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夢に咲く花
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しおりを挟む男たちは次に孝宏を囲った。興味本位にぎらぎら光る視線が頭上から降り注ぐ。
男たちの視線に晒され、孝宏は無作為に視線を彷徨わせてみた。ルイやカウルを真似てみたのだが、どうも難しい。至近距離で見つめられれば、どうしても不自然さが残る。
しかし初めこそ怪しまれもしたが、男たちは深く考えていなかったのか、幸運にもバレずに済んだ。
男たちは気軽に人形の品定めでもしている気分なのだろう。
男たちはうすら笑みを浮かべながら、孝宏を子供だと言い笑い合った。
「こんなんじゃ、値が付くのかも怪しい。本当に大丈夫なんですかい?お頭」
お頭と呼ばれたのは、何もせずただ立って見ているターバンの男だ。
「もしも奴隷にするなら、少々厄介な年頃だが……まあ、悪いようにはならないさ」
誰もが同じように笑っていたのだが、男の一人が何かに気が付き、笑ったまま顔を引きつらせ、言葉を失った。
「どうした?相棒。さっさとそれを取っちまいな。ふん、魔法具なんて付けてやがる。生意気なガキめ」
これ幸いと孝宏は心の中で得意気に舌を舐めずり、盗賊まがいの連中を一気に焼き払うつもりで、怒りを腹に溜め始めた。
しかしその男はなかなか籠手を取ろうとせず、むしろ眺めては、奇妙にもぶつぶつ言い始めた。
仲間の二人も、ターバンを巻いた見ているだけの頭の男も、何も答えない男にじれったく思い始めていた。
苛ついた様子で頭が、どうかしたのかと尋ね、男はようやく口を開いた。
「お頭、こいつはもしかすると取らない方が良いかもしれん。むちゃくちゃじゃい。何かがおかしい気がする」
「おかしいってどういうことだ?」
「こいつは封印具なんじゃが、ただの封印具ってだけなら、何て珍しいことはない。しかしこれは…………こんな子供に付けるようなチャチイ代物じゃあねぇ。しかも術式はめちゃくちゃで、それでもしっかり封印具して機能している」
「………つまりどういうことだ?」
「この形式の代物を作れる職人は、ほんの一握りしかいない。と言ってもこれはそれほど複雑じゃあねえから、俺でも読み解けるがな」
相棒と呼ばれた男は一度言葉を区切り、咳払いをした。
「一見するとこれは単純な、しかも術式を間違えて彫ってあるんじゃが、本当はいくつもの封印の術を、掛け合わせた式になってるんじゃ。様々な術を組み合わせる事により、複雑かつ、封印の強度が増す。これをそこらへんの魔術師が着けても、動くのがやっとか、もしかすると動けんかもしれん…………これほど強力な魔法具を着けて、平気な顔をしているこの子供は間違いなく…………化け物じゃい」
「お前がそう言うならそうかもしれねえな。よし、お前ら、このままこいつらを拘束しろ。万が一魔法が解けても、抵抗できないようにしっかりな」
男たちは孝宏たちをロープで縛り、カウル、ルイ共々一か所にまとめ、周囲に小さな像を三体置いた。
三つの像は光を放ち、それぞれを結び、淡く銀色に発光する壁を作り出した。壁の向こうが霞む。
これからどうなるのだろうと、孝宏は転がされたまま、男たちを盗み見た。
盗賊か山賊か。こんな輩をなんと呼ぶのかは知らないが、身なりは良くとも、中身は碌な人間じゃないのは確かだ。
(きっと逃げる隙はあるはずだ…………何か……どこかに、きっと……)
ふと茂みの向こうが気になった。
マリーの悲鳴は聞こえたが、カダンの声は聞こえなかった。遠くの匂いも嗅ぎ取れるカダンだ。もしかすると無事に逃げて、様子を伺っているのかもしれない。
(全員捕まったとかないよな?洒落にならん)
孝宏は男たちの視界から完全に外れたのを確認して、少しだけのつもりで目を閉じた。暗転の中で、腹の奥を探る。
いつも感情のままに疼く腹の奥も、籠手を装着してからと言うもの、それまでが嘘のように静まっていた。
火が噴かないよう常に気を張っていたので、心の平穏は取り戻したが、おかげで今は窮地に立たされている。
カダンやルイは魔力の制御ができるようになれば、自分で外せると言っていたが、そんな日はいつ来るのだろうか。
(俺、いつまでもこのままのような気がする)
──そんなことはないさ。やろうとすれば、案外今すぐにでもできるかもよ?──
不意に聞こえてきた声。孝宏は男たちに目を向けた。
幸いにも、男たちは背を向け何やら話し合い、こちらを見ていなかった。
(ああ、でもこの男たちの声じゃなかった。誰だろう?もしかしてカダン?)
それとも、ここに他の人がいるのだろうか。周囲を探ろうにも、体が動かせないのでは、見える範囲は限られている。
孝宏が知る限り、自分たち以外では車を引く牛が二頭だけ。
(やべっ!)
周囲を伺っている時、孝宏はうっかり男の一人と目を合わせてしまった。
慌てて逸らしたのが、余計に不自然だったのかもしれない。
それは孝宏を化け物と言いきった男で、猫背気味の背中を一層丸め、ジットリと孝宏に視線を向けてくる。男がゆっくりと結界の傍に歩み寄り、孝宏の様子を伺う。
孝宏は視線をまっすぐ地面に向けたが、とても誤魔化せるとは思えなかった。
自身の荒く震える息づかいが嫌に耳に付く。心臓が激しく打ち付け、焦りが孝宏を一色に染め上げた。
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