超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

文字の大きさ
49 / 180
冬に咲く花

47

しおりを挟む

 カダンのナルミーに対する態度は辛辣で、初めから礼を言う雰囲気など皆無だ。ナルミーもカダンに何も言い返さないどころか、ますますニコニコと笑顔を向けている。

 二人にしかわからない、彼らの関係が気になるところだが、間に挟まれ見ているだけの孝宏は、居心地が悪い事この上ない。


「そういえばさっきチラリと聞こえたのですが、無詠唱が何とかって。それ何のことです?」


「おや、聞こえたのかい?すごいねぇ。彼のさっきの火の魔術、呪文もなかっただろう?道具を使ってるようにも見えなかったかし。あれだけの魔術を呪文なしにどうやったのか知りたくてね」


 それを聞いたカダンは憂鬱そうに眼を細めた。


「まさかそれ、本気で言ってるんですか?」


 声の抑揚は変わらず辛辣だ。

 高くも低くもなっていない。それなのに、孝宏にはどうしてか雰囲気が変わったように感じた。首の後ろがざわざわする。


「詠唱した決まってるじゃないですか。呪文なしに、魔法が使える魔術師なんていませんよ」


 孝宏は横目でカダンを見た。

 彼の瞳は深い海色に光を湛え、何か言う度、口から小さな光が零れた。

 覚えのある光景に瞬きも忘れ、孝宏は目を見張った。

 緊張から声が詰まり、背筋が震えた。

 これは見てはいけないものを見てしまった時に似ている。本能が警告を鳴らし、口を噤め、考えるなという。


 胸の奥でチリチリ火が灯り、熱が渦巻き弾ける。投げ出した掌で小さい火の粉が、誰にも気づかれず散った。


 孝宏には警告の正体が何かわかるような気がした。


 カダンの視線はナルミーに向けられたまま、嫌味っぽく笑い、目を細めた。


「まあでも、詠唱が聞こえなかったのは同然ですね。とても小さな声でしたから。それに、そのせいで途中魔力のバランスを崩して、魔法が暴走してましたし。彼にはまだまだ修行が必要ですね」

「そうなのかい?そう言われてみれば、そうかもしれない。……うん、もしかしたら口は僅かに動いていたような気がするよ。でもやっぱり声は聞こえなかった」

「私は狼ですから、耳が良いんです。それにいかに魔法を隠すか、魔術師たちは競っています。素人にわからなくても仕方ありませんね」


「素人……ね。魔術に関してもっと勉強するよ」


 ボウクウは肩を竦め、やや大げさにため息を吐くと、器を孝宏に預け、建物へ戻っていった。


「タカヒロとマリーは人前で、さっきの力をあまり使わない方が良いみたいだね」


 ナルミーが建物に入り、見えなくなってから、カダンはそう言った。

 呪文の詠唱がないのが、どれほど重要なのか、孝宏は理解できていなった。それがどうした、くらいの意識しかない。


「珍しいどころじゃない、ありえないよ」


 詠唱を巧みに隠す魔術師はいても、詠唱なしに魔法を使う人はいない。だからこそナルミーも興味を持ったのだ。


 もちろん例外もある。

 あらかじめ術式の組み込まれた道具を使えば、呪文の詠唱も、長く複雑な術式を覚える必要もない。

 もしくは短い音だけで魔術を発動させることができるがこの場合不安定になりやすく、熟練の魔術師が使う手法とされている。

 どちらもこの場で誤魔化す言い訳には向かない。

 鳥の炎で弱った後とはいえ、結界を打ち破ったマリーも、彼らの目に留まったかもしれない。


「取りあえず今は注目を浴びるのはマズい。地球人をどう説明して良いか分からないし、最悪間者扱いなんてこともありえる」


 この状況下での厳しい検問は何なの為に行われているのか。

 未知の生物の侵入を防ぐためと、対外的には発表しているが、おそらくはそれだけではないのだろう。


「スパイに…………もしそうなったら?」


「まあ、無事に太陽を拝むのは難しいかもね」


 無実だとしても、身分を証明するものが何一つない孝宏たちには、潔白を証明するすべがない。


「マジか…………なんだってこんなことに……」


 兵士らの歓喜の声が脳裏に蘇った。

 歓声を受け止めた背中に電流が走り、椀を持つ手に力が入る。椀が小刻みに震え、中のスープが上下に踊った。


「大丈夫。タカヒロもマリーも絶対に守るよ。大事にならないように、一緒に考えよう。俺はまだ詳しい事情を知らないけど、二人の力が驚異的なのはよくわかった。後で、詳しく聞かせてよ。どうして二人がこんな力を持っているのかね」


 瞳に湛える光はなく、いつもの彼に戻っていた。彼は寂しそうに微笑んで、目を伏せるのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...