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冬に咲く花
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しおりを挟む凶鳥の兆しの火は一晩をかけてすべてを焼き尽くし、崩れ残っていた外壁さえも、細かな石と砕けてしまった。
残されたのは黒く焼けた広い大地と、それを眺めるだけの人々。
ルイが目を覚ましたのは、そんなすべてが終わった、更にその翌日だった。
地面に一枚敷いただけの寝床に、他の兵士たちと一緒のテントの中。
カウルが傍で付き添っていた。
「ルイ、目を覚ましたのか。良かった」
両腕と胸から上、口までを包帯で巻かれたルイは喋らない。
無言で立とうとすると、カウルがさっと手を差し出した。
「外を見たらお前、きっと驚くぞ」
ルイはカウルに支えられテントの外に出た。
「あれは……雪?」
包帯の下でルイがくぐもった声を出した。
数日前まで村であった大地は、今は黒いシミ一つない白化粧へと変わっていた。
冬とはいえ、この地方では雪が積もるのは年に一回あるかどうか。どれだけ寒くても、雪が積もるのは珍しかった。
困惑するルイを、カウルはそれが良く見えるよう、近くまで連れて行った。
近づいても白い大地は変わらない。
しかし、それは真冬の雪ではなく、小さな白い花だった。
小さな白い花はどこまでも大地を覆い、一面を白に染め上げていた。
ルイは自分が見ている光景が信じられず首を横に振った。
「これ春告草じゃないか。まだ咲く時期じゃない。何だって真冬に?それに、村が跡形もないなんて……」
「驚いたろ。昨日は気配すらなかったのに、今朝起きたらこうなってた。村は……あの後色々あって…………全部燃えちまった」
カウルはルイが倒れた後何が起こったのか、できるだけ細かく伝えた。
化け物に襲われ、皆が戦ったこと。
村を壁で覆い、化け物を閉じ込め燃やしたこと。
それは一晩中燃えていたこと。
実は孝宏は村が襲われると知っていたこと。
それを誰にも言わなかったこと。
孝宏自身に起こったすべてのこと。
さらには、孝宏が異世界に帰る方法を、探したいと言ったこと。
だから最後まで、付き合えないかもしれないこと。
そして、彼が泣きながらすべてを告白したこと。
ルイは目に涙を浮かべ、黙って聞いていた。
「話を聞いていたらさ、だんだん腹が立ってきて。だけど、俺が何に対して怒っているのか、自分の事なのによくわからないんだ。ただ……ただ思うのは…………あんな話聞かなければよかったって」
カウルの声が、心なしか震えている。ルイがカウルの手を握って言った。
「ああ、本当にそうだ……聞かなきゃよかったよ」
白い大地からは壮絶な戦いどころか、かつて村があったことすら想像できない。
二人だけではない。何人もの村人が、見渡す限りの白花の絨毯に見入っていた。
「いつもこの花が咲いたら、祭りが始まるんだがなぁ」
隣で一人座り込む、初老の男が言った。
するとその前方で遊んでいた、幼い兄妹が嬉しそうに男に尋ねた。
「お祭りがあるの?いつ?」
「今年は無理だろうねぇ」
困って言葉を濁そうとする男の代わりに、傍で見ていた見知らぬ若い女が答えた。
幼い兄妹を優しく抱きしめると、しょうがないよね、と呟く。
「そういや、毎年楽しみにしてたな。祭りの屋台」
ルイが幼い頃の記憶に酔い、目を閉じた。
「ああ、結構美味かったよな、あの花酒。子供は一杯だけなのにおかわりが欲しくて、こっそり買って怒られた。覚えてるか?」
ルイが目を開くと、カウルと目が合い、自然と笑みが零れた。
「覚えてる。父さんの分だって言って、嘘ついて買ったよな。そして祭りの最後は広場の大きい松明囲んで、必ず歌うんだよ。ああ、でもしばらく歌ってないや」
「何って歌だったろう?変わった題名だったような。え……と……」
「コレーの娘だよ。お兄ちゃん達知らないなら、私が教えてあげる」
そう言ったのは、まだ小さい女の子だった。いつの間にか二人の側に立っていて、小さな手でカウルのズボンを掴んでいる。
「歌えるのか?」
ルイが言った。
少女はえへんと咳払いをし、背筋をしゃんと伸ばし口を大きく開いた。
「とーとーぉさーまーぁうーちーへー かーえぇえってぇおーいーでー」
少女の声は甲高く、とても澄んでいた。それに幼い兄妹の伸びやかな歌声が加わり、カウルとルイが続いた。
「かかさまおんもへよんどいでーはーあぁなーがぁさーいーたーむーすーめーよぉおーいーでー」
聞きなれた歌に周囲の人々は拍子をとり、同調して歌いだした。
歌はこだまとなり、春告草の広がる大地に響き渡った。
父様家へ帰っておいで
母様おんもへ呼んどいで
花が咲いた
娘よおいで
母様おんもへ呼んどいで
春が来たよと呼んどいで
花が咲いた
風よ歌え
春の娘が帰ってくる
伝えておくれ
風よ歌え
女神さまが目を覚まし
実りの季節が蘇る
第一章『冬に咲く花』完
第二章『夢に咲く花』へ続く
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