超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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冬に咲く花

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「ご…………んな……ごめ……」


 虚ろな表情で火を眺める孝宏の瞳から、涙が一筋流れ落ちた。

 唇が繰り返す微かな呟きに気付き、労いの言葉を掛けようとした三人が言葉を飲み込み、しばし呆然と立ち尽くす。

 彼がこれほど素直に人前で涙を見せたのは初めてで、三人は顔を見合わせ、互いに心当たりを探るが、誰も思い当たらない。


「ごめん。ごめんなさい。ごめんなさい」


 泣きじゃくるでなく、静かに涙を流しながら、繰り返し謝る孝宏。

 何に謝っているのか、カダンが尋ねた。

 すると孝宏は一瞬肩を大きく震わせ、唇を噛んで黙る。

 彼は明らかに怯えいた。


 孝宏は振り返った。カウルと目が合うと表情を強張らせたが、目を閉じ呼吸を整えると、体ごと向き合い、固い鉄の上で正座した。


 そして意を決し、口を開いた。


「俺、知ってた」


 告白しようと決心しても、いざ言うとなるとどうしても言葉が出ずに、今さら二の足を踏んでしまう。

 孝宏の唐突の告白に困惑した三人も、次の言葉を待っている。


「……何を?」


 痺れを切らしてカウルが尋ねた。

 ただ孝宏の様子から、良い話でないと、想像が付いているらしく、表情は曇っている。

 孝宏はカウルの目を見れず俯いてしまった。


「村が………襲われるって……知ってた」


 カウルが凍り付いた。


「それがどうしたって言うんだ?あれだろう?カダンが言っていた、夢の話だろう?ユウシャが現れたから次はってやつ。そんな事皆知ってる。カダンから聞いてたしな……そう言うことだろう?」


 カウルは自分で言っていても何か違う、そういうことではないと、心のどこかで解っているのだろう。声が震えている。

 ここでそうだと言って、話を誤魔化すこともできるかもしれないし、そもそも黙っていたなら誰も傷つかなかった。

 わかっていながら、孝宏は声を荒げ否定した。


「違う!この村が……って言うか、正確にはコレーが襲われるって知ってた。人がたくさん死ぬって解ってたんだ!」


 とんでもない事を、大声で口走った孝宏に、カダンはぎょっとし慌てて孝宏の口を塞いだ。


「自分が何を言ってるのか解ってる?」


 声を潜めて言ったがすでに遅かったようで、離れた所で見張りをしていた兵士が、訝し気にこちらを気にしている。

 今の話を聞かれていれば、孝宏は間違いなく連行されるだろう。

 兵士は両手で持つ槍を構え直し、こちらに歩いてくる。彼の目には困惑の中にも、敵意が見え隠れする。


「捕まりたくなかったら、少し黙ってて。良いね?」


 カダンは孝宏とカウルに念を押して、兵士に近づいて自分から話しかけた。


 兵士は不意に耳にした、不穏な話の審議を確かめたがっていたが、幸いにもはっきりと聞こえていなかった為、カダンが暗示で上手く誤魔化した。

 だが、このままここで話をしていると、今度こそ聞かれてしまうだろう。

 カダンは孝宏を休ませると言い、兵士たちが治療を受けるテントではなく、自分たちの車へ移動した。





 


 この世界に来た時、この国の言葉だけではなく、これから起こるであろう、いくつかの出来事を何故か知っていながらも、誰にも言わず黙っていたと、孝宏は正座し顔を俯けながら打ち明けた。


「どういうことだ?まさか皆を見殺しにするつもりだったのか!?説明しろ!」


 孝宏が言い終わるや否や、カウルは孝宏に掴みかかり、襟首をぎゅっと締め上げた。

 呻きながらも抵抗しない孝宏を、揺する彼の目は必死で、周囲の静止など耳に入っていない。


 否応なく目前に突きつけられるカウルの顔を、滲む涙で歪ませながら、孝宏は吐き出すように言った。


「本当になるなんて思わなかったんだ!これはただの…………俺の思い込みだって!……思って…………」


 孝宏は断罪される罪人の気分だった。


 異世界に来て、一番信じられなかったのは自分自身だと言ったら、彼らはわかってくれるだろうか。


 知らない言葉を当たり前のように喋り、記憶しているはずのない未来を知っていた。

 それらを受け入れるには、あまりにも変化が大きすぎた。


「だから、ごめんなさいか?」


 カウルの手が緩み、孝宏は苦しさから解放された孝宏が、大きく咽て背中を丸めた。

 大きく息を吸い込み、苦しくて唸っていたのが、いつしか嗚咽に変わり、両目から零れ落ちる大粒の涙が床に染みを残し、吸い込まれ消えていく。


 しばしの沈黙の後、孝宏は言った。
 

「違う……俺は帰りたい。地球に帰りたい。帰って友達に、家族に会いたい」


 カウルを見上げ、しっかりと目を合わせた。


「だから、ごめん!俺は勇者にはなれない…………俺は地球に帰りたい!」


 車内は水を打ったように静まり返り、思い沈黙の中、カダンが黙ったままフラりと外に出て、カウルがそれを追った。




 車内に取り残され、マリーと二人きりになった孝宏は、急に気恥ずかしくなり、袖で涙を乱暴に拭いた。


「家族に会いたいからって言って、誰があんたを責められるっていうのよ。私だって会いたいもの」


 マリーは立てた膝を両手で抱え、顔を埋めて言うのだから、声が少しくぐもっている。


「でも、マリーは帰らないんだろう?」


「ん、約束したから帰らない。」


 決して帰れないとは言わない。


 孝宏は息を整えると、おもむろに車の外に出た。先に出た二人を探す為ではない。


「どこに行くの?」


「さっきの場所に戻る。俺が見落としたやつが、まだ生きてるかもしれないし。それにあそこにいれば、いざって時に役に立てるかもしれないじゃないか」


「私も付き合う」



 結局孝宏とマリーは、朝を壁の上で迎えた。













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