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夢に咲く花
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しおりを挟むそれからどれだけも時間は経っていなかった。
孝宏は二人の口論に辟易し、気分を紛らわしたくて、風が織りなす音に耳を傾けていた。
木々や草が擦れ揺れる音が、森の奥から聞こえてくる。
初めは風が吹き抜けた位にしか思っていなかったが、寧ろだからだろう、違和感に気が付いたのは割と早かった。
風が紡ぐにしては、音に重量感があるし、音と風が一致しない。
(ただの動物だよな……まさか例の獣が…?)
ソコトラから離れたとはいえ、初めの襲撃からずいぶんと経っている。例の獣たちは広く遠く散ってしまって、どこにいても安全なんて保障はない。
その時の為に、ルイが周囲に結界を張ったのだが、それでも万が一という事もあるだろう。
「カウル、ルイ。茂みの向こうに何かいないか?」
孝宏が二人の側の寄り小声で言うと、とたんに二人は口を閉ざした。茂みの向こうに目を凝らし、周囲の音に耳を傾けている。
カウルが傍に置いてあった剣を手に取り、ルイは顔を覆った覆面の下で呪文を紡ぎ始めたようだった。
しかし、二人ともが遅かった。敵はすでに行動を起こし、孝宏たちを捉えていた。
孝宏は顔を動かさず、目だけを左、右、正面へと動かした。周囲の音が増えていき、幻聴だろうか、四方から息遣いが聞こえてくる。
(まさか、またあれが始まるのか?)
脳裏に過るのは、ソコトラで目に焼き付けた光景だ。
奥歯を噛み締め堪えても無意識に呼吸が早くなり、筋肉が痙攣し体が震えて止まらない。
──きゃぁぁぁぁぁぁあああああ!!!──
突然、茂みの奥から、マリーの悲鳴が聞こえてきた。そして、悲鳴に気を取られた一瞬の隙を突き、茂みで息を潜めていた者達が一斉に飛び出してきた。
四方で白い発光が飛び交い、目の前で魔術の光が弾けた。
孝宏は焦って立ち上がろうとしたが、その時には足がピクリとも動かず、それどころか腕も上がらないし、首を傾けることすらできなかった。
圧力が外側から内側へかかり、気を張ってなければ、そのまま押し潰されてしまいそうな気さえする。
孝宏は潰され小さく丸まった自分の姿を思い浮かべ、足先から恐怖がジワリと這い上がってくる。目の前が暗く陰る錯覚が襲う。
孝宏は腹の奥に力を込めた。
(おい、凶鳥の兆し、助けてくれ、火をくれ。凶兆の兆し?あれ?出ろ!お願いします。助けてくださいってば)
心の中で、自身の腹に住まう鳥に、何度も呼びかけたが答えはない。その代り両腕に付けた銀色の金属が冷やりと冷気をまとい、重さを増した。
オウカの術式は見事だった。ルイが術式を彫り、仕上げにカダンが魔力を込めた魔術具は、見事に凶鳥の兆しを封じ込めた。
いくら孝宏が呼びかけても、今は気配すら感じない。
(くそっ……どうすりゃいい!?)
茂みの奥、闇の中から姿を現したのは、例の化け物などでなく、二本の足で立って歩く、まぎれもない人間だった。
「何だい、ずいぶんとあっけないじゃないか」
「だなあ。もっと手こずるのかと思ったら、あっさり捕まったじゃぁないかい」
「これなら、こんなに大勢で来る事なかったんだぁ」
「いやいや、結界はなかなかの代物だった。用心はしていたんだろう。そう言ってやるな」
一人二人、三人……男たちは全部で四人。こんな森の奥には似つかわしくなく、妙に小奇麗な恰好の男たちは、およそ犯罪にかかわっているようには見えなかった。
短く整えた髪は薄い赤色で、身のこなしも丁寧だ。だた、日に焼けた様な浅黒い肌が、唯一男たちを夜にふさわしく仕立てる。
中でも一番最後に姿を現した男はどっしりとした体格で、一人だけルイと同じように顔をターバンで隠していた。
その男がルイを視界に捕え、顎をしゃくり上げると、他の三人がすぐさま行動に移した。
男たちはまずルイのターバンをはぎ取った。
孝宏はその光景を視界の端で捉えているが、男たちの行動を見ているだけだ。何もできない歯がゆさに、奥歯にぐっと力を込めた……つもりになる。
「へえ、せっかく良い値で売れそうなのに勿体ねえ」
男たちの一人が卑下した笑みを浮かべ、仲間にも良く見えるよう、ルイの頭を掴み上を向かせた。すると別の男が身を屈め、ルイの頬骨から首筋にかけて指でなぞる。火傷の具合を見ているようだが、その距離は息がかかる程に近い。
「このくらいなら……まあ、時間はかかるかもしれないが、まあ、おそらく綺麗な顔に戻せるさ。そんで双子をセットで売れば、高くで売れそうじゃないかい。こいつぁ、良い仕事じゃい」
また別の男が何かに気が付き、土にまみれた手で乱暴にルイの両耳から飾りを奪った。
「こいつが魔術師だぁ。気を付けろ。何するかわかんねぇぞ」
「他にも持ってるかもしれん。念入りに調べないとな」
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