのか、ルイの言いようは、幼い子供に言い聞かせるものだ。
(俺と四つしか違わないじゃないか)
あの時怖かったのは確かだし、今もそう見えるのも仕方ないとしても子供扱いは不本意だ。それにあの苦しさは体験した人でないとわからないだろう。
「やったことあるよ、前に………………カダンが。だからもう大丈夫。いいよ」
何が大丈夫なのだと、自分で自分に内心で突っ込むが、当のルイからは予想外の反応が返ってきた。ルイは意味ありげに苦笑いを浮かべる。
「カダンに!?それはそれは……」
「カダンが相手なら、大変だったろう?」
二人の会話が聞こえていたらしく、馭者席のカウルが言った。ルイも何度も頷く。
「カダンの魔力は特別だから、常人にはとても辛いと思うよ。カウルなんて気を失ったしね」
「ほんの少しだろ。そういうルイだってしばらく立てなかったじゃないか」
「う……カウルよりは耐えたよ。タカヒロはどうだった」
「え?俺?」
あの時孝宏はどうだったか。少なくとも心地良いものじゃなかったのは確かだ。
初めは大した違和感ではなかったが、次第に頭がぼうっとしてめまいがしてきた。
それから違和感が徐々に大きくなり、終いには立てなくなるほど息苦しくなった。
孝宏は細かな描写は避け、大まかに伝えた。
「だんだん息苦しくなったの?へぇ……」
ルイは意外そうに頷き、外のカウルも短く相槌を打っただけだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる