39 / 180
冬に咲く花
37
しおりを挟む「何か変?」
「いや、何でも。ただ僕らの時と違って、カダンは随分優しいなと思ってね。僕たちの時は、ちょっとずつじゃなんて配慮はなかった」
カウルとルイは、自分がどれだけの衝撃を受けたか孝宏に言い聞かせた。
孝宏の体験よりも悲惨だったと。身内だからか遠慮がない分、激しい魔力の圧に死ぬかと思ったと、自身の体験を力いっぱいに語った。
「初めての時、俺は手を握った事しか覚えてなかったぞ。気がついても脳が揺すぶられているみたいでその日は飯が食えなかったな」
「僕は意識はあったけど即効で立てなくなった。あの後熱が出てね、しばらく寝込んだな。まあ、何回か繰り返せばなれるんだけどね」
「ルイは俺よりも長い事特訓してたよな」
「僕はカウルより繊細だからね」
(あれで、優しくされていたのか?そいつは……驚きだ)
三人の勇者の中でも、一番の落ちこぼれで魔術も満足に使えない。
彼の落胆ぶりは肌で感じ取っていたし、期待が大きかった分その落差も大きい。
孝宏ずっと、ひょっとすると、カダンに嫌われてるのかもしれないと思っていた。
「そう意外そうな顔しないでよ。カダンは素直じゃないだけだから」
孝宏が、もしかすると勘違いかもしれないと僅かに持っていた希望を、皮肉にもルイのフォローが否定した。
少なくとも自分に対してよそよそしい態度であったのは間違いないようだ、と孝宏は思った。
「苦しかったのはわかる。僕らもそうだった。でもその分、効果は抜群だよ。魔力が濃い分はっきりと感じ取れるからわかりやすいんだよ」
「へ、へぇ。まあ確かに解り易かったかも。ルイの杖で火柱で出したのあの後すぐだし」
(でもあの後も制御をできてない俺って、もしかして不器用なんじゃ)
「待てよルイ。うっかり聞き流す所だったが、お前タカヒロにこれをしていないのか?マリーにはやっていただろう?」
孝宏にとっては随分と不公平で、寝耳に水な情報だ。孝宏が批難の目を向けると、ルイは顔面に貼り付けた笑顔でこちらを見ていた。
「あ、いや?たまたまタイミングが合わなくて、する機会がなかったんだ。………………ゴメンネ」
「鈴木さんには?」
孝宏のルイを見る目は厳しい。
マリーが特別扱いなのか、それとも自分だけが特別なのか、その差は大きい。出来れば前者であって欲しい。後者だったらきっとしばらく立ち直れないだろう。
「そう考えるとこの三人の中で、一番すごいのは自力で魔法を会得したスズキだね」
ルイは胸の前で腕を組んで、したり顔で何度も頷いた。孝宏はほっと胸をなで下ろしたが、冗談めかして何とか誤魔化したいルイに、ちょっと意地悪をしてやろうとにやりと笑った。
「ルイってさ、いやらしいのな。訓練建前にして、マリーに触りたかっただけだろ?」
ルイの表情が引きつり固まった。肯定したも同然だ。ルイは孝宏の胸ぐらに掴みかかり凄んだ。
「タタカヒロ!?なな、何、根も葉もないことを言ってるのかな!?僕はただマリーの訓練になればって」
「す、け、べ」
「てめっ、その口削いでや……」
「そういや、なんでマリーは静かなんだ?」
荷物の影に隠れて見えなかったが、マリーは自分のバッグを枕に規則的に寝息を立てていた。
これほど騒いでも起きてこない所を見るに、寝入っているようだ。
ルイは気が抜けて浮いた腰を下ろした。どうやらマリーから助平呼ばわりされるのは回避でき、安堵したようだった。
「おい、マリーを起こせ」
外のカウルが言った。声の調子が嫌に重いのは気のせいだろうか。
「ソコトラが見えてきた」
遂にソコトラに着いてしまった。ルイにも緊張の色が浮かぶ。孝宏はますます腹の奥がズンと重くなった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる