超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

文字の大きさ
60 / 180
冬に咲く花

57

しおりを挟む
 教会までは知っている光景だったが、その奥は想像以上に悲惨だった。

 一面黒く煤けた大地が広がる。

 足を踏み入れるのに、多分な勇気を振り絞らなければいけないだろう。


「だ、誰か……いませんか?」


 声が震える。孝広は心の中で自分を叱咤し、足を村の奥へ進めた。




 それから数時間、孝宏はできるだけ丁寧に、村の中を見てわまった。

 本当は生存者でも発見できればと思っていたのだが、今の所、奇跡は起きていない。

 ないよりは良いだろうと、運よく焼け残ったものを集め、袋の中は少しずつであるが増えていた。


 その頃になると、耐火用布が存在感を増していた。


 そこはまさに地獄と呼ぶにふさわしく感じた。


 一面の焼野原には生き物の気配はなく、辛うじて焼け残った人形や道具たちが、現れもしない持ち主を待っている。


 それから回収されず放置された、もう動かない人々もまた、誰かを待っている気がした。



 テレビでは決して流れない現実が、孝宏の目の前に広がっている。


 今が冬なのが何よりも幸いだったと、心の底から思った。


 村の奥では、毒を噴き出す獣もいくつか見た。それに火が有効だと知ったのは単なる事故だった。


 建物の陰に獣の死体があったのだが、焼け残ったものがないか、探すのに夢中になっていた孝宏は、気が付かず、うっかり傍まで近づいてしまった。

 防火用布はともかく、剥き出しの手に走る激痛に、孝宏は火を力任せに飛ばした。


 すると獣は燃え上がり、一瞬にして、毒の霧までもが消えてしまったのだ。


 それから孝宏は探しながらも、目につく獣をすべて燃やして回った。

 何かあった際、人間側が立ち回りやすいようにだ。


 関節が痛むのも、体が鉛のように重くなるのも、恐怖と後悔の念でねじ伏せた。




 それまで見てきた中で、割と原型を留めている建物の中を覗いた時だった。

 原型を留めているとはいえ、壁の一部と屋根はほぼ崩れ落ち、室内は外気に晒されている。

 黒く炭化した室内を見るに、ここも他と違わず、炎にまかれたのだろう。


「誰か、いますか?」


 とても静かだった。

 自分の荒い息でさえ、恐怖を掻きたてる。


 溢れる涙は拭わず、嗚咽を止める術もなく、感情を制御することなど、もはや不可能だった。火は絶えず零れ出て、耐火用布は内側から溶けはじめていた。


 奥の台所には回収できそうなのは残っておらず、孝宏は右手のドアから奥へ進んだ。

 一つ目の部屋は屋根どころか、壁も崩れ、部屋そのものがなくなっていた。

 二つ目の部屋も屋根はなく、壁は残っていたが、ヒビが入って今にも崩れ落ちそうだった。


「誰かいませんか?」


 耳を澄ましても誰の返事もなく、瓦礫をいくつかどかしてみたが何も見つからなかった。


「何も……ない」


 孝宏は安堵のため息を吐いて、また泣いた。


 最後の部屋を覗いた時、孝宏は驚いた。


 部屋のドアと入り口付近は黒く焼け、壁の一部がはがれ落ちているだけで、大部分がソックリそのまま存在していたのだ。


 部屋はさほど広くなかったが、天井まである本棚で埋め尽くされ、それらは煤で汚れているだけで、焦げてすらない。

 棚に並ぶ本は魔術書が大半を占めていた。

 一部本が並んでいない棚には、術式を細工した、様々な魔法具が並んでいる。


 町中が瓦礫と化し、崩れずに残っていた建物は、オウカが守った教会一つだけ。


 この建物だけを見たとしても、部屋は異様だった。


「ここはルイたちに見せた方が良いのかもしれない」
 

 孝宏は直感的に思った。

 棚の中から何かの役に立つかもしれないと、いくつかの魔法具と、机の上に置いてあった手書きのノートを一冊、他とは別の袋に入れた。

 逆に多すぎる本は手を付けなかった。キリがないからだ。


 孝宏が部屋を出ようとした時、崩れた壁に見覚えのある模様が描かれているのに気が付いた。

 真下に落ちていた崩れた落ちた壁を拾って合わせてみると、それは円の中に三角が二つ、上下逆に重なり合っている、いわゆるダビデの星に酷似た模様だった。


「これってあれだろう?魔法物とかでよく出てくるやつ」


 壁に描かれた模様は線ではなく、小さな文字が並んで描かれており、その文字の羅列は、孝宏の知る術式に良く似ていた。

 さらには剥がれた落ちた壁中に、布地の質感を持った物体を見つけた。孝宏が壁を剥がし、奥の物を取り出してみると、出てきたのは一冊の小さな、おそらくは手作りとおぼしき絵本だった。

 左のページに手書きの文字と、右のページにはおそらく子供の書いた絵。

 青色の装丁、厚さは一センチはあるだろうか。背表紙はなく、紐でしっかり閉じられている。

 表紙に題名はなく、壁と同じ魔法陣が描かれており、裏表紙にも雰囲気の違う魔法陣がある。


 内表紙に書かれた題名は《勇者の物語》


 他と違い明らかに隠されている本を、持って行ってよいものか。孝宏は迷った挙句、上着のポケットに入れた。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...